移住先は「熱海の果樹園付き絶景一戸建て」! 家選びは「資産価値より居住価値」「自分らしい妥協」など目からウロコの”新常識”がカギ
不動産業界歴が長い「住まいのプロ」であり、ライフスタイルデザイナーである中屋香織さんが購入した家は、静岡県熱海市にある、畑付きの絶景中古一戸建て。そこには、住まい選びの常識を覆すようなヒントがいくつもあった。今回は、『住まいの新常識101』(エクスナレッジ)の著者で、中屋さんの友人であり、元・住宅情報誌編集長で、現在は住まいと暮らしのコンサルタントとして活動する長井純子さんと共に訪問。住まい賢者である2人が語る、夢を叶えるための住まい選びの新常識とは?そこには「資産価値だけで選ばないで」と、今の住まい選びのアンチテーゼも!?
購入したのは、庭にたくさんの果物のなる、南熱海の絶景一戸建て
中屋さんの家は熱海の丘の上、海を見下ろせる一戸建て。高台ゆえに、風が通り抜け、穏やかな日差しが心地よい。うっそうと緑が茂った庭にはミカンやレモンが実る。
以前は神奈川県川崎市に暮らしていたが、「予算内で買うとしたら、古くて狭いマンションしかない。そんな環境で子育てするのをイメージできなかった」と、当初から移住を前提に家探しをした中屋さん。結果的に、以前は想像していなかったような理想のつまった物件を中古で購入、自分たちで修繕、リフォームして暮らしている。
「自分たちで家を直し、整え、飾ること。畑仕事をして、収穫物を食すること。この住まいに越してきて、日々の暮らしが大きく変わりました」(中屋さん)
2階リビングには2面の窓があり、緑の向こう側に海が一望できる。無垢のフローリング張りや壁の塗装も自分たちで(写真撮影/相馬ミナ)
眺望は物件選びの最重要条件。「熱海の海辺を歩きながら山の方を見て、“ここから窓が見えている家は眺望がいいはず。このあたりに物件が出ないかな”と思っていました」(写真撮影/相馬ミナ)
前のオーナーご家族が育てていた家庭菜園も引き継いで。春は梅、夏はブルーベリーやトマト、秋は柿や栗、冬はミカンやレモン……といったふうに、収穫の時期で季節を感じる(写真撮影/相馬ミナ)
(写真撮影/相馬ミナ)
(写真撮影/相馬ミナ)
キッチンの棚も自分たちが使いやすいようにDIY(写真撮影/相馬ミナ)
今でこそ理想の家を手に入れた中屋さんだが、スムーズにこの物件に決められたわけではない。移住前提というところまでははじめから決めていたものの、盲点があったのだという。
「自分自身が不動産会社で仲介をするなどして、あんなにたくさんの方の家探しのお手伝いをしていたはずなのに、自分はどんな家に住みたいのかが、分からなかった時期もありました。正直、誰かが“あなたにこの家がぴったりですよ”と選んでくれたらいいのにと思っていたこともあります」と回想する中屋さん。
では、どのようにしてこの物件にたどり着いたのだろうか。「中屋さんの家探しには、目からウロコな従来の住まいの常識にとらわれない、自分らしい住まい探しのためのヒントがたくさんあります」と著書である『住まいの新常識101』(エクスナレッジ)の中でも中屋さんを取材したという長井純子さんは話す。中屋さんの家探しの「新常識」、今までの住まい探しの常識を覆すとどんなメリットがあるのか、紐解いてみよう。
(写真撮影/相馬ミナ)
右)中屋香織さん/ライフスタイルデザイナー。中古マンション買取・再販会社や、個性的な物件を得意とする東京R不動産など、長年不動産業界で働く。現在は、移住相談や住まい探し相談のほか、移住サポーター育成講座などのオンラインセミナーも行う。
左)長井純子さん/住まいと暮らしのコンサルタント。注文住宅、リフォーム、賃貸、別荘・リゾートなどの住宅情報誌の編集長を務め、住宅取材歴は30年以上。2度の住宅購入と3度のリノベーションも実体験し、現在は築100年の鎌倉の古民家に住む。
住まい選びには「自己理解」がマスト
「当初はもっと自然に密着した、自給自足に近い暮らしに憧れていました。自然エネルギーを利用したオフグリッドな家を自分で建てたかったくらい」と中屋さん。
しかし、パーマカルチャー(永続可能な農業を中心とした暮らしの概念)のイベントや体験ワークショップに参加するなか、意識が変わったそう。
