映画『花まんま』前田哲監督&鈴鹿央士インタビュー「世の中は捨てたもんじゃないということを少しでも感じて欲しいんです」

2005年、第133回直木賞を受賞した短編集『花まんま』(文春文庫)は、記憶の濃淡を丁寧に語り分けながら、 人間の哀しさや温かさを繊細に織り込む巧みな筆致で評価される作家・朱川湊人の代表作で、ある兄妹の不思議な体験を描いた物語。 初版からおよそ20年を経た今春、東映配給にて映画『花まんま』が4月25日(金)より上映中です。

鈴木亮平さん、有村架純さんの二人が兄妹役として初共演を果たし、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』など コメディから感動作まで幅広い表現力を併せ持つヒットメーカー前田哲監督がメガホンを取った本作。有村さん演じるフミ子の婚約者であり、カラスと会話が出来る(!)動物行動学の助教・中沢太郎を演じた鈴鹿央士さんと前田哲監督にお話を伺いました。

――本作とても素晴らしかったです。監督の中で太郎役は鈴鹿さんにお願いしたいと決まっていたそうですね。

前田:央士くん自身のことも彼のお芝居も大好きなので、毎作品出ていただきたいくらいなのですが、この太郎というキャラクターはまさにピッタリだなと。当初の段階から出演を願っていました。カラスと話せる人はなかなかいないですから。

鈴鹿:(笑)。ハシブトガラスとハシボソガラスという2種類のカラスが日本には多いそうなのですが、 今回はハシボソガラスの方が出演されるということでその鳴き声を練習しました。カラスって賢いですし、本当に意思疎通出来るんだろうなと思って撮影していました。

――原作だと本当に少ししか出てこない太郎さんが、とても魅力的なキャラクターになっていましたね。

前田:「フミ子の結婚相手」として名前が出てくるだけなんですよね。そういう意味ではほとんどオリジナルキャラクターで、最初から「鈴鹿央士くんにしか出来ない役」として書いていたわけではないのですが、結果として「これは央士くんじゃないか」という感覚になりました。
原作では、最後の二、三行で「フミ子は明日、結婚するのだ」という兄やん(演・鈴木亮平)のセリフがあって、結婚がラストになります。そこから逆算してどう物語を作るかということを考えて、人物造形は映画オリジナルで作らせていただきました。嬉しいことにこの映画に影響を受けて、原作の朱川湊人先生が「花のたましい」という作品を新しく書いてくださりました。

鈴鹿:オリジナルのキャラクター設定で、太郎がどんな幼少期を過ごしていたのか、両親にどんな風に育てられたのかということが書かれている資料を事前に頂きました。人や動物のことを理解したいと思っている優しさがあって。僕が思っている「理解したい」という言葉よりももっと広く深く、すごく魅力的な人だと思いましたし、研究に一途なところも素敵です。なんとなく兄やんと似ている所もあって、その一途さにフミちゃんが惹かれたのかもしれないと感じました。

前田:その太郎の優しさって央士くんそのものなんです。こんなに優しい目をした方はなかなかいません。

――以前、『ロストケア』で前田監督にインタビューさせていただいた時に、「鈴鹿さんの持っている優しさが役柄にピッタリだった」といったことをおっしゃっていましたね。(https://getnews.jp/archives/3395214 [リンク]

前田:最初にお会いした時に、ご自身のご家族のことを話してくれて。

鈴鹿:オーディションで自由に話すお時間をいただいて。僕にはひいおばあちゃんがいたのですが、上京して3日後に亡くなりました。老人ホームに入っていて、「行ってくるね」と挨拶は出来たけれどもそのまますぐに亡くなってしまって。『ロストケア』のオーディション用台本をいただいた時に、その時のことが思い浮かんで感情が高まってしまったんです。

前田:その家族への想いがすごく伝わってきて、なんて素敵な方なんだろうと思ったんです。太郎は少し天然な所がありますが、余裕があって懐の広い人です。いつも幅を持っていて、生き急いでない所が央士くんと共通している所だなと。フミ子もそんな太郎だから惹かれたのかなと感じていました。

