夫婦でつくりあげたこだわりの庭におじゃまします! 「廃材を使ったユニークな庭づくり」が新しい人生のきっかけに アトリエ絵・果・木 こだいらオープンガーデン

夫婦でつくりあげたこだわりの庭におじゃまします! 「廃材を使ったユニークな庭づくり」が新しい人生のきっかけに アトリエ絵・果・木 こだいらオープンガーデン

丹精込めた個人の庭を一般に公開し、庭を地域の人々に自由に立ち寄ってもらう「オープンガーデン」。東京都小平市では17年前から、マップを作成したり、散策ツアーを企画するなど、まちならではの文化として積極的にPRをしている。2023年時点で25カ所が登録中だ。
その「庭をつくるひと」にインタビューした。今回ご紹介するのは夫妻ふたりで役割分担をしながら「廃材を使った庭づくり」を手掛ける井上昭子さん・正さん夫妻。

廃材を使った鉢植えの庭は、アトリエでもある

アトリエ絵果木

東京都の小平市、小平オープンガーデンの多くは個人が手掛ける庭を一般公開するもの。そのため、小平市がまとめた「オープンガーデンMAP」には、一部のカフェや農園を除き、「〇〇さん」と個人名が並ぶ。
そのなかで例外が井上さん宅の庭で、その名も「アトリエ絵・果・木(えかき)」だ。
その理由は、個人の庭でありながら、井上さん夫妻の創造の場「アトリエ」になっているから。「リユース」をテーマに、あらゆる廃材を使った鉢、使わなくなった日用品を再利用し、DIYやトールペイントされた作品が置かれている。

個人の庭と思えないほどの広い庭 個人の庭と思えないほどの広い庭(写真撮影/片山貴博)

個人の庭と思えないほどの広い庭(写真撮影/片山貴博)

庭のそこかしこに、昭子さんが描いた絵をあしらったものや、夫の正さんが手掛けた鉢や看板などの作品が点在している(写真撮影/片山貴博)

庭のそこかしこに、昭子さんが描いた絵をあしらったものや、夫の正さんが手掛けた鉢や看板などの作品が点在している(写真撮影/片山貴博)

ビオラ、ガザニア、ペニチュア、ダリアと、所狭しと花の鉢が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

ビオラ、ガザニア、ペニチュア、ダリアと、所狭しと花の鉢が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

植物は地植えではなく、ほとんど「鉢植え」なのも特徴。
直接土に植えたものではないため、毎日の水やり、土の改良など手間が多い一方、レイアウトを自由に変えられるメリットがある。
「捨てられるものを再利用する」をコンセプトにしているため、鉢植えのバリエーションも豊富。リヤカー、中華鍋、お洒落な紅茶やクッキーの缶、収納に使うような籠も、あっという間に鉢になる。
担当は、大工仕事が得意な夫の正さん。妻の昭子さんいわく「何かしら空の容器ができると、すぐ鉢植えにしてしまってるんですよ」とのこと。

中華鍋、リヤカー、炊飯の釜などの廃材を利用。袋に土を入れ吊すやり方なら簡単なうえ、目の高さで花をめでることができる(写真撮影/片山貴博)

中華鍋、リヤカー、炊飯の釜などの廃材を利用。袋に土を入れ吊すやり方なら簡単なうえ、目の高さで花をめでることができる(写真撮影/片山貴博)

井上さん宅はもとはナシとキウイの果樹販売農家だった。写真はブラックベリーの花(写真撮影/片山貴博)

井上さん宅はもとはナシとキウイの果樹販売農家だった。写真はブラックベリーの花(写真撮影/片山貴博)

殺風景な壁より、花咲く壁。道行く人を癒やしたいが動機

そもそも井上さんが庭園をはじめたのは、道行く人を楽しませたいと、20年前に殺風景だった通りを花で飾ったことがきっかけ。
「近くに会社の営業所ができて、家の前の人通りが増えたんです。無機質な大谷石の壁は殺風景だなぁと思って、廃材で造ったプランターを取り付け、家の前を通る方たちも楽しめるよう始めたんです」

その試みが地元誌で取材され、その後、小平オープンガーデンの立ち上げにも関わった。
今では、地元の小平市内のほか、八王子市、東大和市、西東京市、町田市といった東京市部、さらには埼玉県所沢市、神奈川県横浜市など他県からも訪れる人もいるほどだ。

最初に始めたのが外壁のプランター(写真左)。父の遺産相続で農地を手放し、相続した古い家屋も老朽化が顕著になり、建て替え。それに伴い庭造りも本格化した(画像提供/井上さん、写真撮影/片山貴博)

最初に始めたのが外壁のプランター(写真左)。父の遺産相続で農地を手放し、相続した古い家屋も老朽化が顕著になり、建て替え。それに伴い庭造りも本格化した(画像提供/井上さん、写真撮影/片山貴博)

