『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』刊行記念対談 高鳥都×秋田英夫「沙汰なしに沙汰あり」<前編>
もはや風物詩となった必殺本の著者・高鳥都氏と必殺党・秋田英夫氏のディープでロングな対談をお届けします。第4弾となる今回もその勢いは止まりません。「必殺」の話をし始めたら他の追随を許さない秋田氏が繰り出すマニア語りと、仕掛人・西村左内のように鋭く取材対象に斬りこむ高鳥氏の現場秘話が織りなす「必殺談義」、1文字たりとも見逃せない特濃な内容となっています!
高鳥都(『必殺シリーズ談義』著者)
秋田英夫(ライター/必殺党)
『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』
https://rittorsha.jp/items/24317414.html
著者:高鳥都
定価:3,300円(本体3,000円+税10%)
発行:立東舎
第4弾は“俳優”大集合
秋田 立東舎の「必殺シリーズ」インタビュー書籍としては第4弾となる本書、『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』が撮影スタッフを中心とした内容だったのに対し、今回は必殺シリーズを彩った「俳優」のみなさん、合計15名もの方々の証言集になりました。前作が『最後の大仕事』だったので、ファンの人たちも「三部作で完結か?」と心配していただけに、今までとは違った角度から攻めた高鳥さんの必殺本が出たことに、驚きと喜びがありましたね。
高鳥 また出るというので「意外」って声も聞こえましたが、でも『始末』のあとがきで「四度渡った泪橋……」と書いてまして、次もできるならばやりたいって思いは強かったですよ。むしろ、やる気まんまんでした。
秋田 『最後の大仕事』とタイトルについていたから、これで最後か~みたいに思っていた人の裏をかく、という思いもあったんじゃないですか。
高鳥 映画『必殺! 主水死す』のキャッチコピーに「シリーズ完結! さらばムコ殿…」ってありましたが、その後も続いていきましたから(笑)。
秋田 シリーズが最後だから、みんな観てね! という宣伝の仕方は、愛すべき映画『ゴジラFINAL WARS』などもそうですけど、背水の陣というか、もう終わりにしなきゃならんけれどもいつの日のか復活させたいから、ここで当てておかないと……という送り手側の思いをひしひしと感じますよね。
高鳥 ただ、本が売れなければそのまま強制終了という恐怖もありますからね。そのときは、「三部作できれいにまとまった」と言えばいいんですが(笑)。
秋田 最初からシリーズ化したいって色気を出しすぎると、逆に続かなくなるケースって、映画にもけっこうあるだけにリアルな言葉ですね。必殺シリーズも『必殺仕掛人』に続いて『必殺仕置人』を作ったとき、いきなりポスターに「必殺シリーズ第2弾!」って謳っていたのは、今思えばすごいと思います。『仕置人』の時点では、その後シリーズが何十作も続くとは思っていなかったはずなので。
高鳥 「大仕事」という意味では、今回の『談義』のほうが版元的には一番の大仕事だったと思います。俳優さんがメインになったことで、使用写真の数が飛躍的に増えましたし。
秋田 今野書店のトークイベントでも、高鳥さんがそういったこと話していましたね。今回、俳優さんにスポットを当てたインタビュー本になりましたけれど、前3冊でまだお話をされていないスタッフさんの証言を集めた第4弾を作るという発想はなかったのですか。
高鳥 確かに、最初に僕が想定していた「第4弾」とは違うものにはなりました。まあ、それなりにハイペースで刊行していることもあり、4冊目もそれまでと同じ形式にしてしまうと、パターン化する恐れがあるかな、という思いはあって。「スタッフを中心とした証言本」というコンセプトを、今回は曲げつつ作っていった感じです。
秋田 ガラッと変えていった。
高鳥 でも、布石は打ってあったんですよ。『秘史』では山﨑努さんお一人、『異聞』では先ごろ惜しくも逝去された火野正平さんと、中村敦夫さん、中尾ミエさんの三人、『始末』では三田村邦彦さん、中条きよしさん、鮎川いずみさん、京本政樹さん、村上弘明さんの五人。1、3、5、15とレギュラー俳優の数をどんどん増やしていきました(笑)。
▲記念すべきシリーズ1作目『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』
秋田 必ず前の本よりも増やしていく法則ですね。4冊目が俳優メインの本になったのは、読者的にすごくしっくり来ましたよ。前作の『始末』では80年代の必殺ブーム期の作品、いわゆる「後期必殺」の話題を集めた内容でしょう。『秘史』『異聞』でシリーズの誕生過程~発展を、『始末』で空前の必殺人気の高まりをスタッフの証言を交えて見つめ直した「次」だからこそ、視点を変えて演じる側……俳優さんたちの証言集が供給されることに意義があるなと思いました。
高鳥 おおっ、いいこと言いますね!
