“人生を物作りに捧げる”小島秀夫監督最新作『デススト2』グループインタビューレポ:コロナ禍を経て進化・深化した繋がりと孤独の新たな旅路

2025年6月25日、待望の『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH(デスストランディング2:オン・ザ・ビーチ)』(以下、『デススト2』)が発売を迎えた。小島秀夫監督(以下、小島監督)が手掛ける本作は、前作の独特な世界観とゲーム性を継承しつつ、新たな挑戦を重ねた作品として大ヒット中だ。

発売日に渋谷PARCOにて行われたイベント「DEATH STRANDING WORLD STRAND TOUR 2 in Tokyo」内のメディア向けグループインタビューでは、小島監督が本作の開発秘話、テーマ、キャストとのエピソードを語った。本稿では、当日に語られた若干のゲーム内容のネタバレも含め、インタビューの模様をレポートとして紹介する。

▲会場の入口ではキャラクターの等身大パネルがお出迎え!

発売を迎えた心境:ピンチを乗り越えた達成感

インタビューの冒頭、小島監督は発売日を迎えた心境を問われ、「2019年に前作が出て、翌年から準備を始めましたが、コロナ禍でリモートになり、僕自身も病気になりまして。ゲーム作りを続けられるか不安というところまでいきました」と語った。40年近くゲーム開発に携わってきた監督にとって、今回の開発は「一番のピンチだったという印象」とのことだ。

それだけに発売を迎えた喜びはひとしお。もちろんアーリーアクセスもあり「昔のような発売日の熱狂とは違う感じではあります」とも語られつつ、「よくやったみんな、よくやった自分」とチームの努力を称え、「感無量で嬉しいです」との回答も得られた。

前作との違い:テンポと自由度の進化

前作『DEATH STRANDING(デスストランディング)』(以下、『デススト1』)は、2,000万人がプレイした異色の“配達”ゲームとして話題を呼んだが、独特のスローテンポが賛否を分けた。小島監督は「『デススト1』の尖った部分が好きな人もいたんですけど、テンポ感に馴染めなかった人もいたと思う」とデータ分析を基に語る。

『デススト2』では、こうした声に応え、テンポ感やシステムを大幅に見直し、「自由度をコントロールしつつ、走り回れるような設計にしました」と監督は説明。山を越える緊張感や雰囲気は残しつつ、アクションの挙動を早くし、戦闘や探索の選択肢を増やした。

物語面では、前作の孤独な旅から一転、オーストラリアを舞台に新たなコミュニティとの繋がりが描かれる。主人公サム・ポーター・ブリッジズは、UCA(アメリカ都市連合)から離れ、新天地で「マゼラン号」という移動基地を拠点に活動。通信圏内ならマゼラン号を呼び出せるが、新たなエリアでは一人で進む場面も多い。このバランスが、繋がりと孤独のテーマを深化させている。

マゼラン号にはフラジャイルやトゥモロウ、タールマンといった仲間が集まり、時には衝突しながら絆を築く。前作は登場人物が少なかったが、今回はCGのポリゴン数やテクスチャの制約など技術的に難しい部分もある中、「5~6人が集まるシーンを描くことを目指しました」と監督は語る。

サムの物語:コロナ禍での再構築

『デススト2』のシナリオは、前作の開発中から構想されていた。小島監督は「1を作りながら、1.5や2を頭の中で考えていました」と明かす。テーマは、前作同様「繋がり」だが、コロナ禍を経てその描き方に変化が生まれた。

前作ではホログラムを介した間接的な繋がりが強調されたが、本作ではマゼラン号での生身の人間関係が中心。仲間との衝突や絆を通じて、「集団の中の孤独」を描く。サムはトゥモロウやタールマンとの関係で成長しつつ、時に「余計なお世話」と感じる瞬間も。この人間らしい葛藤が、プレイヤーにとっても共感しやすい場面になっていそうだ。

なお当初のエンディング案では、サムとフラジャイルがデートに向かうというシーンが予定されていたそう。スーツ姿などサムがオシャレな姿でデートするイラストまで描かれていたそうだが、これもコロナ禍ですべて見直された。

また『デススト1』ではテクノロジーへの警鐘も描かれていた。UCAのシステムは、個人の24時間分のデータを共有することで安全を保証するが、それによって個人はプライバシーを失う。監督は「ネットやAIが全てを最適化する世界は便利ですが、偶然の出会いが失われます」と語る。

ただ『デススト2』の物語でも、そうしたテクノロジーを否定しているわけではないとのこと。「すべてを断つのでなく、『デススト2』の中で描かれるゆるい繋がりをゲームで体験しながら、現実のテクノロジーをどう使うかを考えてほしい」と監督は訴える。

「僕の中での1つの答えは最後の方でキャラクターに言わせてますので、それで皆さんがどう感じるか。いろんな意見があっていいと思うので」

豪華キャストと忽那汐里の才能

サム役のノーマン・リーダスについて、監督は「彼がそこにいるだけで強い存在感がある」と絶賛。本作では感情的なシーンが多く、撮影では「朝から泣くシーンを撮ることもあり、申し訳なかった」と冗談交じりに振り返った。