地植えではない鉢植えのため、朝夕、1日2回の水やりはたっぷり。もともと農地だったため、ひとつの水栓は農業用水で水道代が安い。「ただ、位置の兼ね合いで、ずっと家庭用の水道で水やりをしていたら、すごい水道代になって、夏場に“漏水していませんか?”と問い合わせを受けたほど(笑)」

夏には水やりが2時間かかることも。早朝と夕方遅く、気温のなるべく低い時間帯を選んでいる(写真撮影/片山貴博)

夏には水やりが2時間かかることも。早朝と夕方遅く、気温のなるべく低い時間帯を選んでいる(写真撮影/片山貴博)

水やりのほかに、寄せ植え、掃除、剪定と常に仕事は山積み。水道代はかさむが、すべて自己負担。決して楽ではない。そこにあるのは井上さん夫妻の徹底した「サービス精神」だ。
「せっかくなら訪れた人を楽しませたい。もちろん自分自身が草花で癒やされたい気持ちもあるけれど、誰かに見てもらえることがモチベーションになります」

季節感の感じる庭を四季折々に訪れてほしい

鉢植えのため移動ができ、その都度旬の花々を手前に持ってくることもできる。
井上さんが大事にしているのは「季節感」。チューリップ、あじさい、ひまわり、秋桜と、四季の移り変わりに伴い、レイアウトを変えていく。「花には見ごろがどうしてもあるので、通年花盛りの庭というわけにはいきません。でも、例えばハロウィンのデコレーション、クリスマスのイルミネーションなどがあれば、なにかしら足を運んでみようという気になりますよね」

「一年間楽しんでもらいたい」という気持ちから生まれた、ハロウィン(左)とクリスマスの庭(中央・右)(写真提供/井上さん)

「一年間楽しんでもらいたい」という気持ちから生まれた、ハロウィン(左)とクリスマスの庭(中央・右)(写真提供/井上さん)

屋根の上に見えるのが樹齢100年以上の柏の樹。端午の旧節句にこの葉を用いて柏餅に(写真撮影/片山貴博)

屋根の上に見えるのが樹齢100年以上の柏の樹。端午の旧節句にこの葉を用いて柏餅に(写真撮影/片山貴博)

鉢植えの庭にしたのは、父の趣味の盆栽鉢が大量に残されていたから。「400?800?とにかくすごい数だったんです」(写真撮影/片山貴博)

鉢植えの庭にしたのは、父の趣味の盆栽鉢が大量に残されていたから。「400?800?とにかくすごい数だったんです」(写真撮影/片山貴博)

アトリエ絵・果・木の庭では、基本的に薬剤を散布していない。「もちろん虫に食われちゃいますよ。葉っぱが虫食いだらけだけど、ある意味“レース”のよう、でもそれも自然の形かなと思ってます。飛んできた蜂が受粉してくれますしね」

種が飛び、風に吹かれて、道路のアスファルトのすき間から芽を出す。「ああ、こんなところまで飛んできたんだな。たくましいなって思います」

また、ブラックベリーの収穫時は鳥との攻防戦。「ネットをかぶせたら?ともいわれるんですけど、見た目が良くなくて。とはいえ早朝から実を守っています」

ブラックベリー、イチジク、青パパイヤ、キウイ、収穫したものを庭先や農協などで販売もしている。特にはお祭りなど小平市のイベントで出店することも(写真撮影/片山貴博)

ブラックベリー、イチジク、青パパイヤ、キウイ、収穫したものを庭先や農協などで販売もしている。特にはお祭りなど小平市のイベントで出店することも(写真撮影/片山貴博)

ブラックベリー(写真提供/井上さん)

ブラックベリー(写真提供/井上さん)

「苗をご自由に持って行ってください」と置いておく。植物を育てる楽しみをおすそわけ(写真撮影/片山貴博)

「苗をご自由に持って行ってください」と置いておく。植物を育てる楽しみをおすそわけ(写真撮影/片山貴博)

夫婦の役割分担で庭は年々バージョンアップ

夫婦それぞれの役割分担は明確だ。
「ここに少し休めるスペースがほしい、ガゼボ(※)はこんな雰囲気にしたい」とアイデアを考えるのは、妻の昭子さん。そのアイデアを受けて、プランター、パーゴラ、ガゼボ、椅子など具体化していくは夫の正さんだ。「夫はずっと動いています」と話す昭子さんは社交的で、訪れた方に庭を案内することもある。

※庭の中に設けた休憩などができる西洋風の東屋

最初に正さんが手掛けたのが庭の入り口付近にある、このポーチ。もう樹木がうっそうと茂って見にくいが、ホームセンターで販売されていたキットを購入し、組み立てた(写真撮影/片山貴博)

最初に正さんが手掛けたのが庭の入り口付近にある、このポーチ。もう樹木がうっそうと茂って見にくいが、ホームセンターで販売されていたキットを購入し、組み立てた(写真撮影/片山貴博)