秋田 ときどきいいこと言うんですよ。こういう書評を書かなあきませんね(笑)。俳優さんのインタビューといえば、高鳥さんが「あとがき」にも書いていますけれど『時代劇マガジン』(辰巳出版)で過去に必殺シリーズ俳優インタビューが多く掲載されていて、現在は鬼籍に入られている方もいらっしゃいますし、それらをまとめた単行本が出てくれたらいいんだけど、なかなか先方に動きがないと。そういった流れの上で『談義』の企画があったとうかがっています。
高鳥 そうですね。本来ならやる予定ではなかったイレギュラーな本なので、どこか労働争議のスト破りのような申し訳なさもあります。
秋田 たとえば三田村邦彦さんや京本政樹さんって『仕事人』シリーズ放送当時の記事が雑誌などにたくさん載っていたりしますけど、週一回のテレビ放送が終わってからずいぶん経った現在、改めて「あのころの必殺」をふりかえる証言をしてくださったところ、これが今回の『談義』の面白さにつながっていると思います。もちろん、誰が訊いても同じなんてことは絶対なくて、前3冊『秘史』『異聞』『始末』を踏まえた高鳥さんがインタビュアーだからこそ、ですけど。
高鳥 4冊目が俳優中心というのは「満を持してお届け」みたいな感覚になりました。もう100回くらい言ってますけれど、これを機に今度こそ辰巳出版さんから『時代劇マガジン』の俳優インタビュー本が出てほしいですね。先方からも「煽ってください」と頼まれてたので、今日も無償で訴えておきます。Twitter(現:X)でも僕のところに必殺ファンからリクエストがあるんですが、いや、それは辰巳に言ってほしいし、リプライではなく公にツイートしてほしい。『談義』のあとがきにも書きましたが、燎原の火のようにファンの声が高まることを願っています。
秋田 先ほどお話に出た「スタッフ中心の証言本」の続き、という構想もまだ生きてるんですよね。
高鳥 そうですね。
秋田 ではまた、そういった内容の必殺本が世に出る可能性が高いですか。
高鳥 まだ取材できていないスタッフの方もいらっしゃいますし、ぜひ機会があればやりたいです。ただ、今回の『談義』は「俳優インタビューだから売れるでしょ〜」といろんな人から言われつつ、じつはまだ重版かかっていないので……今までの本より部数が多いという事情もあるのですが、それこそまずは『談義』の面白さが燎原の火のように口コミで広まらなければと思っています。
常に緊張感をもって臨む取材
秋田 著者の高鳥さん、編集の山口一光さんのコンビで「必殺」の本を4冊出しているわけですけれども、最初の『秘史』のころと比べても今回の『談義』では取材の仕方もよりスムーズに進行したんじゃないですか。それがシリーズ化のメリットだと思うので……。
高鳥 それほど変わらないですね。取材する方がいつも同じというわけではないですし、常に緊張感をもって臨んでいます。取材後もSNSで自慢げに匂わせを書いたり、有名人と会ったことに浮かれたり、なるべくそういうことはしないようにして。
秋田 わかります。いかに二度、三度お話を聞きに行っている方といえども、常に緊張感をもっていないと、大火傷する危険がありますよね。慣れていいのは、取材先へ迷わないで行くことだけ(笑)。高鳥さんなら、京都映画(現:松竹撮影所)に行かれるときなどは、一回行ってるから次は行きやすいな~とか、そういったスムーズさはあるでしょう。現場のみなさんに覚えられると、また取材がしやすくなるかなって。
▲意外にも初の組み合わせだった石原興+林利夫対談
高鳥 やりやすさといえば、『始末』からはインタビュー場所として、スタッフのミーティング用のプレハブ小屋をまるまる貸していただけるようになりました。やっぱり、部屋が広いと精神的に楽です(笑)。
