築110年の実家、娘世代に残すための耐震・断熱リノベーション
住宅の間取りや性能が問題となって、親世代が住めなくなった実家をどうするか? それが築100年以上という古民家だったらどうなのか? 悩ましい問題だと思う。今回は減築リノベーションという方法で、実家を次世代に残す決断をされた事例をご紹介しよう。
酒屋を営み、蔵もある築110年の古民家
奈良県大和郡山市のNさん邸は、旧街道に面した築後約110年の古民家。周辺には小泉城跡や小泉神社があり、少し足を延ばすと法隆寺や郡山城などの歴史ある街に立つお住まいだ。
Nさんは現在59歳、妻と二人の娘、そして両親の6人家族(現在、長女は就職のため東京に)。もともとは敷地内にハウスメーカーの新築住宅を建て、夫妻と子どもで暮らしていた。
正面から見た外観(写真撮影:出合コウ介)
曽祖父が建てたという家は蔵のある大きな建物で、旧街道に面して酒屋を営んでいたそう。お酒を買うだけでなく、お客様がその場で飲むこともできるように土間スペースもゆったりと取られた邸宅だった。その後、お店を閉めたあとも店鋪スペースや土間はガレージとして使われていた。
リノベーション工事前の状態。左側の倉庫のような部分は減築してカーポートに(写真撮影:スペースマイン提供)
解体して小さな家を建てるのか?
(写真撮影:出合コウ介)
リノベーションのきっかけは、ライフステージの変化にあったそう。
「主屋には両親が住んでいましたが、高齢となり介護など将来のことを考えると、このまま住み続けるのは難しい。実は、主屋は以前にも2度リフォームをしたことがあるのですが、使い勝手が良くなかったんです。また娘たちも大きくなり、車の駐車スペースも確保したい。さて、どうする?取り壊したほうがいいのか?そんなときに相談したのがスペースマインさんでした」
相談を受けたスペースマインの矢島一社長はこう話す。
「ご家族を交えて相談するなかで浮かび上がってきたのが、“奈良が好き、この家が好き、結婚してもこの家に住みたい”という娘さんの思いでした。それならば、娘さん世代が安心して住み継いでいけるように、耐震性能や断熱性能でも満足できるようなリノベーションをと、ご提案しました」
娘世代へと住み継ぐリノベーションプランとは?
2022年秋に竣工したリノベーションは、いったんスケルトン状態にしたうえで減築や基礎をやり直すという大掛かりな工事。工事期間は6カ月にもおよび、減築後の延床面積が204.23平米(減築前は223.3平米)、間取りプランや内装も含め、そのほとんどになんらかの手を加えている。
スケルトン状態にして工事(写真撮影:スペースマイン提供)
リノベーションのポイントを紹介しよう。
蔵を夫婦の寝室に。もともとの土壁が持つ厚さに加えて断熱材を施すことで家の中でも一番断熱性能が高い部屋に。屋根は軽い部材に替え、基礎をやり直して耐震性能もアップ。小屋裏はロフトにすることで趣味を楽しむセカンドリビングとして活用。
5部屋あった和室を2部屋にし、水回りの位置も全て変えることで、現代の暮らしに合った間取りに。
離れを両親の寝室に変更。
物置として使用していた小屋裏にも断熱を施し、子ども部屋として活用。
玄関の土間には床板を張って、屋根まで吹き抜けた広々玄関ホールに。梁や柱など古材も活用。
和室を取り巻くようにあった外廊下に断熱サッシを設置して室内空間に。その外側には庭に面してウッドデッキを設置。
ガレージ部分と道路面の和室の一部を減築し、車3台が駐車できるカーポートに。
費用は4500万円、そのうち、断熱と耐震にかかった工事費は約1300万円(減築等に伴う解体費用は別途700万円)。断熱等級5(ZEH)(※1)と、耐震等級2(※2)を確保した住まいとなった。一見、高い費用にも思えるが、曽祖父からの家を活かし、子どもからさらに次の世代、6世代が住みつなぐための家づくりだと考えると理解できる。
