ネットユーザーに送る「十か条」
今回はRootportさんのブログ『デマこいてんじゃねえ!』からご寄稿いただきました。
ネットユーザーに送る「十か条」
最近、『逆説の十か条』というものを知った。数年前にネット上で大流行したらしい。が、恥ずかしながら私は知らなかった。ネットは広大だ。とてもいい言葉だと感じたので、このブログでも紹介したい。
◆逆説の十か条とは?
アメリカの行政官僚・講演家であるケント・М・キースが、ハーバード大学在学中に高校生に向けて書いた言葉。マザー・テレサの目に留まり、世界的に有名になった。
1、人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。それでもなお、人を愛しなさい。
ネットユーザーは気まぐれで、熱しやすく冷めやすい。ダブルスタンダードなんて当たり前で、平気でウソをつくし人を裏切る。それでもネット上で言葉を発するのなら、そんなネットユーザーを私たちは愛しつづけよう。
2、なにか良いことをすれば、隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。 それでもなお、良いことをしなさい。
ネット上で「いいこと」を書いたとする。誰かを褒めたり、自分の好きな映画やマンガ、ゲームに好意的な感想を書いたとする。10分後には匿名のネットユーザーが寄ってきて「ステマ乙w」と言い放つだろう。あなたの人格を深く傷つけるような言葉で愚弄するだろう。それでもネット上を心地よい空間にしたいのなら、私たちは「いいこと」をしつづけよう。
3、成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。それでもなお、成功しなさい。
ネットにおける成功とはなんだろう。アルファブロガーになって100万PVを稼ぐことだろうか。それともアフィリエイトで小銭を稼ぐことだろうか。違う。そんなものは犬にでも食わせてしまえ。ネットにおける成功とは「仲間を見つけること」これに尽きる。ただ生きているだけでは出会えなかった人たち、ネットがなければ言葉を交わす機会もなかったはずの素晴しい人たち。そういう人たちとのつながりを構築していくことこそ、ネットにおける成功だ。
なかには親切な顔をして、心の底ではあなたを「カモ」だとしか思っていない人がいるだろう。
ネット上で愛想よく振る舞うあなたのことを、誰かが全力で攻撃してくるだろう。
匿名で、しがらみのない、むき出しの悪意を向けられるだろう。
それでもなお、私たちは輝かしい仲間たちを求めつづけよう。ネットでの成功を目指しつづけよう。
4、今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
キツい言葉ほど人の目に留まり、柔らかなセリフはわずか数秒で忘れ去られてしまう。だからネット上で人気を集めようとする人たちは、みんなこぞって汚い言葉を使う。実生活では口にできないような暴言で、仮想敵を八つ裂きにする。そうすれば、かんたんに注目を集められるからだ。
ただし、汚い言葉の効力は1日だけだ。
暴言は、たしかに記憶に残る。だけど、その記憶の持続期間はあまり長くない。人に「もう一度読んでみよう」と思わせるのは、むしろ「いいこと」だ。批判的な記事は旬が過ぎると誰も読みにこなくなる。「いいこと」を書いた記事は、いつまでも細く長く読まれつづける。
だから私たちは「いい言葉」を使いつづけよう。
5、正直で率直なあり方はあなたを無防備にするだろう。それでもなお、正直で率直なあなたでいなさい。
みんなと違うことを言うのは、勇気がいる。みんなが批判している人は悪者に見えるし、みんなが褒めている人はヒーローに見える。私たちの評価はとかく他人の意見に引きずられがちだ。アイドルの総選挙を見て泣いた人たちのうち、一体何割が心からアイドルを愛していたのだろう。しあわせのおすそ分けは悪いことではない。私が言いたいのは、「価値観の基準を自分1人で決めるのは難しい」ということだ。
「自分は独自の視点を持っている」「自分は独特な感性を持っている」……と考えている人ほど要注意だ。あなたが独特だと思っている考え方は、じつは、そんなに独特ではないかもしれない。正直で率直な自分でいるためには、自分を信じてはいけない。人は流されやすく、騙されやすい。ウソをウソと見抜けない人にネットを使うのは難しいが、見抜く力を身につけるには、しっかりとした評価基準と価値観を育てなければいけない。正直で率直な自分でなければいけない。
炎上にせよ、バズワードにせよ、他人に流されるのはやめよう。正直で率直な自分でありつづけよう。
6、最大の考えをもった最も大きな男女は、最小の心をもった最も小さな男女によって撃ち落されるかもしれない。それでもなお、大きな考えをもちなさい。
