【アフリカスタートアップ投資の注目業界:Vol.8】農産物の伝統的流通の改善にニーズ潜む

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本稿は、アフリカビジネスパートナーズによる寄稿記事である。同社は、ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げやスタートアップ投資に関する支援を提供している。現地のビジネス最前線を知る同社独自の視点から、投資家が注目するべきアフリカのスタートアップトレンドを毎月ピックアップして紹介していく。

今号は前号に引き続き、アフリカのアグリテックを取り上げる。前号では、農業バリューチェーンの川上、すなわち農産物の栽培の課題に関わるスタートアップを取り上げた。今号では、栽培した農産物を市場に届けるまでの「川中」の課題解決に取り組んでいるスタートアップを取り上げる。


アフリカでも日本と同様、農家から農産物を集荷する業者と、それを小売店やレストランなどに売りたい業者が、青果卸売市場で売買をおこない農産物が流通している。ただしこの農家から市場、市場から最終の買い手までの流通を担っているのは企業や農協でなく個人の参加者がほとんどである。市場を通さず、産地から仲買人を何人も経たうえで販売される作物もある。

このような「伝統的流通」では、取引は非効率となり、トレーサビリティーが確保できず、設備投資がなされないことで品質不良や収穫後の損失(ポストハーベストロス)が起こりやすい。

分割払いの冷蔵倉庫で農産物のロスを削減

ImageCredit:Cold Hubs

ポストハーベストロスを引き起こす要因のひとつが、農産物の保管状態の悪さだ。伝統的流通の参加者である小規模農家や個人の仲買人はいずれも冷蔵施設を持ち合わせていないため、時間の経過とともに農産物の品質は劣化し、大量の廃棄が生じる。

こうした課題に対処しているのがナイジェリアのCold Hubsで、太陽光発電によって冷蔵倉庫の電源をとり、保管日数や量に応じた分割払いで棚貸しすることで、電力が十分でない農村に住む資金力に乏しい農家でも、収穫した農作物を適温で保管できるようにしている。同製品を活用することで新鮮なまま平均21日間保管でき、廃棄農産物を約80%削減できることから、農家の販売収入は年間約25%増えたという。

同社はこれまでに、米Heifer InternationalやGlobal Maker Challenge、マイクロソフトのMicrosoft Airband Grant Fundから助成金を獲得している。

農家と買い手を直接つなぐ流通支援が次々誕生

ImageCredit:Farm to Feed

オンライン上のプラットフォームを使って小規模農家と農産物の最終の買い手を直接つなぐことで、仲買人を省いて農業バリューチェーンの効率化を図ったり、農産物のロス削減に取り組んだりするスタートアップは数多く生まれている。

ケニアのFarm to Feedは、規格外ないし余剰に生産された農産物を、農家が小売業者や学校、食糧支援プログラム、イベント会社などに直接販売するためのプラットフォームを提供している。これにより農産物のロス削減はもちろんのこと、農家が収入を増やしたり、買い手が手頃な価格で農産物を購入したりすることを可能にしている。

報道によれば同社は、2024年3月時点でエクイティーおよび助成金で累計100万ドルを調達しており、同年4月にはアフリカに特化した米投資会社 Renew Capitalから金額非公開の資金調達を行っている。

ImageCredit:YoLa Fresh

一方、同様の農産物販売プラットフォームのうち、伝統的な小売店への販売に特化しているのが、モロッコのYoLa Freshだ。同社によれば、モロッコではスーパーマーケットで農産物を購入する消費者はごく少数で、伝統的な小売店での購入が約90~95%を占めるという。

YoLa Freshのプラットフォームは、モロッコ国内の1,000以上の小売店に利用されている。報道によれば、毎月1,200トン以上の農産物の販売を仲介しており、月間GMV(流通取引総額)は100万ドルに達している。小売店あたりの注文件数は週平均4件で、顧客維持率は85%であるという。同社は2024年5月にはプレシリーズAラウンドで総額700万ドルを調達している。

ImageCredit:Pricepally

産地から消費者に農産物を直接届ける「Farm to Customer」のプラットフォームもある。ナイジェリアのPricepallyは、農産物や食料品をオンラインで購入できるECサイトを運営している。農産物を農家から直接調達し、仲介業者を排除することで販売価格を抑えている。交通渋滞が激しいナイジェリアの都市部で配達を行い、消費者に利便性と価格、鮮度を訴求しリピーターを増やしている。

同社はこれまでに累計150万ドル以上を調達しており、2023年11月のシードラウンドでは130万ドルを調達したことを複数のメディアが報じている。

アフリカ発の取り組みが日本でも生きる可能性

太陽光発電を使った冷蔵保管や農産物売買のデジタル化、産地直送の農業D2Cは、日本でも取り組まれている。農協が集荷し生鮮卸を通じて近代小売に売られていくという、確立されたサプライチェーンが存在している日本で“新しい試み”とされている取り組みが、サプライチェーンが不確実なアフリカでの取り組みと似ているのは興味深い点だ。仕組みがないアフリカだからこそ生み出された農産物を届ける取り組みが、いずれ日本に逆輸入されるケースがでてくるかもしれない。

文・藤原梓(アフリカビジネスパートナーズ)

参考
アフリカ農業に関する13の基礎情報
アフリカ業界地図:ケニアの農産物バリューチェーンの概要
週刊アフリカビジネス673号(2023年11月27日号)
週刊アフリカビジネス694号(2024年5月6日号)
週刊アフリカビジネス698号(2024年6月3日号)

≪アフリカビジネスパートナーズ プロフィール≫

https://abp.co.jp/
アフリカビジネスに特化したコンサルティングファーム。2012年設立。ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げや事業拡大、スタートアップ投資に関する支援を提供。スタートアップ関連では、日本企業やCVCに対する有望スタートアップの紹介や、出資の際のデューデリジェンスを中立的な立場から提供している。2022年にはアフリカのスタートアップの調達金額やビジネスモデルを紹介した「スタートアップ白書」を発行。毎週「週刊アフリカビジネス」をメールで配信し、スタートアップの動きを日本語で提供している。

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