秋田 『秘史』のときは「なんか知らん奴が来たな」と思っていても『異聞』『始末』と続いて「前に来た奴が、また来よったな」と(笑)。こうして信頼関係が築かれていくんですね。
高鳥 数をこなすことによって、ノウハウが蓄積されるというのは絶対にあります。立東舎から4冊の必殺本、そして「かや書房」から『必殺仕置人大全』『早坂暁 必殺シリーズ脚本集』が、この2年のうちに出たわけなんですけど、出版不況のなか普通はこんなに続かないと思うんです。根底にはやっぱり必殺シリーズの根強い人気がありますし、他の出版社でも必殺の本を出してもらいたいですよね。
秋田 『秘史』の中村主水や『談義』の西村左内のような「暗闇にシルエットだけが浮かんでいる」渋すぎる写真をチョイスするのは、高鳥さん独自の研ぎ澄まされた感覚だと思います。他の出版社が出すのなら、また別な角度から斬りこんだ本がいいですよね。
高鳥 もっとド派手で景気いいノリで(笑)。これ、出来上がってから気づいたんですが、『談義』の表紙って帯をズラすと、あら不思議! 写真が消えちゃうんですよ。
▲帯がズレるとビジュアル要素ゼロに!
秋田 書店で平積みされているときなんて、よく帯がズレて上にあったりしますから、それだと何の本なのかわからなくなる(笑)。
高鳥 手元の本がたまたまそうなってて、さすがに攻めすぎだなと思いました(笑)。
秋田 4冊目にして、とてつもなくハードボイルドな表紙になりました。
高鳥 こういう表紙も、4冊目だからこそですね。あのスチールは『仕掛人』の第5話「女の恨みはらします」の殺しのシーンで、いつか使いたいと思いつつ未使用だったので。
秋田 一方、必殺シリーズの本だと一目でわかるのは『異聞』の『必殺仕置人』トリオ(念仏の鉄、棺桶の錠、中村主水)と『始末』の中村主水(『必殺仕事人IV』より)ですね。
▲上からシリーズ第2弾『必殺シリーズ異聞 27人の回想録』、第3弾『必殺シリーズ始末 最後の大仕事』
高鳥 そうですね。『始末』だと主水がギュッと睨みをきかせてて。
秋田 「買え! 読め!」とすごんでいる(笑)。『談義』の場合、帯でしっかり「俳優陣15名が大集合!!」と謳っていますし、表紙のインパクトはかなりあると思います。俳優さんということで、朝日放送の番宣スチールの出番が前3冊よりも多いんですよね。
高鳥 『仕事人』の伊吹吾郎さん演じる畷左門の写真が、意外とバリエーション少ないなとか、人によって差はありました。決まったポージングの写真より、劇中のドラマ性を感じさせるようなスチールが欲しかったんですけど。『仕事人』って全84話もありながら、左門の劇中での動きを追うような写真がなかなか見当たらないとか。それと、必殺シリーズに比べてスチール貸し出しの機会が少ない『おしどり右京捕物車』や『斬り抜ける』の美麗なスチールがたくさん残っていて、それにはすごく感動しましたね。
役者とスタッフ、視点の違い
秋田 第1作『必殺仕掛人』から、週一のレギュラー放送の区切りとなった第29作『必殺剣劇人』まで、およそ15年にわたる必殺シリーズの諸作品で活躍された俳優さんの最新インタビューを読むことができるというのが、本書の何よりの魅力ですね。冒頭の『仕掛人』西村左内役・林与一さんのインタビューでは、藤枝梅安を演じた緒形拳さんとのライバル関係をはじめ、非常に興味深いお話がバンバン飛び出して、むさぼるように読みました。今年(2024年)の9月に行われた今野書店での発売記念イベントでも、林さんのとっておきトークが飛び出して盛況でした。林さん、『談義』の取材のときからあのようにエネルギッシュな話し方をされていたのですか?
