「泣きながら踊ってるというのかな。悲しさや憧れや様々な感情が入り混じっているけれど、いつもどこかに希望がある。それが私の音楽」カイリー・ミノーグ『Tension II』インタビュー
2023年にカイリー・ミノーグがリリースした『Tension』は世代を超えた支持を獲得。多くのZ世代が“Padam Padam”をSNSに投下し、デュア・リパら錚々たるアーティストがカイリー・ミノーグがいかに音楽に影響を与えたかを語り、ポップ・ダンスのクイーンとして確固たる地位を見せつけた。その熱も冷めやらぬ10月18日、続編となるニューアルバム『Tension II』をリリース。カイリーならではのハイトーンヴォイスが際立つこのエネルギッシュな本作で、彼女はさらなるエレクトロニックなフィールドに挑戦し、前作に引き続きダンスフロアを盛り上げるアンセムを送り出した。リードシングル“Lights Camera Action”をはじめ、The Blessed Madonnaとの“Edge of Saturday Night”、さらにオーヴィル・ペック、ベベ・レクサ、トーヴ・ロー、シーアとのコラボレーションも収録。2024年、すでにBRIT賞でグローバル・アイコン賞、“Padam Padam”でグラミー賞のベスト・ポップ・ダンス・レコーディングを獲得した世界のポップアイコンに、制作の背景から3月に控えた日本公演に至るまでを聞いた。
ー『Tension II』はずっと踊っていたくなる素晴らしいポップ・ミュージックが詰まったアルバムですね。「踊りたくなる曲を届けたい」とインタビューで答えていましたが、あなたの曲がこんなに普遍的に愛されるのは、あなたの“踊りたくなる”という感度やセンスがずば抜けているからだと改めて感じます。あなたの中で「踊りたくなる曲」の基準とは?
カイリー・ミノーグ「ビート、フック、リズム……。それが何なのかを、結局は誰もが探し続けているんだと思う。難しい質問ですね」
ー個人的には、あなたの曲の中にあるエネルギーと、ナイーヴさや切なさが混じり合っているのが好きなんです。
カイリー・ミノーグ「そう思ってもらえるのはとても嬉しい。“切ない感じ”は確かにあると思います。泣きながら踊ってる……とでも言うのかな。私は“メランコリック・ハイ”って呼んでるんです。ちょっと切ないけど、気分は前向きな感じ。悲しさや憧れや様々な感情が入り混じっているけれど、いつもどこかに希望がある。それが私の音楽だと思う。もちろん『パーティで素敵な人に会って、これから恋が始まりそう』という100%盛り上がるだけのパーティソングもあるし、それはそれでいいんです。でもそればかりじゃ何だか虚しいでしょう? だから悲しみを抱えながらもどこかで希望や気持ちを高めてくれるような曲をやることを心がけているし、常にそのバランスを大事にしているんです。だから“エモティヴ・ポップ”っていう呼び方がいいのかも」
ーまさにそうですね。『Tension』『Tension II』は、あなたがコロナ禍で培ったボーカルエンジニア、プロデュースが活きたアルバムでもあります。曲作りの過程にさらに深く関わって得たことは?
カイリー・ミノーグ「曲作りには何年も前から常に関わってきました。でもボーカル録りにまでに関わるようになったのは、まさに革命的だった。その部分を自分でコントロールするというのは、これまでとはまるで違う経験だったんです。これまで人に『もっとここをこうしていれば良かった、と後悔することはあるか?』と尋ねられても、正直なに一つ思い浮かばなかった。でも今は『もっと早くから、ボーカル録りを自分でやっていれば良かった』と思います。マイクの前で時間を過ごすことの大切さを知ったというか……だってマイクは曲やパフォーマンスへの“入口”みたいなものだから。
今思えば、これまではマイクを手にするのは特別な時だけだったし、ストレスとまでは言わないにしても、一種の緊張感があったんです。マイクを持つのは、レコーディングやサウンドチェックや本番という特別な場面だけで、それが終わったらしばらくはまたマイクとはお別れで。でも今は常にマイクと一緒。すごく楽しいんです。これまでボーカル録りの時になるとレーベルから『近くにスタジオがあるよ』と言われてきたけれど、今は『大丈夫、自分でやるから』と言える。自分のスタジオを持ち歩いているようなものなんです。本当に最高。その違いは『Tension』『Tension II』にもあらわれていると思うので、聴けばわかってもらえるはず」
ー自分の声をより客観的に見て、音楽に落とし込むことで得られたことはありましたか?
カイリー・ミノーグ「客観的というのとはちょっと違うかもしれない。それよりは、レコーディングにおいて私の役割が他人に任されることなく、私の手元にあった、という感じ。スタジオで書いて、その日にボーカル入れをした曲もいくつかあったけど、大半は私一人の時間の中で、じっくりと向き合って作った曲ばかり。大抵、作品を作る時というのは、たくさんの人が関わっているものだけど、今回は本当に一人だけの“私の時間”、“私のエネルギー”、“私の決断”で進んだ。作品に対する理解を深め、責任感、所有感をより感じられるようになったという意味で、すごく重要なステップだったと思っています」
ーこのアルバムの方向を決定したのはどの曲になりますか?
カイリー・ミノーグ「間違いなく“Padam Padam”。あの曲が持つどことなく不気味な、と言うとちょっと重たすぎるかもしれないけど、『これから何が起きるんだろう?』と未知なるものへの予感を感じさせるサウンド。初めてデモを聴いた時、まずタイトルからして『“Padam Padam”ってなに? 意味のない造語?』って不思議だった。曲を書く時、意味のない言葉を仮タイトルをすることがあるので、その一種なのかなと思って、それだけで興味を惹かれました。アルバムの中で、あの曲は最初に録った曲ではなかったんです。大抵、何曲か聴いて、書いていくうちに『この曲がアルバムの土台になる。この世界で行こう』と思わせてくれる曲に出会うもの。“Padam Padam”は間違いなく、そんな曲だった」
ーでもそれは『Tension』の話ですよね?『Tension II』は?
