曖昧で良い、曖昧が良い、曖昧だから良い令和の名作 『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』
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とても素敵な映画に出会えた。
LINEマンガで2019年から2021年まで連載され、2024年にはアニメ化もされた『先輩はおとこのこ』のアニメ映画『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』が2025年2月14日に公開された。映画はアニメで放送された全12話の続きで、物語の完結編となる内容。
【テレビアニメ版のあらすじ】
男だけど可愛いものが大好きで、女の子の姿で高校生活を送る主人公の高校2年生・花岡まこと。
ある日の放課後、まことは、“女の子だと勘違いしたまま”の後輩女子・蒼井咲に告白をされる。
「実は自分は男の子なのだ」と打ち明け、告白を断るまこと。
しかしまことの予想に反し、咲はあきらめるどころか、まことが「男の娘」であることを好意的にとらえて、積極的にアプローチを続ける。
可愛いものが大好きな、まこと。まことに恋をする、元気いっぱいの後輩・咲。
まことを近くで見守り続け、まことに特別な感情を抱く幼馴染の竜二。
3人の、恋と友情と、成長の物語がはじまる。
本作はまこと、咲、竜二の3人の人間関係を中心に展開していく日常系アニメである。ただ、作中では彼らを「同性愛」や「LGBT」、「トランスジェンダー」といった言葉で定義することは無く、非常に曖昧なまま進んで行く。まことは「可愛いものが大好きな男の子」という設定しかなく、父親からの「女の子になりたいのか」という問いにも「わからない」と答えている。テレビアニメ版では、まことは曖昧なまま“花岡まこと”として、周囲へと溶け込みながら、好きなものに素直に生きていくことを選択していく。
咲はテレビアニメ版終盤で失踪した母とクジラの研究のため海外にいる父親という家族との関係性が描かれ、複雑な家庭環境の中で、大人を困らせないような選択肢を選び続け、時には元気であることを装っているという、序盤と印象がガラリと変わるキャラクターだった。自分は誰かの特別ではない。特別になりたいけど特別がわからない。何をどう選んで良いのかわからないという咲の姿は、現在の複雑な情報社会を生きる我々に当てはまる。映画版ではそんな咲を中心に物語が展開する。母親と父親という曖昧なままにできない関係性の中で、選択を求められる。果たして、彼女はどんな曖昧な選択を下すのか……劇場でぜひ見届けていただきたい。
まことも咲も自分の好きに素直であることを第一に、それに合わせて周りの環境を選んでいく。自分の心に素直になるためには、時には白黒ではなく、曖昧な選択肢を選ぶことが都合の良いこともある。曖昧な選択を続ける彼らの青春は、令和のこの時代にフィットした名作ではないかと思う。
そしてテレビアニメ版のオープニング、エンディング、映画のエンディングの楽曲が世界観にマッチしていて最高なので、こちらもぜひ聴いてほしいと思う。
(Written by 大井川鉄朗)
【Nicheee!編集部のイチオシ】
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