高鳥 取材でお話をうかがったときよりもテンション高めというか、やっぱりああいったイベント会場だと、お客さんが集まっているから役者さんとしては「ノってる」感がありましたね。でも取材時も、イベントと同じく52年前の出来事をしっかりと記憶されていて、すごく充実した内容になりました。林さんはSNSでも『仕掛人』当時をふりかえっていたり、ラジオ番組に出演されてましたし、そろそろ活字でも残すべきではないかと。
▲『必殺シリーズ談義』は林与一インタビューから始まる
秋田 『仕掛人』のエンディングで、林さんのクレジットがトップだったり、緒形さんがトップだったり、回によって違っていた。あの秘密が林さんご本人の口から明かされたのも凄かったです。てっきり、林さんはクレジットの序列にこだわっていなかったのかなと思っていたんですが……。
高鳥 いやいや、やっぱりそこは役者さんが特にこだわる部分だったということでしょうね。林さん、マネージャーをされていたお母上から「まずタイトル(クレジット)の話を」と言われたくらいですし。一番手か二番手か、という部分は重要だったと思います。
秋田 林さんのところで面白かったのは、松野宏軌監督がカメラマンの石原(興)さんに「いじめられてると感じた」くだりです。『秘史』『異聞』『始末』を熟読されているファンの方ならよくお分かりだと思いますが、松野監督は撮影スタッフの中でも評価のされ方が千差万別で、面白くないホン(脚本)を押し付けられてもそこそこの内容に仕上げる職人としての評価に対し、たとえ凄い内容のホンが来てもそんなにいい作品にならないとか(笑)、えらい言われ方をするときもありました。『談義』では林さんをはじめ「演じる側」から見た監督像、スタッフ像というのがうかがえて、とても興味深かったです。
高鳥 映画評論家であり、監督でもある樋口尚文さんは『談義』の書評として「役者のエゴ」という絶妙な表現をされていましたね。
秋田 松野監督は必殺シリーズの演出作品が最多ということもあり、たくさんいる俳優それぞれの受け止め方によって、万華鏡のように印象が変化していく。
高鳥 工藤栄一監督の評価も、わりとそんな感じですね。スタッフからは抜群の人気でも、出演者の立場だと肉体的に無理をさせる監督であると大出俊さんが語っていたり……そのあたり『時代劇マガジン』の大出さんインタビューだと同じ内容をオブラートに包んであったので、時代が変わると発言も変わるんだな〜と実感しました。
▲大出俊が語る『必殺仕業人』の舞台裏
秋田 あと、役者さんはやっぱり撮影現場でのスタッフ各氏に対する印象が重要であって、オンエアされた作品の出来栄えであったり、あのとき撮ってた回がどんな評判だったか、みたいな部分にはあんまりこだわっていないのかな、という印象を受けました。
高鳥 忙しいですし、なかなかオンエアも観れなかったと思うんです。逆に石坂浩二さんはこまめに作品内容をチェックされていて、そういう部分も面白い。
秋田 こっちの監督を高く評価する一方で、別な監督についてはえらい辛辣な意見が出たりして……林さんなんて『仕掛人』の後半になると、ある監督への拒絶反応で出演をボイコットしたとか、凄い話ですよね。
高鳥 監督やスタッフの評価も、ご本人の主観ですからね。聞き手は「そうですか」としか言えません。実際のところ、あのころ役者さんがどう思っていたか、そこには誇張や忖度もあると思いますが、それもふくめてインタビューだと思っています。
秋田 今までテレビを観ながら、あの監督の回は凄いなあ、現場では俳優さんたちも納得づくで演じているんだろうなあと想像していたことが、ご本人の証言で裏返ってしまったり……。深く掘り下げられた内容のインタビューを読むときの、読者の楽しみがそういった「固定観念の破壊」にあるような気がします。ただ、石原さんが松野監督の「撮ってほしい」と頼んだカットを「そんなもんいらん」と言って撮りたがらない。あれは松野監督が気の毒に思えますよね(笑)。
高鳥 『秘史』『異聞』『始末』といろんなインタビューで出てくる、定番のやりとりでもあります(笑)。
秋田 松野監督の「このカット撮って」の中には、細かいけれど映画の中では必ず生きてくる「必要なカット」もあったように思います。すべて「いらん」わけじゃないんじゃないかと。
高鳥 いらん、というのは現場のノリで、作品自体は監督が構築しますからね。松野監督のカット数の多さ、その積み重ねは現場の評判が悪かろうと作品に反映されています。