あなたが「ネットで世界が変わる」と言えば、誰かが「そんなワケないよ」と答えるだろう。あなたが「ネットで生き方が変わる」と言えば、誰かが「その結果がいまの惨めな生き方なの?」と答えるだろう。大きな考え方は、心の小さな人たちには理解されない。
しかし、安心していい。
あなたを批判する誰かは、今日もアマゾンで本を買い、Googleで電車の時刻を調べ、食べログでランチの場所を決めている。昨日と今日の違いが解らない人に遠い未来の話をするのは、アリに象の存在を説明するようなものだ。
私たちは10年後、100年後、1000年後に想いを馳せつづけよう。
7、人は弱者をひいきにはするが、勝者の後にしかついていない。それでもなお、弱者のために戦いなさい。
私たちネットユーザーは、いつでも炎上を恐れている。自分の発言に火がついて、個人情報を洗いざらい調べられてしまうのではないかと、怯えながらキーボードを叩いている。圧倒的多数の匿名ユーザーに対して、私たち一人ひとりは例外なく弱者だ。多勢に無勢。「炎上したらイヤだな」「叩かれたらイヤだな」と弱者の視点でモノを考えている。
にもかかわらず、炎上を見かけたら態度が一変する。自分が叩かれるのは怖いくせに、誰かを叩くのは平気なのだ。「だって悪いのはあいつでしょ?」という言葉を免罪符に、自らの矛盾に目をつむってしまう。
人は、弱い。
だから、炎上の勢いに流されてしまうのも、仕方ないと思う。
しかし恥ずべきことだと、私は思う。
広大なネットの世界では、誰もが弱者だ。弱者である自分を忘れずにいよう。
8、何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。それでもなお、築きあげなさい。
ネットの世界は盛者必衰だ。10年前の人気WEBサイトのうち、いったいどれほどが生き残っているだろう。くだらないツイートですらパクられる世界だ。人気を集めたやり方は、すぐに誰かに真似される。人気があった書き手は、もっと人気のある誰かに取って代わられる。こんなネットの世界で、1つのスタンスを貫いて言葉を紡ぐのは、あまり賢くないのかもしれない。誰かの作った流行に、一緒になって盛り上がるほうが楽しいのかもしれない。
でも、それでは何も残らない。
他人の産んだコンテンツにタダ乗りしているだけでは、ネットはテレビと同じになってしまう。「一億総白痴」をもたらしたテレビのように、自分の頭を使わないで済むメディアになってしまう。だけど、そんなのつまらない。ネットは双方向のメディアなのだ。自分から発信できるメディアなのだ。
流行に乗っかるのも、たまにはいいだろう。
しかしネットを通じて何かを築きあげるために、私たちは自分の言葉を紡ぎつづけよう。
9、人が本当に助けを必要としていても、実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、人を助けなさい。
ネットの世界では、誰もが優しさを忘れてしまう。偏狭で猜疑心に満ちた人格になってしまう。たいていの犯罪は被害者に非があるとされ、年金も生活保護も問答無用で批判される。「弱い人を助ける」という当たり前のことを、これほど口にしづらい空間はない。
しかし、私たちはネットの中だけで生きているわけではない。
誰かを助けたとあなたがネット上で報告すれば、見ず知らずの人があなたを攻撃するだろう。現実世界のように誰かを擁護しようとすれば、あなたの小さな正義はくじかれるだろう。それでもネット世界の当然を、世の中の常識と考えるのは愚かだ。ほんとうに他人から感謝されるのは何かを考えつづけよう。
10、世界のために最善を尽くしても、その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。
ネットでトクをするのは、かんたんではない。1つのいい言葉に出会うためには、100個のどうしようもない言葉を読まなければいけない。1人のすばらしい仲間と出会うためには、1000人の悪意ある他者と向き合わなければいけない。ネットを使うのは基本的に損である。少なくとも、あなたが「いい人間」であろうとするかぎり。
だから、みんな「いい人間」であることをやめてしまう。
賞賛よりも罵倒をつぶやき、憐憫よりも侮蔑をむき出しにする。精一杯、偽悪的にふるまう。そうすれば勝ち馬に乗れるからだ。ネットでもたらされる「損」を、最小限にとどめられるからだ。
しかし悪い人間のもとには、同じような人間しか集まってこない。すばらしい仲間と出会うなんて不可能だ。偽悪的にふるまえば損をしないかもしれないが、トクをすることもない。絶対に、ない。
だから私たちは、いい人間でいよう。
偽善的だと笑われるかもしれないが、いい人間でありつづけよう。
執筆: この記事はRootportさんのブログ『デマこいてんじゃねえ!』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年06月20日時点のものです。
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