またサムの相棒として登場するドールマンは、プレイヤーにゲームの状況を説明しつつ、サムの緊張を和らげる役割を担う。「『ポートピア連続殺人事件』のヤスのような都合の良い存在」と監督は解説。初期のバージョンでは「サム、川がある。気をつけろ、深いぞ」など過剰に喋りすぎたため、調整を重ねて現在のバランスに落ち着いた。

本作のキャストには、ノーマン・リーダス、エル・ファニング、レア・セドゥ、そして日本の忽那汐里が名を連ねる。忽那の起用について、小島監督は「アジア人のCG化は肌の凹凸が少なく難しいのですが、新技術を使い、実験も兼ねて挑戦しました」と語る。

忽那は英語が堪能で、国際的な撮影現場でも自然に溶け込んだ。なお彼女との縁は、監督の友人である菊地凛子を通じて繋がったとのこと。菊地からは「私は出ないのか?」とユーモラスなメールも届いたそうだ。

エル・ファニングについては、子役時代からのファンであり、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の推薦も決め手となった。またエルは本作のサウンドを手掛けるウッドキッドともたまたま友達だったとのことで、エルとのデュエット版「TO THE WILDER」もそんな偶然の縁も手伝って実現に至り、「あれを収録できて良かったなと思います」と小島監督は語る。

本作では音楽が重要な役割を果たし、「ほぼミュージカル」と監督が表現するほど多くのキャストが歌う。当初はレア・セドゥも歌う予定だったが結果的に実現せず、「歌がテーマのひとつでもあるので、本来であれば全員が歌うべきだったんですけど」とも語った。

ゲームならではの遊び心と技術

『デススト2』は、PS5の技術を活かし、触覚や聴覚での没入感を強化。振動技術では、音を振動に変換する装置を活用し、川の流れやBT(ビーチ・シングス)の接近をリアルに表現した。またゲームデザインでは、国道建設やモノレールといったインフラ整備が進化。監督は「国道を作るプレイヤーの熱意に驚きました」と笑い、モノレールを追加した背景を語った。モノレールは大量輸送を可能にし、バイクや車両も運べる。

「ソーシャルストランドシステム」は、プレイヤー同士の間接的な繋がりを強化。カスタマイズしたバイクや車両への愛着を重視し、前作の使い捨てスタイルから修理を前提としたシステムに変更。雪山でスタックしたバイクを修理する苦労は、プレイヤーに新たな達成感を与える。

遊び心も随所に散りばめられている。夜空に小島監督が星座として浮かんでいる演出などは監督のアイデアによるもの。またニール役のルカ・マリネッリがバンダナを巻いた姿は『メタルギア』を思わせる。

「ルカさんがスネークみたいにバンダナを巻いたら似合うとSNSでつぶやいたらニュースになりまして。ルカさんは子どもの頃から『メタルギア』を遊んで育ったので、あのシーンを依頼したら喜んでくれました」と監督は振り返る。

孤独を癒す仲間と未来への決意

開発中の孤独について、監督は「原作作家でゲームデザイナーで監督という立場は孤独」と吐露。コロナ禍では一人でシナリオを書く日々が続き、ストレスを溜め込んだ。そんな中、ギレルモ・デル・トロ監督やレフン監督との交流が支えとなった。「お前も孤独か」と語り合ったという話を聞けば、さすがは巨匠と思うと共に、彼ら一人ひとりもごく普通の人間なのだという共感も抱ける。

最後に、ファンへのメッセージとして監督はこう語った。「配達するゲームなんですけど、あんまりそういうこと考えずに楽しんでください。自由度もかなりあるので、戦闘、配達、建設、いろんな遊びを試してもらって。その先にあるストーリーで、繋がりとは何かを考え、日常で自分も”配達人”になっていただければ」。『デススト2』は、単なるゲームを超え、プレイヤーの人生に問いを投げかける。

新たな旅への誘いと創作の情熱

『デススト2』は、前作の魂を受け継ぎつつ、テンポ、自由度、ドラマの厚みを進化させた作品だ。オーストラリアを舞台に、サムと仲間たちが織りなす物語は、コロナ禍の影響を受け、繋がりと孤独のテーマをより深く描く。

マゼラン号での人間関係、テクノロジーとの向き合い方、そしてサムと登場人物たちの紡ぐ感動的な物語は、プレイヤーに強い余韻を残す。小島監督の情熱と遊び心、豪華キャストの演技が融合した本作は、ゲーマーにとって忘れられない旅となるだろう。

インタビューの中で、「監督は長年クリエイターとして第一線を走り続けながら、なぜ作り続けるのかと問われた際、今のご自身ならどう答えますか」という質問にこう答えた。

「人生は物作りに捧げています。それが最優先で、僕の喜びです。体と脳が動く限り、迷惑をかけるんだったらちょっと考えますけど、今のところは死ぬまで作りたいと思っています」

この言葉は、『デススト2』に込められた情熱の源泉を象徴している。監督の創作への揺るぎない決意は、プレイヤーに新たな世界を届け続ける原動力だ。コントローラーを手に、サムの新たな冒険に飛び込み、繋がりとは何かを考えてみてほしい。

(写真・文/平原学)

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