秋田 たしかに石原さんが監督された作品のほうがカット数は少なくて、「画が足りない」という印象を受けることもありますね。
情報のアップデート
高鳥 そういえば去年、『必殺仕事人 激突!』は「ビデオで撮影した素材をフィルムに変換」=「キネコ」で放送用マスターを作っているといった誤情報がnoteの対談記事になったことがありました。どう見てもフィルム撮りで、仕上げのプロセスが従来のシリーズと違うだけなのに。
秋田 実際は「フィルムをビデオに変換」=「テレシネ」ですから、うんちくとしては逆の説明になっていますね。
高鳥 あれはベテランのライターさんの発言で、しかも朝日放送の関係者から聞いたというソースまで書かれていた。誤情報が出るにしても、事の大小というものがあります。発信した人が「当事者から聞いた話」としてデマを広めるのはけっこうマズいと思うんです。知らない人は確かめようがないし、そう書かれると信じてしまう人が出てくる。
秋田 ただ、「今まで知らなかった! すごい!」みたいなリアクションをする人が500人くらいいたとしても、その人たち自身がものの数日で忘れ去ってしまうのがSNSの恐ろしいところ。
高鳥 でも、500人のうち1割くらいは「こんな話知ってますか」というように、デマのうんちくを再拡散しかねない……。妙に説得力があって広まったものや、業界人が発信した誤情報は可能な限り、発信源からちゃんと指摘していかねばなるまい、とは思っています。細かな勘違いまでいちいち訂正を入れていたらキリがないですけど、ここぞってときには勇気を出して。まあ訂正もされず、忘れたころに当てこすり食らったりするだけなんですが(笑)。
秋田 デマに振り回されるっていうのは映画全般でも、スポーツや音楽などの他ジャンルでも多かれ少なかれ出てくる現象ですけど、こと「必殺」に関してはファンが享受する「舞台裏」情報が非常に少ないですから、それだけデマがまかりとおるのかなと思います。
高鳥 ただ、テレビ時代劇としては情報に恵まれているほうですよね。
秋田 大人の視聴者をメインターゲットにしている時代劇の中でも、ひときわキャラクターもの、特撮作品に似た要素を備えているのが「必殺」にマニアが多い理由だと思っているんです。山田誠二さんが書かれた書籍『必殺シリーズ完全百科』(1995年)など、コンスタントに関連本が出ているのは大切なんですけど、その中の、ほんの数行書かれている小さな記事を情報源としながら、微妙に誤読していたり思い込みが過剰だったり、拡大解釈だったりして、不確かなまま覚えられて20年、30年と時間が過ぎた今になってもファンの間で語り継がれているケースが、けっこうあるんですね。
高鳥 こういう言い方は良くないんですけど、情報がアップデートされていないことが本当に多い。
秋田 情報が何十年も更新されず、不確かなうんちくを披露する人も、いるにはいますね。いわゆる「番組宣伝」だったり「広報用資料」を出典とするなら、いくら年月が過ぎても古びた情報になることはないのですが、やっかいなのは「誰と誰が仲悪い」とか「誰々はこんなことを思っている」みたいな、人間の感情にまつわる情報だと思うんですよ。感情は日々の状況によって変化するものだから、情報として処理するものではない。「山内久司と山内としおが親子」みたいな、ふと思いついたような妄想を平気で発表するようなデマなんていうのも、ここで話題にするだけでどっと疲れるくらいやっかいですね。その点、『談義』での俳優さんたちの最新インタビューが、停滞していた「必殺」情報のアップデートにつながるのではないか、と思っています。
高鳥 これまでスタッフインタビューを中心にやってきて「地味だ」「マニアックだ」という指摘も受けましたが、マニアだけでなく映画の詳しい知識を持たない方が読んでも、作品が作られるプロセスや集団作業そのものを「面白い」と思ってもらえるような内容になったと自負しています。キャストインタビューをメインとした『談義』は、前作よりもっと「入りやすい」作りになっているかもしれません。今度はテレビに「映っている」人たちの話ですから、一段と敷居が低いのではないでしょうか。
秋田 読みやすさ、お話の面白さがまず先にあって、読んでいくうちに「濃密情報」が頭の中に入っていき「知識」として蓄えられるというのが理想かな。高鳥さんの必殺本がコアな必殺ファンだけでなく、テレビドラマ全般のファン、映画ファンの支持を受けているのも、そういった姿勢を貫いているからなんでしょうね。
キャストの濃密裏話が満載!
