NEW AUCTIONが第7回目アートオークション「NEW 007」を開催
左:TANAKA Atsuko, Untitled, 1967
右:ARAKI Takako, Work, from Circle series, c.1969
東京・原宿を拠点とするオークションハウス NEW AUCTIONは、2024年9月28日(土)に第7回目となる公開型オークション「NEW 007」を開催。
大阪中之島美術館で回顧展が開催されていた木下佳通代の作品から始まる「NEW 007」では、1967年の田中敦子のペインティングや、69年頃に制作された荒木高子の黒陶、そして93年に発表された三上晴子のスーツケースなど時代や表現方法を超えた様々な作品を取り揃えた。
今回紹介される作品は、すでに作者の手を離れたものなので、それぞれの作品にどのような意図がありどのような想いで制作されたのか全てを伝えることはできないが、できる限り作品の魅力が伝わるようにラインナップが組まれている。
渋谷MIYASHITA PARKにある「SAI」にて開催されるオークションプレビューでは、全ての出品作品を実際に鑑賞できる。 また、今回のオークションは、プレビューと同じく「SAI」にて開催される。
左:HAMANA Kazunori, Untitled, 2019
右:KANAYAMA Akira, Mozart ‘Requiem’ K.626, 1992
Gerhard RICHTER, Kerze I (Candle I) (Butin 64), 1988
左:GODA Sawako, POLA NEGRI, 1971
中央:TAKIGUCHI Shuzo, III-10
MIKAMI Seiko, Suitcase (Yellow), 1993
左:HORIUCHI Masakazu, Outside of the Cube, 1990
右:Jean-Pierre PINCEMIN, Untitled, 1988
●主な出品作品
Gerhard RICHTER(ゲルハルト・リヒター)/ Andy WARHOL(アンディ・ウォーホル)/ Cerith Wyn EVANS(ケリス・ウィン・エヴァンス)/ Iván NAVARRO(イヴァン・ナヴァロ)/ Ellsworth KELL(エルズワース・ケリー)/ Stefan BRÜGGEMANN(ステファン・ブルッゲマン)/ Helmut NEWTON(ヘルムート・ニュートン)/ 荒木 高子 / 田中 敦子/ 榎倉 康二/ 奈良 美智/ 宮島 達男/ 塩田 千春 / 毛利 悠子/ ハロシ/ Mr. /中園 孔二 etc…
「NEW 007」
プレビュー
会期:2024年9月21日(土)- 9月27日(金)
時間:11:00 – 20:00
(最終日のみ17:00まで)
会場:SAI
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 6-20-10RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
オークション
会期:2024年9月28日(土)
時間:START 13:00 -(OPEN 12:30-)
会場:SAI
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前 6-20-10RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
Cerith Wyn EVANS, More Light (Argon), 2018, ネオン
ケリス・ウィン・エヴァンス (1958-) は、ウェールズに生まれ、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズを卒業後、コンセプチュアルアーティストと映像作家として活動を始める。エヴァンスの作品は、映像制作の実践から見聞を深めており、映画、文学、哲学からテキストを抜粋し、人々の間の共通認識と個人的な経験との間における哲学的な対話を形成することからはじまる。エヴァンスにとってそれは、観る者の経験により異なる無限の解釈を創出する可能性を秘めた作品となる。テキストが読まれるたびに新しい解釈が生まれる絶え間ないプロセスを内包するエヴァンスの作品は、日頃見慣れた言葉や物を特別な体験へと昇華させる超越した資性を備えている。
2018年、エヴァンスは、音によるコミュニケーションの複雑さに着目した
《Composition for 37 Flutes》と題する記念碑的作品で、英国の権威あるヘップワース賞を彫刻部門で受賞。幻想的なネオン彫刻で知られるエヴァンスは、同年に本作品《More Light》を制作。これは、《Composition for 37 Flutes》と同様に、光の性質上の儚さを問う試みであった。タイトル内で〈光〉に言及することで、エヴァンスは観る者に、作品を生み出している素材と、そして「より多くの光 (More Light)」は、物理的あるいは哲学的に、一体何をさらに照らすのかを強く提起している。過去にエヴァンスは「直射日光の中のネオンほど好きなものはない」(『Wallpaper* Magazine』2022年) と述べている。自然の太陽光であれ人工のネオンであれ、そのかたちに関わらず〈光〉への欲望が込められたこの彫刻が、まさにその言葉を体現していると言えるだろう。語尾の「…」は、観る者の興味を惹きつけると同時に私たちを取り巻く世界に対する集団的な問いかけの中で、個々の解釈を提案、共有することを促しているのである。
