いま山形市がアツい! 食や映画などの文化拠点「Q1」オープンから2年、テナント同士の協業やイベントなどアイデアが拡大中 「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」

持続可能な都市への一歩。クリエイティブの力を産業につなげるやまがたクリエイティブシティセンターQ1の取り組み

山形県の県庁所在地である山形市では、山形市が持つ創造性と産業を掛け合わせることで都市の活性化を図ろうとする取り組みが、市の主導で行われています。中心施設となるやまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)を取材しました。

創造性によって都市を活性化する、創造都市の理念

山形市には、農産物から、酒、工芸品といった古くからある産業を基盤とした豊かな文化が根付いている一方で、その全国的な周知には課題があったといいます。
そうしたなか、山形市は持続可能な都市を目指し、「山形市文化創造都市推進基本計画」を策定し、地域の魅力を高める活動を推進しています。
市内中心部を歩くと、山形市の独自の文化がまちづくりにもつながっている様子を感じることができます。

山形産の食材を使ったイタリア料理のレストラン、gura.yamagata。石蔵を改装した店舗が人気(写真/筆者)

山形産の食材を使ったイタリア料理のレストラン、gura.yamagata。石蔵を改装した店舗が人気(写真/筆者)

およそ400年前に整備された用水路沿いに誕生した新名所、「水の町屋 七日町御殿堰」には山形の名産を楽しめるレストランやショップも並ぶ(写真/筆者)

およそ400年前に整備された用水路沿いに誕生した新名所、「水の町屋 七日町御殿堰」には山形の名産を楽しめるレストランやショップも並ぶ(写真/筆者)

やまがたクリエイティブシティセンターQ1全景。写真右のエレベーター室には大きくQ1のロゴが掲げられている(写真/筆者)

やまがたクリエイティブシティセンターQ1全景。写真右のエレベーター室には大きくQ1のロゴが掲げられている(写真/筆者)

やまがたクリエイティブシティセンターQ1は、持続可能な都市を目指し、市民、企業、行政が連携し、新たな経済活動や人材創出を図る「創造都市やまがた」の拠点施設です。
山形市の中心部に位置する山形市立第一小学校旧校舎を整備し、2022年9月にオープンしました。
飲食店や物販店、文化財展示室、アートギャラリー、オフィスなどが入っているほか、市民のための有料のレンタルスペースが備えられています。

1階エントランスホール。旧校舎の雰囲気は残しつつ、現代の設備が導入されている(写真/筆者)

1階エントランスホール。旧校舎の雰囲気は残しつつ、現代の設備が導入されている(写真/筆者)

山形市は、2017年に「ユネスコ創造都市ネットワーク」への加盟を果たしました。
ユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN:the UNESCO Creative Cities Network)とは、経済的、社会的、文化的、環境的側面において、創造性を持続可能な開発の戦略的要素として認識している都市間の協力を強化することを狙いとして2004年に発足した国際ネットワーク。全世界で350(2025年現在)の都市が加盟し、創造性と文化産業を活用した優良事例の共有が図られています。
クラフト&フォークアート、デザイン、映画、食文化、文学、メディアアート、音楽の7つの分野が設けられ、各都市はそのいずれかに分類されます。山形市は山形国際ドキュメンタリー映画祭をはじめとする映像分野での取り組みが評価され国内で唯一の「映画」分野での登録となっています。

かつては複数の映画館が建ち並んでいたシネマ通り。Q1から徒歩すぐのところにある(写真/筆者)

かつては複数の映画館が建ち並んでいたシネマ通り。Q1から徒歩すぐのところにある(写真/筆者)

Q1から徒歩すぐ、中心市街地の端に位置する「山形県郷土館 文翔館」は国の指定重要文化財で、ドラマや映画のロケ地としても活用されている(写真/筆者)

Q1から徒歩すぐ、中心市街地の端に位置する「山形県郷土館 文翔館」は国の指定重要文化財で、ドラマや映画のロケ地としても活用されている(写真/筆者)

Q1は、山形市がネットワークに加盟したことを契機に始動したプロジェクトです。映画部門に限らず、7つの分野の連携を強化し、発信していくことが目指されました。地元の大学、東北芸術工科大学の協力を得て、2019年度から旧校舎を使った活用実験を開始し、2022年から株式会社Q1が施設全体の運営管理を行っています。

建物は、1927年に竣工した県内初の鉄筋コンクリート造の建造物。日本の建築構造学の泰斗である佐野利器(さの・としかた)が設計指導にあたったとされる建物は、業界内でも高い評価を受け、2001年には国の登録有形文化財、2009年には近代化産業遺産に登録されています。第一小学校旧校舎、の名称から旧一(キューイチ)の愛称で親しまれ、新校舎の完成後も活用を希望する声が多かったそうです。リノベーションの設計は東北芸術工科大学の教授であり、株式会社Q1の取締役も務める建築家、OpenA代表の馬場正尊(ばば・まさたか)氏が手掛け、文化財を現代の用途に沿うよう蘇らせた事例としても注目されています。

施設名称は旧校舎の愛称であるキューイチと、問いのはじまりを意味するQ1から名付けられ、問いを繰り返し問いつづける場であるという想いが込められています。

共用廊下には絵本が置かれている(写真/筆者)

共用廊下には絵本が置かれている(写真/筆者)

