教育熱心な親ほど胸に響く『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』の著者・精神科医さわ先生にインタビュー
YouTubeやSNSなどで活動の幅を広げる、精神科医さわ先生の著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』が、4月に上梓されました。増刷も決まり、子育てをされている読者から高い評価を得ています。今回は、著書についてやYouTubeなどでの活動、さわ先生が開業したクリニック、不登校の子どもなどについてお話を伺いました。
さわ先生は、2021年3月に名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。クリニックには、子どもの発達障害や不登校に悩む親子を含めて、老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れているとのことです。「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と診察室で涙を流す患者さんもいるそうで、開業直後から予約が殺到。現在も毎月約400人の親子の診察を行い、これまで延べ3万人以上の診察に携わっています。
2022年12月から、さわ先生のYouTubeチャンネル「精神科医さわの幸せの処方箋」で、不登校児や子どもの発達障害、ADHD、ASDといったテーマの動画を投稿しています。チャンネル登録者数は約6.7万人で、「ADHDだとどんな生活になるのか?」という大人の発達障害をテーマとした寸劇動画は120万回以上再生され、視聴者から多くの共感コメントが書き込まれています。
――著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』について、改めて教えてください。
5歳以上から大人までを対象とした児童精神科クリニックの院長をしております。たくさんの親子が来院され、不安を抱えたお母さんたちも多いです。子どものためを思ってお母さんたちは一生懸命行動されているのですが、それがかえって子どもに対してすごくプレッシャーになっていたり、子どもにとっては苦痛になってしまったりしていることや、お母さんが良かれと思ってかけた声かけにすごく子どもが傷ついてたりされていることも少なくなく、そんな親子の架け橋になれるような内容になっていると思います。
――発売されてから重版もされました。多くの方がこの本を読んでいるようですが、読者の方からの反応はどういったものがありますか?
「電車で読んだら涙が止まらなくて」と言ってくださる方もいて、本当に響く人にはとても刺さる本なのだなと思いました。読む前に、帯に書かれている「お母さん、ただそばで笑っててくれるだけでいいんだよ。」という文言を見るだけで涙が止まらないという声も聞きます。それだけ、子育てで追い詰められてるお母さんには、この言葉もすごく印象に残るのだと感じました。
医者が正しい子育てについてのあるべき論のようなものを書いてる本では決してないです。私自身が初めての子育てで、一筋縄にはいかなかったときに感じた苦しみなども赤裸々に描いてあるので、読者さんから「子育ての苦しみにも優しく寄り添ってくれる本で、読んだら子どもへの声かけや関わり方が変わってきて、親も子どもなんか笑顔が増えた気がします」などの声が届き、とても嬉しく思っています。
――「子どもが本当に思っていること」と本の題名にありますが、子どもの意見をどのような方法で聞いたんでしょうか。
本の中にも書いてあるのですが、たとえば不登校のお子さんの中には、「 お母さんは口では『学校に行かなくてもいいよ』と言ってるけれど、学校に行かないとあからさまに不機嫌そうな態度をして悲しい」という子どももいます。あとは、私自身もかつては1人の子どもであり、学歴信仰の強い母のもとで育ち、「勉強できなくてもいいよ」って子どもの頃に自分の母に対して言ってもらいたかったことなどもつづっていますね。
――YouTubeでの活動を始めたきっかけを教えてください。
児童精神科というのは今、全国的には長いと全然予約が取れない診療科であり、うちのクリニックでも中には数か月待ちという状況もあります。
精神科というのは、ご本人やご家族にとって、受診までのハードルが高かったり、抵抗もある人も少なくありません。そこで、私のYouTubeでちょっと安心してもらえたりだとか、こんな先生だったら受診してみようかなと思ってもらえることもすごく大事なんじゃないかなと思って始めました。
――「塩釜口こころクリニック」には、どのような方が訪れて、どのような診療が行われていますか?
一般的なメンタルクリニックと同じ、かつ5歳以上の子どもも診ています。子どもだけを診ているわけでもなくて、眠れない大人の方とか、会社に行けなくなったとか、ちょっと鬱っぽいとか、アルコール依存症の方もいらっしゃいますし、幅広く精神疾患全般を診ています。
また、YouTubeなどを診て、発達障害じゃないかなと思って疑って来られる方も最近は増えています。あとは、不登校などを理由に来られるかたも多いです。
――この本は特にどういう人に読んでもらいたいですか?
本を出してみて、読者の方の声を聞いて感じるのは、とくに教育熱心な親御さんに、この本は響いているのかもしれません。うちの母がまさにそうだったので、そのようなお母さんに対して私自身が子どもの頃に思ってたことなども書いてあるので、子どものことが心配で、でも、そのために何かうまくいっていないと感じているお母さんに読んでもらいたいです。
あとは、子どもが不登校まで行かなくても、登校を渋るなどの「登校渋滞」や、付き添い登校などに悩んでいる方にも読んでいただきたいです。まさに、自分自身も娘の不登校の経験を通して「精神科医のくせに子ども1人学校に行かせられないのか」と、自分を責め泣いた夜もあり、その頃の心情などもつづってあるので、今もし同じような経験をしているお母さんがいらっしゃたら、その方の心に寄り添う本にもなるのかもしれないと思います。
とくに、子どもが学校に行けないことで自分を強く責めてしまっているお母さん、「私のせいでこんなふうになっちゃってるのかな」と、すごく辛く、苦しんでいるお母さんがいたら、ぜひ手に取っていただけたらなと思います。
――子どもが学校に行かない場合や、行きたくないと言った際には親はどうすればいいですか?
私も実際そうだったのですが、「学校に行かないといけない」という考えがあるんです。当然のように、私も子どもの頃にイヤでも行っていましたが、親の価値観で行かさなきゃいけないと思って、無理やり学校に行かせる親御さんや、行かない理由を問い詰めてしまう親御さんもいます。「なんで行かないんだ、理由が言えないんだったら行きなさい!」と。
そういった状況の中で、子どもはなかなか自分の思いを言語化できず、なんで学校に行けないのかということを子ども自身も完全に解明できてるわけではないこともすごく多いんです。
そういうときに、親が学校に行かないのは怠けているとか、やる気がないからだと決めつけて、子どもを怒ることはしてほしくないと思います。行きたくない理由はわからなかったとしても、最初は本人の行きたくない理由に寄り添って対応してもらうのがまずは大事だと思っています。
――学業に付いていけずに不登校になってしまう子どもは多いようですが、その場合に親はどういう対応をとればいいですか?
勉強ができない子が、勉強についていけなくなって不登校になることも多いです。
子どもが学校に行けないときに、親は「(学校に行けても行けなくても)どんなあなたでも価値があるんだよ」と、存在そのものを肯定してあげるということが、この本でも一番伝えたいことです。
勉強ができたときだけ褒めるとか、 運動会で1位になったときだけ褒めるのではなく、勉強ができてもできなくても、学校に行けても行けなくても、足が遅くても速くても、あなたはあなたで存在する価値があって、あなたの存在自体が祝福されているというメッセージを伝えることが、その後の人生において、生きづらさを抱えないようになることにつながると思います。
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