Stefan Brüggemann, NONO, 2013, 金箔・シルクスクリーン
メキシコ人現代美術家、ステファン・ブルッゲマン (1975-) は、テキストを用い、コンセプチュアルなインスタレーションからアート作品まで多角的な表現を手掛けることで知られている。ビデオ、絵画、彫刻、ドローイングなど幅広い媒体を組み合わせたそれらの作品は、パンクの哲学に由来し、体制による抑圧への抵抗を示唆している。ブルッゲマンの芸術実践は、社会における言語の機能を考察することで、広告、グラフィティ、文学を通し、私たちがいかにテキストと接触しているかを浮き彫りにする。ブルッゲマンは、しばしば慣れ親しみのあるテキスト要素を曖昧にし、破損する。それは、私たちが日々、何気なく行っているテキストメッセージに対する作家の批評である。
ブルッゲマンは、経済力を表すと同時に精神性を象徴する〈ゴールド〉の2つの異なるイメージの対比に関心を寄せてきた。金箔は、表面上のあらゆる亀裂やそこに介在するすべてを露わにする。その様は、隠喩的に世の中の社会構造を露呈するかのように映る。「NO」や「NON」、時には「NOON」とも読み取れる「N」と「O」の文字で覆われた本作品《NO NO》における金箔は、作品の表皮を露わにし、覆い、表皮に反応する。無秩序な線と重なり合うこれらの否定を表す言葉は、社会における順応主義による制約を象徴しているかに見える一方で、まるで社会に不具合があるとでも言わんばかりに現れる「NOON」という無意味な言葉が、作品にシュルレアリスム的な要素を与えている。「NO」という言葉から連想される否定的な価値観とは裏腹に、豪華な佇まいのある本作は、魅惑的な雰囲気を放ち、観る者の欲望を刺激するのである。
田中 敦子, Untitled, 1967, エナメル・紙
具体美術協会のメンバーとして常に言及され、戦後日本美術を語るうえで重要な女性作家の一人として広く知られている田中敦子 (1932-2005)。1932年大阪に生まれた田中は、1951年に京都市立美術大学 (現 京都市立芸術大学) を中退後、大阪市立美術館付設美術研究所にて学ぶ。その後、1955年に「0会」メンバーの金山明、白髪一雄、村上三郎らと共に具体に加入すると、さまざまな電球がチカチカと点滅する光を服に仕立てた代表作《電気ドレス》を発表。在籍中は、エネルギーが光や音へと変換されるシステムを利用して斬新な作品を制作していった。その後、1957年頃から電球とコードの絡まりに着目し、媒体を平面へと移行させていくことになる。しかし、光、音、空間、時間といった非物質的概念との関係性を模索するという観点では、芸術実践に常に一貫性がうかがえる。
76×57cm大の本作品は、1967年に制作された田中の典型を示すドローイング作品である。ガッシュによってカラフルに散らばる円が線によって繋がれていくそのイメージは、この世界の現象との関係性を探究していった作家の精神性の表れといっても過言ではない。紙媒体へ移行後、約50年にわたり続いた田中の実践であったが、本作は、その初期の10年間に制作されたものである。田中による1960年代の作品が市場に出てくることは珍しく、本作は貴重な作品と言えるだろう。
宮島 達男, Time train to Auschwitz No. 2, 2008
LED、鉄道模型 (フライシュマン社製 No.5759)、レール、電気配線、金属製台
日本を代表する現代美術家、宮島達男 (1957-) は、青木繁や佐伯祐三といった画家達に憧憬の念を抱き、東京藝術大学で絵画を学んだ。しかし、絵画という枠組みの中でメッセージを言語化することの難しさに葛藤を抱き、パフォーマンスやインスタレーションといった媒体を通して自己の表現方法を模索していく。1987年、宮島はルナミ画廊で展示を開催。『アンチ・オイディプス』の一節から着想を得て、仏教的思想、そしてコスモロジーを掛け合わせた三つのコンセプト「連続性」、「関係性」、「永続性」を考案し、LEDの明滅というデジタルカウンターを用いた作品を発表した。これが契機となり、翌年にはベネツィア・ビエンナーレの若手部門へと抜擢されるなど、宮島はアーティストとして躍進していった。
本作品《Time Train to Auschwitz – No.2》は、2008年にドイツ、レックリングハウゼンの美術館 Kunsthalle Recklinghausenで開催された作家の個展「Time Train – Zeit, Zahl und Kosmos」で発表されたものである。タイトルが示唆するように、本作品は第二次世界大戦中のホロコーストを象徴するアウシュヴィッツへと向かう列車を物語る。炭鉱の町であるレックリングハウゼンは、古くから燃料を運ぶための鉄道網が張り巡らされた土地であった。宮島は、第二次世界大戦中に多くのユダヤ人がこの鉄道網を経由して同収容所まで輸送されていった歴史へと焦点を当てる。9から1までカウントダウンしていく青い数字は、ユダヤ人犠牲者を表している。本作を通して表現される数字は、理不尽さによって強引にも奪われていったライフサイクルの連続性を揶揄するのであり、非人道的な歴史と平和に対する宮島自身の真摯な祈りとメッセージが込められている。本シリーズは、2020年に千葉市美術館で開催された「宮島達男 クロニクル 1995-2020」展で再披露されるなど、宮島の実践を語る上で重要な立ち位置を示す作品である。
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