「『あ、ここまでの暮らしを今の私は求めていないな』と思ったんです。憧れはあるけれど、それは誰かの暮らしの寄せ集めのようなもの。自分にとってはまだ必要じゃなかったんです」
イベントに行くなど実際に行動し、たくさんの人と会うことで、自分が何を求めているかが整理されたのだ。
「理想の暮らしを言語化したら、『朝日を浴びて海辺を散歩』『自分の畑で採れたものを料理』『カフェのようなリビングで朝はゆっくりお茶』『街づくりに関わる仕事をする』などでした。そうして、その暮らしを実現できるエリアと家の条件に落とし込んでいきました」
「海を眺めながら仕事をする」も、したい暮らしのひとつ。「リビングは2面ガラスになっているので、座っていても視界が抜けているのがいいんです」(写真撮影/相馬ミナ)
「海沿いの街であることはマストなので、千葉県から神奈川県小田原市、実家のある静岡県浜松市まで、広い範囲が候補に。さらに子どもの小学校入学のタイミングでは住み替えたかったのでタイムリミットもある。一時期は賃貸でもいいかなどいろいろ考えました。当初は、家を建てるのを前提に土地を探していたけれど、広い庭のある中古一戸建ても候補に入れました。家を建てるのは時間がかかるけれど、中古物件をDIYすればいいと考えるようになったんです」
また中屋さんの場合、「街のコミュニティが自分たちに合うかどうか」も優先順位が高かった。
「街選びって、結局、人だと思うんです。知り合いの紹介やFB、移住者向けのイベントなどを通して、いろんな人に会いましたよ。街づくりに関わる仕事をしたいとも考えていたので、地域活性化のワークショップにも参加しました。なかには、なんとなく合わないな、と思ったコミュニティもありました。熱海が良かったのは、ちょうど外部の人も巻き込んで、街を盛り上げていこうという気運が高まっていた時期。タイミングも良かったんです。また、地域のお祭りにも家族で参加をしました。地元の方と話ができたおかげで(東京に通勤している方に話が聞けました)、夫の新幹線通勤も可能だということが確認でき、安心しました」
中屋さんが移住前にも参加した街イベント「ATAMI2030会議」(写真提供/中屋さん)
中屋さんと娘さん。熱海駅なら新幹線通勤も可能。「当初は、故郷の静岡県浜松市内で土地を買い、家を建て、東京で働く夫と二拠点生活をするつもりでした。1カ月くらい実家で試し暮らしていたら、娘が夫に会えないのが寂しかったようで、夫が通勤可能なエリアで、という条件になりました」(写真提供/中屋さん)
長井さんも、「結局、家とのいい出合いは、自分と向き合い行動することから始まると思います」と話す。「よく“目玉物件はないの”と聞かれますが、私にとっての正解が、その人にとってもベストとは限りません。理想の形は人によって違うもので、結局は“自分が求めているのは何か”という自己理解が最も大切です」(長井さん)
そのためには、理想の暮らしイのメージを言語化したり、まず行動してみることが大切。
「例えば、『海辺に近い暮らし』といっても、海でスポーツをしたいのか、釣りをしたいのか、海まで散歩したいのか、海の見える眺望がマストなのか、海を感じる街が好きなのか、そのイメージで家の条件は変わりますよね。さらに、中屋さんの場合、“街づくり活動が積極的なエリア”という、ネット検索では辿り着きにくい要素を重視していたので、実際に街イベントにまずは参加したのが良かったと思います」(長井さん)
自分らしい「妥協」をする
「何を優先させるか、と同じくらい大切なのが、どんなことなら諦められるか、ということです」と長井さん。
例えば中屋さんの場合、大きく譲ったのは部屋数だ。間取りは2LDK。子どもの個室を考えればもう一部屋欲しかったのが正直なところだったが、それは今後、庭に小屋を建てる方法もあると妥協できた。
居住空間には限りがあるので、玄関横に物置をDIY。夫の趣味の道具を置いている(写真撮影/相馬ミナ)
また、この土地は山の中の傾斜地。それゆえの絶景だが、敷地半分が土砂災害警戒区域内レッドゾーン指定で、土砂崩れのリスクもある。
「だからこそ、普段から天気予報を確認し、特に大雨の時は敏感になり、早めに避難しようと話し合っています。常に家族3人分の避難バッグを用意していて、伊豆のほうで大雨があったときはすぐ避難できるように準備をしています」(中屋さん)
