マンション市場が変化?ZEH化が急加速中!その背景と理由について詳しく解説

矢野経済研究所が、国内のZEH(Net Zero Energy House)市場に関する調査を実施し、ZEHの普及状況や住宅供給サイドの動向、将来展望を明らかにした。それによると、集合ZEH(ZEHマンション)が急成長しているという。その背景を探った。
【今週の住活トピック】
ZEH(Net Zero Energy House)市場に関する調査(2025年)/矢野経済研究所
2021~2023年度の平均成長率、マンションのZEHは163.5%増
矢野経済研究所※1によると、2023年度のZEHの国内市場規模(ZEH建築物の工事費ベース)は、6兆5712億円(前年度比61.4%増)。ZEHの国内市場規模は、2035年度には約17兆円になると予測している。
■ZEHの国内市場規模(ZEH建築物の工事費ベース)
年度市場規模(億円)2023年度65,7122030年度(予測)140,0002035年度(予測)172,700※1 出典:矢野経済研究所「ZEH(Net Zero Energy House)市場に関する調査」(2025年5月9日発表)を基に、SUUMO編集部で表作成
注:市場規模は一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)公開データ、国土交通省「建築着工統計」を基に推計
また、2023年度のZEHの市場で、ZEHとして建設された一戸建てとマンション(集合住宅)の内訳※2は、4:6だった。
※2 マンションのZEHのカウント方法は、「住棟単位(ZEH-M)」、「住戸単位(ZEH)」の2通りがあり、このデータではマンションのZEHを住戸単位でカウントしている。
過去3年間(2021~2023年度)の平均成長率は、一戸建てのZEHが19.1%増であるのに対し、マンションのZEHが163.5%増と大きく伸ばしている。ZEHマンションが急成長しているのは、「大手を中心にマンションデベロッパーがZEHの標準化を推進していることにある」と、矢野経済研究所では分析している。
なぜ、マンションデベロッパーがZEHマンションを標準化しているかというと、政府のカーボンニュートラルに向けた、住宅・建築物の省エネ対策のロードマップにある。
すでに、2025年4月からすべての新築住宅に最新の省エネ基準を適合させることを義務化しているが、次のステップでは、適合させる省エネ基準を2030年度までにZEH水準に引き上げるとしている。これに対応して、マンションデベロッパーの多くが、すでに供給するマンションのZEH化に取り組んでいるためだ。
ZEHマンションってどんなマンション?
本来のZEHの意味は、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)。住宅で消費するエネルギーをプラスマイナスゼロにするには、(1)住宅の骨格となる部分を断熱化して、エネルギーを極力使わない、(2)給湯や冷暖房などの設備を高効率化して、エネルギーを効率的に使える、(3)太陽光発電設備などを設置して、創ったエネルギーで消費したエネルギーを補う、の3つの要素が必要になる。
住宅のZEH化については、一戸建てが先行していた。特に、高品質を特徴とするハウスメーカーを中心に、競うようにZEH化に取り組んできた。マンションが遅れた理由は、その規模感にある。高層化により1棟で多数の戸数を抱えるマンションでは、1棟の屋根部分に太陽光発電設備を設置しても、全体の戸数をカバーできないということもあり、プラスマイナスゼロは難しいとされていた。
そこで国土交通省では、建物の階数が高くなるほど太陽光発電などの再生エネルギーによる削減の基準を緩める形で、ZEHの定義を定めた。1~3階建ては「ZEH-M」か「Nearly ZEH-M」を、4・5階建ては「ZEH-M Ready」、6階建て以上は「ZEH-M Oriented」を目指すべき水準としている。
「ZEH-M Oriented」なら、太陽光発電などの再生エネルギーのための設備を設置しなくても達成できるので、現実的な水準としてZEH化が視野に入るようになった。ただし、マンションでは、住棟単位(専有部及び共用部の両方を考慮)と住戸単位(各々の専有部のみを考慮)の両方について、ZEH の評価方法を定めているので、「ZEHマンション」と呼ぶには、住棟も全戸も基準を満たす必要があり、そう簡単なことではない。
■マンション(一戸建て以外)の基準
区分断熱等性能一次エネルギー消費量(対省エネ基準)適用条件(住宅用途の階層数)再エネ除く再エネ含む『ZEH-M』強化外皮基準【断熱等性能等級 5相当】▲20%以上▲100%以上3階建て以下Nearly ZEH-M▲75%以上
▲100%未満ZEH-M Ready▲50%以上
▲75%未満4・5階建てZEH-M Oriented(再エネの導入は必要ない)6階建て以上出典:住宅金融支援機構【フラット35】S(ZEH)技術基準を参考に筆者が作成
ZEHマンションのメリット・デメリットとは?
ZEHマンションにするには、建物の断熱性能を高いものにしたり、現行の省エネ基準よりも一時エネルギー消費量を削減するために高効率な給湯器を採用するなど、仕様を高い水準にする必要がある。建築費のコストアップにつながるため、政府も補助金などによって後押しをしている。ZEHデベロッパーには、工事費用の一部を補うために、国による補助金制度が用意されている。
また、ZEHマンションを購入する側にも後押しがある。居住中の光熱費を削減できること、外気の暑さ寒さの影響を受けにくい快適な居住環境を手に入れられることに加え、税制の特例措置や国の補助金なども用意しているからだ。
まず、いわゆる「住宅ローン減税」(新築住宅の場合、最長13年間にわたり年末のローン残高の0.7%が所得税などから控除されるもの)で、ZEH住宅の場合なら控除対象となるローン残高の上限が引き上げられる(+500万円)、税制の特例措置がある。ほかにも、親や祖父母から住宅取得資金のために贈与を受けた場合の非課税枠も、ZEHなら引き上げられる(+500万円)。
また、子育て世帯などに対象が限られるが、ZEHなら「子育てグリーン住宅支援事業」の補助金の対象(原則40万円補助)になる可能性がある。さらに、返済中の金利をずっと固定する【フラット35】を利用する予定であれば、【フラット35】S(ZEH)が適用されると、当初5年間、0.75%の金利引き下げを受けられる。
カーボンニュートラルへの転換が求められるわが国では、新築マンションは基本的にZEHマンションになっていく。既存のマンションとの省エネ性能の違いが目立つようになるので、中古マンションのZEHリフォームも促進される可能性がある。ZEHは光熱費や社会貢献だけでなく、快適な居住環境や熱中症・ヒートショックのリスクを減らせるなどの健康面でもメリットもある。マンション選びの重要な条件になっていくだろう。
●関連サイト
・矢野経済研究所/ZEH(Net Zero Energy House)市場に関する調査(2025年)/2025年5月9日発表
・住宅金融支援機構/【フラット35】S(ZEH)

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