カイリー・ミノーグ「実は『Tension II』も“Padam Padam”からの流れを引き継いでいるんです。『Tension』から1年後にリリースされたわけだけど、同時にツアーも発表され、今も『あの世界』は続いている。例えるなら、映画の通常サイズのスクリーンが、ワイドスクリーンになった感じ。サウンドもドルビー・バージョンになって、よりパワーアップしたというのかな」
ーThe Blessed Madonnaら様々なアーティストとのコラボレーションを見ていて、とても柔軟に多種多様な音楽を取り込んでいるように思います。あなたからインフルエンスを受けた音楽や様々な音楽との循環を淀みなく行いつつ、より個性を強めていくあなたのあり方は理想ですが、そのバランスのとり方をどのように行っていますか。
カイリー・ミノーグ「とてもいい質問ですね。私の場合……本能で自分に合うことをやっているだけなんだと思う。たまに『ちょっとやりすぎ?』って感じることもあるけど、車の運転と似ていて、『あ、少しレーンから外れたな』と思ったら『じゃあ、本来のレーンに戻ろう』とハンドルを切り直す。少しずつ違うことを試す中に自分らしさを保てるのであれば、それが私の本来のスタイル。
それができるようになるまで、時間はかかりました。完璧なんてあるのかは分からないけど、以前よりは自然体でやれていると思いたいです。でもそこまで自分に厳しくならなくてもいいのかも。だって結局、何をしようともその人の個性は出るものだから。例えば、昔の若い頃の映像を見ると『私ったら何やってたの?』って思うこともあるけれど、同時に『あら、私ったら意外としっかりしてたじゃない!』と思うこともある。結局は、自分らしさを見つけることの大変さを、あまり苦と思わず、楽しみながら軽やかにやれてきた……のかな。それをどうやってこれたのか、自分ではわかりません。でもそれが一番肝心な部分だと思うので、指摘してもらえたのは嬉しい」
ーツアーが発表されて日本でも歓喜の声が上がっています。2024年に行われた様々なショーを拝見して、待ちきれない思いです。どんなショーになるかヒントをいただけますか。
カイリー・ミノーグ「もちろん! 80年代、90年代、2000年代以降とすべての年代のヒット曲をカバーするつもり。当然ながら中心になるのは『TensionI』と『Tension II』からの曲。“Padam Padam”“Hold On to Now“Lights Camera Action”……どれもパフォーマンスするのが大好きな曲なんです。あとその前の『Disco』ではツアーが出来なかったので、そこからの曲も披露する予定です。チーム全員、バンドもダンサーたちと一丸となってね。ショーは二つとして同じものはなく、やるたびに毎回違ってきます。観客がそれぞれ違うエネルギーをもたらしてくれるので、私たちからも新しいものが引き出されるんです。だから日本がツアーの日程に入っていて、本当に嬉しい。こうやって話してたら、日本向けの何か特別なことを考えなきゃいけないかも、って今、思い始めたところです。何がいいか、私の中ではわかっているんだけど、まだそれは内緒(笑)」
ー最後に『TensionI』と『Tension II』は双子座のシンボルだとおっしゃっていましたが、私の周りでは辛い時「水星が逆行しているせいだ」とよく言いあっているんです。水星逆行はご存じですか?
カイリー・ミノーグ「ええ」
ーそんな何をしてもうまくいかないと感じるような時をどのように乗り越えているか、またはどのように過ごしているか教えてください。
カイリー・ミノーグ「誰も水星逆行なんて望んでないですよね(笑)。でも多分それには意味があって、私たちをスローダウンさせるためには必要なのかも。私は『すごく速い』か『何もないか』のどちらかみたいなところがあって、真ん中のバランスがなかなか取れないタイプ。だからさっきも言ったように『バランスをとらなきゃ』と常に思うようにしていて。典型的な双子座。でも実際に物事がスローダウンするとちょっと焦りを感じたりするので、自分からはスローダウンできない。だから水星逆行が必要なのかも? ほら、また矛盾したこと言ってるでしょう? 根っからの双子座だから常に物事の両面を見てしまうんです」
ーーありがとうございました。
カイリー・ミノーグ「ありがとう。どれもいかにも双子座の人が考えた質問という感じがしたんだけど、双子座ですか?(笑)」
text Ryoko Kuwahara(https://www.instagram.com/rk_interact/)
カイリー・ミノーグ
『Tension II』
https://kylie.lnk.to/TensionIIAlbumPR
1. Lights Camera Action
2. Taboo
3. Someone For Me
4. Good As Gone
5. Kiss Bang Bang
6. Diamonds
7. Hello
8. Dance To The Music
9. Shoulda Left Ya
10. Edge Of Saturday Night (with The Blessed Madonna)
11. My Oh My (with Bebe Rexha & Tove Lo)
12. Midnight Ride (with Orville Peck & Diplo)
13. Dance Alone (with Sia)
『Tension Tour』日本公演
▼日時・会場
2025年3月12日(水)
東京:有明アリーナ
Open 17:30 / Start 19:00
https://www.livenation.co.jp/kylieminogue-2025
お問い合わせ:ライブネーション・ジャパン LIVENATION.CO.JP
企画・制作・招聘:Live Nation Japan合同会社
後援:J-WAVE
アーティスト情報
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