コの字型の平面をしたQ1の建物は、階によって使われ方が異なっています。
公共性の高い1階部分は物販や飲食店といった街に開かれた機能が、3階は企業のサテライトオフィスやアトリエなど、間となる2階部分にはレンタルスペースなども並び、市民がクリエイティビティを発揮できる場所にもなります。

1階に入居する書店、ペンギン文庫(写真/筆者)

1階に入居する書店、ペンギン文庫(写真/筆者)

山形市が運営する1階の紅花文庫。山形市立第一小学校に残る郷土資料が公開展示されている(写真/筆者)

山形市が運営する1階の紅花文庫。山形市立第一小学校に残る郷土資料が公開展示されている(写真/筆者)

2階レンタルキッチン。イベントでの使用のほか、レストランのポップアップでの出店など多用途で使うことができる(写真/筆者)

2階レンタルキッチン。イベントでの使用のほか、レストランのポップアップでの出店など多用途で使うことができる(写真/筆者)

3階廊下部分。廊下の片側に各室が並ぶ様子は、なつかしさが感じられる空間(写真/筆者)

3階廊下部分。廊下の片側に各室が並ぶ様子は、なつかしさが感じられる空間(写真/筆者)

創造都市やまがたの拠点施設を活用する“プレーヤー”たち

Q1では、テナントのことを”プレーヤー”と呼び、単に場所を借りて自社の事業を展開するだけでなく、積極的にQ1の運営にもかかわってもらうことを意図しているそう。定期的にプレーヤーが集まる会議も実施しており、プレーヤー間で協業する取り組みやイベントの開催など、さまざまなアイディアが実現しているそうです。

Q1を巡ってみてまず感じるのは、どのプレイヤーもデザイン性の高いブランディングが徹底されていること。ローカルなテナントが集まる複合施設、と聞くと、個人で経営している手づくり感のある雰囲気を想像してしまいますが、Q1に集まるショップやスタジオはいずれも洗練されたデザインが目を引きます。創造性によってさまざまな課題にチャレンジしていくプレイヤーには、高いクリエイティビティと洗練されたデザイン性が伴っていることが想像できます。ここにしかない独自の価値創出を図るテナントが揃い、山形の文化産業の可能性を探る実験場となっています。

量り売りスーパー、「おねおね」。併設のカフェではランチやおにぎりのテイクアウト販売も行っている(写真/筆者)

量り売りスーパー、「おねおね」。併設のカフェではランチやおにぎりのテイクアウト販売も行っている(写真/筆者)

おねおね店内の様子

おねおね店内の様子(© Q1 inc.)

例えば県内でホームセンターを経営するチャンピオンは、新しい業態として量り売りのスーパー「おねおね」をQ1で実験的に出店しています。
近年、日本各地で災害時に過剰な買いだめが生じ、スーパー等の店頭から食料が品切れしてしまう状況が発生しています。こうした状況が決められたパッケージ単位でしか購入ができない販売の仕方にも起因しているのではないかと考え、「くらしのOne on One」をコンセプトに、必要な人に必要なだけ、食料が届く仕組みとして量り売りが提案されています。
店内には県内の特産品のほか全国から選りすぐられた食料品が陳列され、自身で必要な量のみ購入できるほか、日用品なども販売されています。

Q1にはそのほか県内で活動する作家さんが展示を行うスペースや、山形の食材を使用したレストラン、歴史資料の展示室などもあり、一巡するだけで山形のさまざまな文化に触れることのできる施設として観光客にも人気のスポットとなっています。

2階に入居するカフェレストラン、「つち」のオーナーは、1階でも深煎りコーヒー専門店「ぼた」を運営している(写真/筆者)

2階に入居するカフェレストラン、「つち」のオーナーは、1階でも深煎りコーヒー専門店「ぼた」を運営している(写真/筆者)

さらに、株式会社Q1やプレーヤーが主催するさまざまなイベントや、ものづくりを体験するワークショップなどが随時開催されており、創作にチャレンジするきっかけを提供することも重要な役割として位置付けられています。ここで制作の楽しみに触れた若い世代の方々が、これからの山形、ひいては日本の文化を担っていくことでしょう。

金工雑貨店「汽水域」は、店内に工房を設け日用品やアクセサリーなどの制作販売を行っている。不定期でワークショップも実施(写真/筆者)

金工雑貨店「汽水域」は、店内に工房を設け日用品やアクセサリーなどの制作販売を行っている。不定期でワークショップも実施(写真/筆者)

防音仕様の3階貸会議室(写真/筆者)

防音仕様の3階貸会議室(写真/筆者)

またQ1の活動を盛り上げていくための取り組みとして、建物の前庭で定期的にマルシェを開催しています。
マルシェでは毎回テーマを設け、テーマごとにQ1のプレイヤーや県内外から集まった出展者がブースを構えます。2024年の8月29日から9月1日には4日間にわたって周年祭としてグランマルシェ「マテリアル」が開催されました。見本市をテーマに商店だけでなく、トークやパフォーマンス、ワークショップといった参加型のプログラムも設けられ、100を超えるプレイヤーが出展し、訪れた人が出展物・出展者との出会いを楽しみました。

2024年のグランマルシェの様子

2024年のグランマルシェの様子(© Q1 inc.)

山形市民にとって学びの記憶でありシンボルでもあるQ1で、山形の未来を育む取り組みに触れてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
やまがたクリエイティブシティセンターQ1

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