秋田 俳優さんのお話に戻りますが、『新 必殺からくり人』『必殺剣劇人』の近藤正臣さんインタビューなんて良かったですね。とても自由奔放というか、ざっくばらんで好きなことを好きなようにお話されている感じで。蘭兵衛(高野長英)やカルタの綾太郎、『斬り抜ける』の楢井俊平といった二枚目のイメージで読み始めた人は、キャラの違いでビックリするかもしれませんけど(笑)。
高鳥 そうですね。近藤さんの過去のインタビュー記事を読むと標準語で話していて、実際にそうなのか原稿の段階で直してるのか分かりませんが、今回は喋り言葉(関西弁)を重視して、なるべく言い回しを変えないようにしました。
秋田 ところどころで、近藤さんが我に返ったかのように「……こんな話でええの?」と高鳥さんに確かめるくだりも最高でしたね。高鳥さんがそれを受けて「はい、こういう話を聞きにまいりました」と返すやりとりもすばらしい。
▲京都で生まれ育った近藤正臣が京都映画を振り返る
高鳥 近藤さんに会うため、岐阜の郡上八幡まで行ってきましたからね。やっぱり旅費もそれだけかかっていますし、こちらとしても一言たりとも聞き逃せないといった覚悟でいました。近藤さんは火野正平さんとずっと同じ事務所で、マネージャーさんが郡上八幡のご自宅まで連れて行ってくださったので、今回の火野さんの訃報は本当に堪えました。
秋田 『異聞』の火野さんインタビューもお人柄が出ていて、良かったです。追悼の意味で『異聞』のインタビューを読み返していたファンも多かったようですね……。また『談義』では、必殺から離れたテレビ時代劇についての話で盛り上がるケースもありました。『必殺仕業人』やいとや又右衛門役・大出俊さんは『仕業人』のお話も楽しかったのですが、三船プロの『荒野の素浪人』など幅広い作品の話題が出て、読み応えありました。
高鳥 大出さんは都内での取材だったんですが、あいにく大雨が降っていて、駅から歩いて5分ほどの距離なのにタクシーを使いました。もう、取材先に行くまでがたいへんだったという珍しいケースです(笑)。
秋田 『必殺仕事人V 激闘編』の壱役・柴俊夫さんのインタビューもよかったです。柴さんが必殺について語るというのは、オンエア当時の「テレビ朝日番組対抗ボウリング大会」での短いコメントとか、朝日放送の深夜番組『ナイトinナイト』など、それほど多くなかっただけに、うれしい発言がいくつも飛び出しました。その一方で、小林桂樹さんが梅安を演じられた東宝の『仕掛人・藤枝梅安』や、『江戸の激斗』といった作品についても、ノッてお話されていましたね。
高鳥 柴さんからは壱という役のアプローチや果たせなかった部分など、興味深い話題が飛び出しました。必殺シリーズは京都映画ですが、東京で作られた『江戸の激斗』や『仕掛人・藤枝梅安』との対比は、やっぱり聞いておきたかった部分です。あと、これは意図した部分ではないのですが、柴さんをはじめ東映京都への批判がけっこう多くて……逆に徹底した管理主義でスケジュール厳守という東映の現場についてのインタビュー集が必要だなと思いました。ちょうど今『侍タイムスリッパー』の大ヒットで東映京都撮影所に注目が集まってますし、なにかしらの作品を切り口に誰かやるべき!
秋田 めっちゃ煽りますね! 東映もまだまだスタッフや大部屋俳優のみなさんがご健在でしょうし、そういう本が出たらぜひ読みたいものです。そういえばインタビューの最後のほうで柴さんが「近々(俳優に)復帰します」と言われていて、しばらくしてから『相棒season23』の第1話を観ていると、なんと総理大臣の役で出演されていたのを観て、驚きました。これか~って(笑)。
高鳥 最後、爆破テロに遭って「続く」というね!
……というわけで、熱のこもった「談義」はまだまだ続き、さらにヒートアップしていくようです。後編もどうぞお楽しみに!
『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』
著者:高鳥都
定価:3,300円(本体3,000円+税10%)
発行:立東舎
(執筆者: リットーミュージックと立東舎の中の人)
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