イスやパラソル、さらにはハンモックと、休憩する場所もあちこちに。これらも正さんの手によるもの(写真撮影/片山貴博)

イスやパラソル、さらにはハンモックと、休憩する場所もあちこちに。これらも正さんの手によるもの(写真撮影/片山貴博)

トールペイントが趣味の昭子さんは、腕を上げ、今では、作品を販売することも。さらに、他県で買い付けたフランス雑貨、友人のハンドメイド作家の作品、トールペイントの先生の作品も販売するショップも庭内に設けた。
なかでも、廃材で制作したカレンダー用のペイント額縁は夫妻ふたりの共同作品。現在はオーダーメイドで制作している。

トールペイントの作品(写真提供/井上さん)

トールペイントの作品(写真提供/井上さん)

庭の中にあるショップ。昭子さんがいる時間帯ほか不定期営業だが、「宝探し気分」で立ち寄る人も(写真撮影/片山貴博)

庭の中にあるショップ。昭子さんがいる時間帯ほか不定期営業だが、「宝探し気分」で立ち寄る人も(写真撮影/片山貴博)

花々を見に来るのは圧倒的に女性が多いが、中にはDIYが趣味の男性がやってくることもある。さまざなな廃材を鉢にする方法、肥料入り培養土の袋を使った野菜の育て方など、正さんが試行錯誤した庭づくりが参考になるとか。

正さん考案の野菜栽培を気軽に始められる方法(写真撮影/片山貴博)

正さん考案の野菜栽培を気軽に始められる方法(写真撮影/片山貴博)

誘われるような花の小道。3、4月には頭上に黄色のミモザの花が咲く(写真撮影/片山貴博)

誘われるような花の小道。3、4月には頭上に黄色のミモザの花が咲く(写真撮影/片山貴博)

小さな子ども達が探検気分で歩む、緑のトンネル(写真撮影/片山貴博)

小さな子ども達が探検気分で歩む、緑のトンネル(写真撮影/片山貴博)

庭での活動をきっかけに、生き方も発展していく

庭が進化するとともに、昭子さん自身も変化があった。

「この風通しのいい庭で、四季折々の花々に囲まれ癒やされると、不思議とみなさんいろいろ自分のことを話してくださるんです。第三者だからこそ深い話も。それがきっかけになり、NLPと言う心理学や、心を癒やす効果のあるフラワーエッセンスについて学び、資格も取りました」

さらにコミュニティの場であるオープンガーデンの取り組みが注目され、文化学園大学観光学科でゲストティーチャーとして授業をしたこともある。

今後のオープンガーデンにも展望がある。
「いつか車椅子の方でも通れるよう、広めの通路を確保したいですし、大変な水やりの負担を軽くするため、スプリンクラーの導入も検討したいです」という昭子さん。
今後は、花を愛でるだけでなく、訪れた人自身が土いじりをするなど、花を育てる楽しさも味わってもらうのアイデアも。最近では、この庭を訪れる人が増えるにつれ、ご近所さんにも、せっかくならと花々を育てる家が増えた。
「ちょっとした花街道になったらいいですよね。子ども達もパクチーやハーブを育て始めたんです」

もともとこの土地で農園を営んでいた正さんの父から、さまざまな地域の活動を受け継いでいる昭子さん。当然地元の人脈は広く、この庭がそうした方々との交流を長年深める場になっている(写真撮影/片山貴博)

もともとこの土地で農園を営んでいた正さんの父から、さまざまな地域の活動を受け継いでいる昭子さん。当然地元の人脈は広く、この庭がそうした方々との交流を長年深める場になっている(写真撮影/片山貴博)

地域コミュニティの癒やしの場であり、頑張るモチベーションにつながる場であり、夫妻ふたりの協働の場であり、新しい世界へ挑戦する入り口でもある、オープンガーデン。訪れる人だけでなく、提供する側にも大きな価値がありそうだ。

■関連記事:
東京の個人宅、1000坪の「秘密の花園」をいつでも公開! 親子3世代でつなぐ庭の日常にベーカリーカフェも 森田オープンガーデン・小平市
・医師リタイア後、74歳女性の人生を輝かせる「バラの庭」におじゃまします! “花友だち”と旅行など在職中は諦めていた人生を再経験中 中山さん・こだいらオープンガーデン

●取材協力
アトリエ 絵・果・木さん
【住所】東京都小平市仲町461
【TEL】042-341-0155
【開放日】通年(1月1日~10日は休み)
※駐車場あり

こだいらオープンガーデン
※登録25カ所(令和5年時点)の一覧、開催時期、連絡先を記載

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 夫婦でつくりあげたこだわりの庭におじゃまします! 「廃材を使ったユニークな庭づくり」が新しい人生のきっかけに アトリエ絵・果・木 こだいらオープンガーデン

SUUMOジャーナル

~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。

ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/

TwitterID: suumo_journal

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。