【グルメ】絶滅危惧種ともいえる伝説的パスタ「クロゼッティ」が実に興味深くてウマイ / グルメのロストテクノロジーとは

これから紹介するイタリアンレストラン『マジカメンテ』(東京都渋谷区恵比寿3-41-9)。その伝統と味に感動してから「また行きたい」と思いつつ行けずにいる、いつも心のどこかに存在する店だ。このイタリアンレストランの「興味深さ」を改めて伝えたいと思う。

ヴァレーゼ・リーグレ発祥の伝説的パスタ

イタリアはパスタにおいてグルメの宝庫だが、リグーリア州のアペニン山脈の麓にある小さな町、ヴァレーゼ・リーグレが発祥の伝説的パスタがあるのをご存じだろうか。

Google Mapsでヴァレーゼ・リーグレを見てみると、かなり小さな民家の集まりのように思える。イタリアにはコムーネと呼ばれる小さな集落があり、ここはそのレベルにある地域だ。市町の周囲は牧歌的な草原や畑が広がっている。

あまりにも小さなコムーネで生まれたパスタ。希少なグルメを追い求める者として、ただそれだけで心が躍る。

円形エンブレムを押してクロゼッティが完成

ヴァレーゼ・リーグレ発祥のパスタは「クロゼッティ ディ ヴァレーゼ リーグレ」(以下クロゼッティ)と呼ばれている円形のパスタで、一枚一枚にエンブレムが押されている。そう、円形のパスタにスタンプでエンブレムを押して模様を浮き出たせ、クロゼッティが完成するのだ。

手作りのスタンプは多種多様であり、そのエンブレムの模様は唯一無二のものもある。

日本では『マジカメンテ』でシェフ手作りのものが食べられる

クロゼッティは200年以上の歴史があるものの、あまりにも珍しい郷土パスタなため、イタリア国内でも食べられる店は極めて少ないと思われる。

日本では『マジカメンテ』でシェフ手作りのものが食べられる。筆者がレストランに出向いた当時は、24種類のパスタから選ぶことが可能だった。

スタンプは絶滅危惧種

クロゼッティのエンブレムはスタンプを用いてシェフが一枚一枚丁寧に捺していくのだが、このクロゼッティも絶滅危惧種ならば、このスタンプはさらに絶滅危惧種。

既に述べたように、クロゼッティはスタンプを押して模様をつけることで完成するのだが、そのスタンプを作る職人がイタリアには1人しかいないとのこと(2024年現在の人数は不明)。

スタンプは筒状の木をふたつに切って作ったもの

クロゼッティ型職人のピチェッティ氏は、クロゼッティが生まれたヴァレーゼ・リーグレの町でクロゼッティ型職人として日々、スタンプを作り続けているという。

スタンプは木製で、筒状の木をふたつに切って作ったもので、断面に細かく模様を刻む。パスタ生地を円形に切り、ふたつの断面で挟んで模様をつける。

スタンプさえも本場の物「マジカメンテ」

「マジカメンテ」のシェフは実際にヴァレーゼ・リーグレのピチェッティ氏を訪ね、スタンプを入手し、レストランでクロゼッティを作っている。レシピもさることながら、そのスタンプさえも本場の物というわけだ。

パルミジャーノの芳醇な薫りが嗅覚を包み込み味覚を魅了

実際に食べてみたが、これがまた想像以上に美味。やや大判なのでナイフを入れたりフォークで折るなどしたが、その感触から弾力があって硬そうに思えるものの、食べた瞬間にプリプリとしたパスタが砕けていき、パルミジャーノの芳醇な薫りが嗅覚を包み込み、味覚を魅了する。

そして最後に訪れる「しつこくないがディープなコク」。ほんのりと後味として漂う花のような香りもたまらない。

いっさい飽きることなく食べ続けられる

筆者が食べたときは1人前で8枚のクロゼッティが皿に盛られていた。いっさい飽きることなく食べ続けられるため、一枚一枚食べて減るたびに「ああ、もう少しで終わってしまう」という悲しい気持ちがこみあげてくる。

幸せなのに悲しい。このおいしさの時間が終わることが悲しい。もっと食べたい! 幸せな時間はその枚数に比例するのだ。

食材ひとつひとつが適切な味を保っている

これは「マジカメンテ」の料理全体にいえることだと思うが「味がむやみに強くない」のが素晴らしい。過剰がいっさいなく、まさに絶妙なバランスであり、食材ひとつひとつが適切な味を保っている。これはなかなかできることではない。まさにシェフが成せる技といえる。

このパスタはあらゆる意味において食べるべきもの

イタリア国内でもめったに食べることができないクロゼッティ。そして「技術の灯」が消えてしまうかもしれないクロゼッティ型職人の「匠の技」。このパスタはあらゆる意味において食べるべきものといえるだろう。なにより美味しいのだから。

クロゼッティ型職人の技術を失わせないため

ちなみに、クロゼッティ型職人の技術を失わせないため、ひとりの日本人女性がその技術を受け継いだとの話も聞いた。もしかすると、イタリアで消滅する技術が日本で受け継がれていくかもしれない。

……クロゼッティ、グルメのロストテクノロジーにさせたくない。

その町では本場のクロゼッティが食べられる

「マジカメンテ」でクロゼッティやスタンプに魅了された人は、本場のクロゼッティを食べに行くのも良いかもしれない。ヴァレーゼ・リーグレの町はジェノバからクルマで1時間30分、フィレンツェからクルマで2時間30分ほどの場所に位置し、その町では本場のクロゼッティが食べられるという。

とうぶんは行けそうにない。そういう人は『マジカメンテ』でクロゼッティを食べつつ、イタリアの山奥の町に思いを馳せるのも楽しげだ。


※記事は思い出を込めて再構成したものです

(執筆者: クドウ秘境メシ)

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