※1 断熱等級5:2022年4月に新設された。等級4の次世代省エネ基準よりも厳しい、ZEH(ゼッチ)の断熱水準を満たすUA値・ηAC値への適合が求められる
※2 耐震等級2:公共施設や長期優良住宅の認定基準
吹き抜けの玄関ホールは、古い柱や梁も活用。家具も再利用してギャラリースペースに(写真撮影:出合コウ介)
外廊下に断熱サッシを設置して室内空間に。ブラインドを活用して日射を調整(写真撮影:出合コウ介)
小屋裏を活用して子ども部屋に。断熱処理をすることで居室のように使うことができた(画像:スペースマイン提供)
蔵は寝室に。小屋裏はロフトにして趣味の空間として活用。アイアンの手すりは庭のウッドデッキともそろえている(画像:スペースマイン提供)
Before 間取り。屋内にガレージがあり、和室上の小屋裏は物置として使用していた(画像:スペースマイン提供)
After 間取り。ガレージ部分と道路面の和室の一部を減築。階段を設置して、小屋裏は子ども部屋と寝室のロフトスペースに(画像:スペースマイン提供)
住み心地は「江戸時代」から「令和」に!
リノベーションによって暮らしはどう変化したのだろう?
「一番違いを感じるのは冬。寒さの感覚は全然違いますね。江戸時代から令和にタイムスリップしたみたいに、住み心地は格段に変わりましたね(笑)。子どものころは雨が降ると濡れながら外廊下を通ってお風呂に入っていたんですよ。ウソみたいでしょう? 和室には仏壇があるので、お坊さんがお経をあげに来るのですが、子どものころはそれが寒かった。今はお坊さんも喜んでくれていると思います(笑)」
「居心地がいいのか、娘もリビングで過ごす時間が増えた」と語るNさん(写真撮影:出合コウ介)
奥様の感想は
「冬はエアコンをほとんど使いませんね。リビングには床暖房が3箇所入っているので、それだけでほとんど大丈夫。一番寒い時はファンヒーターを使うくらいです。朝も起きると、じんわり暖かさが残っているのが嬉しいですね。ハウスメーカーさんで建てた離れも断熱はあったはすですが、感覚的には違います」
夏場はどうだろう?
「軒を伸ばしているので、夏場も直射日光はあまり入りません。リビングにはエアコンを2台設置していますが、外気温が30℃を超える今日でも稼働させているのは1台だけ。これで、充分効いていますよね。2台動かすのは真夏のピークの時だけですね」
リビングのハイサッシの向こうには枯山水の庭が広がる(写真撮影:出合コウ介)
取材にお伺いしたのは午後1時。陽射しの厳しい夏至前の一日だったが、明るく広々としたリビングでの時間はとても快適なものだった。
この住まいなら娘さんが結婚して新しく家庭を持っても、きっと住み続けることができるだろう。
築100年を超える建物でも、リノベーションし居住性能をアップさせることによって世代を超えて住み継ぐことはできる。ぜひ、参考にしてほしい事例だ。
古民家を生き返らせるためにも断熱性能は重要
前述の矢島氏によると「奈良盆地のこのエリアにも古民家がたくさん残っていますが、間取りや水回りだけでなく、耐震・断熱面での弱点を持つケースも多い。最近は減築やリノベーションで性能アップを行うケースが増えています」とのこと。
また、古民家リノベーションの場合、固定資産税の建物評価額の算出変更や、古い建物の登記抹消など気を付けたい独特のポイントもある。Nさん邸の場合はもともと住居部分の課税が少なかったが、リノベーションによって対象面積が増え、課税額がアップしたようだ。土地の登記も隣家との所有権が飛び地のようになっていた場所があり、それも交換して整理したとのこと。
次世代に住み継いでいくことを考えると、税金や登記面でもクリアにしておくことが正しい選択だとも思う。断熱性能だけでなく、さまざまな気づきをいただけた取材であった。
●取材協力
Nさん
スペースマイン
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