――前田監督のこれまで作られてきた作品にも優しい眼差しがあって、それは監督ご自身の優しさが滲み出ているからではないかと私は感じています。

鈴鹿:前田監督はすごく優しい方で、とても愛情深い方です。

前田:押し付けがましいんじゃないかなといつも気を付けています。自分の中では普通の感覚なのですが、鬱陶しい時もあるかもと…。

鈴鹿:その愛の深さが魅力的です。

前田:僕は色々な意味で、人生って非常に残酷だと思っているんです。だからこそ優しい映画を作りたいといつも思っています。『花まんま』もそうですが、よく考えると非常に残酷なお話です。でも、人は生きていかなきゃいけない。大切な人を亡くして、残された人たちに答えがあるわけではないのですが、希望がある映画を作りたいと思うんです。なので、優しいというよりも“甘い”んです。僕、甘いものも大好きだし(笑)。

鈴鹿:『ロストケア』も『花まんま』も残酷なお話ですが、その中で光にフォーカスしてくださるので、作品を観終わった後に「良かった」という気持ちになります。心の底から「生きたい」や、「優しくなりたい」ということを改めて感じさせてくださる前田監督の作品はすごいと思います。

前田:世の中は捨てたもんじゃないということを少しでも感じて欲しいんです。今日も、若い人たちは自殺の数が増えているなど辛いニュースを目にしますが、生きていれば良いことも必ずやってくるということを、安易には言えないながらも感じてもらえたらと。そう思える出会いがあれば良いなと思いますし、映画がその一つのきっかけになれたら嬉しいです。

――ネタバレになるので詳しくは伏せますが、今お2人がおっしゃった「生きていれば良いことがある」といったことを話す、兄やんのスピーチは本当に沁みました。

鈴鹿:俳優陣もエキストラの皆さんも本当に泣いていました。

前田:カメラマンもスタッフも泣いていました。仕事中だから泣いちゃいけないと思って一生懸命我慢したけれども、ダメだったって言っていました。

――キャストさんたちもポロポロポロ…って涙がこぼれる感じではなくて、極限間で我慢して肌が赤くなっている本気の涙なんだなと感じました。

鈴鹿:それまで撮影で積み重ねてきたものもありますし、太郎さんとして考えた時に兄やんへの感謝もあって、これから太郎自身が背負う責任も感じていました。そして、スピーチを聞くことで、現実の自分の周りの人のことを考える瞬間もありました。なので、あのシーンには鈴鹿央士自身の気持ちも入っていたと思います。

前田:本当に素晴らしいシーンを作ってくださりました。実際の結婚式の様に高砂に新郎新婦が座っていますが、有村さんと央士くんが自然と会話している感じがとても良くて。撮影の調整をしている待ち時間にも、喋って笑ったりしていて。本物の新郎新婦の雰囲気を持ってくれていてありがたかったです。

鈴鹿:「穏やかな生活を送りたいですよね」と話していた記憶はあります(笑)。

前田:あの瞬間は本当に新郎新婦にしか見えなかったし、その空気感がありました。あの場面で「雑談していてください」とこちら側からリクエストするのとはちょっと違っていて。俳優さん同士が自然にしてくれた会話が一番強いですし、素敵だなと思って撮影していました。

鈴鹿:本当に有村さんのおかげです。

前田:有村さんは央士くんのおかげだと感じているんじゃないかなと思います。

――『花まんま』そのものの優しさを感じられる、素敵なお話をありがとうございました。

撮影:オサダコウジ

『花まんま』大ヒット上映中
配給:東映
©2025「花まんま」製作委員会

<ストーリー>
「花まんま」それは、大切な人に贈る小さな花のお弁当。
大阪の下町で暮らす二人きりの兄妹。兄・俊樹は、死んだ父と交わした
「どんなことがあっても妹を守る」という約束を胸に、兄として妹のフミ子を守り続けてきた。
妹の結婚が決まり、親代わりの兄としてはやっと肩の荷が下りるはずだったのだが、
遠い昔に二人で封印したはずの、フミ子の〈秘密〉が今になって蘇り・・・

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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