【ここは法廷だゼ!】「警察沙汰にして、とことん追いつめるよ」娘の通う小学校の副校長を脅した男
ある日の東京地裁。被告人(35)はずんぐりむっくりした男性。坊主頭にメガネ、グレーになりかけた黒いスエット上下。脅迫と公務執行妨害の罪で起訴されていた。この事件は大きく報じられている。
暇人/(^o^)\速報: 女児が帰宅途中転倒して骨折→親「学校が悪い。謝罪文に実印押して出せ」→強要未遂罪で逮捕
http://himasoku1123.blogspot.jp/2013/03/blog-post_5315.html
当初は強要未遂罪での逮捕だったようだ。
被告人には内妻とその娘がいるのだが、娘が小学校からの下校途中に、転んで指を骨折する怪我を負ってしまった。これに被告人は怒った。
電話で脅迫を受けた副校長は調書でこう語っている。
「娘さんは1年から5年まで不登校で、平成24年の6月から突然学校に来るようになりました。被告人は“父として学校に通わせるのが使命”と言っており、父親として頑張っていると思っていました。しかし、担任の指導方法についてはたびたびクレームを入れていました。一線を越えたのは怪我をしてからです。
娘さんは自分で転んで骨折したのであって、学校に法的責任はありませんでした。ところが被告人は“担任が大量に荷物を持ち帰るように指示したからだ”と主張し始めました。しかし、担任は、一度に大量の荷物を持ち帰るようには言っておらず、“少しずつでいい”と言ったと聞いていました。担任にはまったく問題がないのに、その後もクレームを入れてきました」
クレームはエスカレートし、今年頭には内妻と教育委員会を訪ね“担任を変えるか、転校したい”と申し出た。さらにその後、内妻と怪我をした娘、そして知人を複数名引き連れて小学校へ乗り込み、学校の謝罪と、学校が“学校に非があった”と認める書面を作成するように要求したという。学校はこれを断ったが、娘への励ましの手紙、そして転校先への書類の作成には応じた。
この日、被告人はそれに納得し学校をあとにしたはずが、翌日に電話をかけてきたという。副校長によれば、
「“金がかかるから、そっちからかけ直して欲しい”と言われたので、かけ直すと脅されました。校長や私の実印入りの書面を要求し、声を荒げて“おい、担任よこせよ、この野郎。全員首飛ばすよ? 警察沙汰にして、マスコミにも全部やって、とことん追いつめるよ、オレらは”と暴力団員のように激しい口調で言ってきました。暴力を振るわれるのではないかと怖くなったし、あたかも学校に問題があるかのような情報を流されるのでは、と心配になりましたが、とにかく“校長の判断でないと答えられない”と言って逃れました」
一方、公務執行妨害については、この件で自宅が捜索差し押さえされた際、警察官に対して両手で胸を押したり、胸ぐらをつかんだという。被害を受けた警察官の調書によれば、
「被告人はずっと興奮し、立ったり座ったりしていた。“ウチは被害者なんだよ!”とこちらをにらんで大声で怒鳴り威圧してきた。そのたびになだめては椅子に座らせていた」
のだが、しびれをきらしたのか結局警察官の胸ぐらをつかむなどの行為に及んでしまったようだ。
被告人は前科3犯。窃盗罪で服役していた過去がある。今回の事件当時は、内妻とその娘と、生活保護で暮らしていた。逮捕され留置場にいる4月6日に、内妻との子どもが産まれたという。
「産まれた子どものために一日も早く社会復帰したい」
と被告人質問でしおらしく述べ、マジメに働く事、今後警察の世話にならないように努力することを誓っていたが、そこはやはりこの人が聞き逃さなかった。
検察官「あなた昔、恐喝罪で裁判受けたとき“もう人を脅すようなことはしない”と言ってましたよね。ウソついたんですか?」
被告人「……そうではないです。娘のためを思ってやりました。あまりにも娘の姿が不憫なのでつい……」
検察官「カッとなってやってしまった?」
被告人「そうです」
検察官「カッとなると、こういうことまたやるんですか?」
被告人「もう二度とありません」
検察官は、整合性の取れない過去の発言を探し出す能力に長けている。自分が被告人になったら……とゾッとする瞬間である。
と、こうして検察官は、過去にも被告人が“もう人を脅さない”宣言していたことを持ち出し、今回の誓いも、どうせ口だけではないか、と思わせるようにもっていく。さらにもう1人の、ベテラン風の検察官も立ち上がり、追い打ちをかける。
検察官「あなた今回、脅迫の電話かけている時、奥さんがそばにいて、あなたのことを止めてたんでしょ? 止めてるのは分かってたけどこういう状態になると自分をおさえられないんですか?」
被告人「そうですね」
検察官「あと今回ね“守るものができたので違う”とか言ってましたけど、奥さんがあなたを止めてるときとか、あまりそんな事やってると捕まって奥さんに迷惑かけるとは思わなかった?」
被告人「そのときは興奮してて……」
検察官「また公務執行妨害のときも、おまわりさんに手を出せば、家族に迷惑かけることになるんじゃないか、とは考えなかったの?」
被告人「寝起きだったのでそこまでアタマ、回りませんでした……」
こうして、被告人がカッとなりやすく、特に寝起きは危険であることを認めさせて被告人質問を終えた。これまでの被告人の誓いや反省も、しらじらしいものになってしまった……。
求刑は懲役10月、判決は懲役8月。守るものが増えた被告人、また何かで“カッとして”、法廷に出てくることがなければよいが……。
画像引用元:flickr from YAHOO
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傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。
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