「予算が限られているからこそ、こだわりの凹凸を受け入れることが、その人らしい“家選び”ということ。安くて良い物件はありません。安さには理由があるのです。けれど、その安さの理由を許容できるなら、ワケあり物件はその人にとってはお宝物件にもなるのです」(長井さん)
傾斜地だからこその眺望と自然に囲まれた環境でもある(写真撮影/相馬ミナ)
資産価値より大切な居住価値
「資産価値だけで住まいを選ばないで」と、不動産業界で長年働いていた二人の共通意見。
「資産価値が高い=万人受けの良い家」といえるが、そもそも万人受けの家は高いし、予算を考えれば必ずしも自分の希望が“万人”と一致しないケースもある。例えば、「資産価値を考えて、利便性の高いエリアの駅近のマンション」を選ぶ人が多いが、それは100人いて100人全員の理想の家のはずはない。
「もちろん投資前提の不動産購入なら当然の指標ですが、多くの人は、自宅の売り買いをそう頻繁にするものではないでしょう。資産価値を重視するあまりに、自分のしたい暮らしから離れるのは本末転倒。自分たちの居住価値を重視してほしいんです」(長井さん)
「資産価値だけでいえば、我が家の物件は“高く売れる”物件ではないかもしれません。でも、こんな凹凸のある物件が好きで購入したいと思うような人が、私以外に一人でもいればいいんです、不動産は。高くは売れなくても、売れないはずはない。その程度でいいと思っています」(中屋さん)
キッチンやリビングにある木製の棚は自作。暮らしながら、自分たちの手で少しずつリノベーションした住まいは愛着もひとしお(写真撮影/相馬ミナ)
「終の住処」より10年ごとの最適化
この熱海の家に住んで7年。家には大満足しているが、ずっとここに住むかどうかは分からないという中屋さん。
「いわば、ここは“子育て期”の家です。将来はもっと違う家に住みたくなるかもしれない。それこそ昔憧れていたオフグリッドな暮らしができる家もいいですよね。購入当時は、子どもの小学校入学に間に合わせたいとタイムリミットもありましたし、立地も小学校に徒歩15分以内が重要条件でした。その一方、子どもがまだ小さくて部屋数が足りないことは妥協できたんです」(中屋さん)
ライフステージが変化すれば暮らし方が変わり、住まいの優先順位が変わるのは当然だ。
「人生百年時代になり、実は同じ家に住み続けることが最適ではない場合も多くなっています。終の住まいと不確実な未来を想定して考えすぎるよりも、予測可能な単位の10年くらいを目安に、暮らしの最適化を考えるのがいいと思います。その先は、新たな住まいに住み替えてもいいし、そのまま修繕やリノベーションするか、その時のベストを選択していきましょう。随時考えればいいんです」(長井さん)
庭で採れたミカンや赤トウガラシを食卓に並べて。自分の畑で採れたものをそのまま食するのも、実現したかった暮らしのひとつ(写真撮影/相馬ミナ)
自作した棚には、暮らしや住まいの本が並ぶ。住まい選びや移住の相談のほか、DIYやインテリアのワークショップの開催など、自身の経験で仕事の幅も広がった(写真撮影/相馬ミナ)
(写真撮影/相馬ミナ)
「目玉商品はない」「資産価値だけの家選びはオススメしない」「どんな欠点なら許せるかが大事」「マイホームは一生もの、ではない」――。取材時も、二人からはさまざま金言が飛び出した。長年、不動産業界で働いてきたからこその知見といえる。「住まいの新常識」を知ることで、考えたこともなかったような住まいや暮らしとの新しい出合いがあるかもしれない。ぜひ参考にしよう。
●取材協力
中屋香織さん
長井純子さん
著書『住まいの新常識101』(エクスナレッジ)
「自分らしいこだわりの家を選ぼう」「資産価値より大切な居住価値」「ワケあり物件は理由次第でお宝物件」「現地見学時は五感をフル活用」「100年先まで残る家、使い捨ての家」など、住まい選びだけでなく住んでからのリフォームや暮らし方まで役立つ新常識がイラストや図表などとセットでわかりやすい。
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