【学校の断熱最前線】ヤバすぎる暑さ・寒さの教室を断熱ワークショップ、生徒会が歴代で実施。ストーブ10分だけで教室中ずっと暖かく 長野県・上田染谷丘高校
建物に十分な断熱がされておらず、外気温の影響をじかに受けやすい学校の教室は、夏は暑く熱中症のリスクも懸念されるほど。一方で、冬はストーブの暖気が教室全体に行き渡らず、寒くて授業に集中できないというケースも。そうした学校の環境を改善すべく、教室を断熱化しようという動きが全国的に広まってきています。なかでも、地球温暖化に関心を持つ生徒たちが主体となり、断熱ワークショップを実現させた高校が長野県上田市にあると聞き、体験談を聞きに行ってきました。
生徒会の公約で、築50年超の教室断熱ワークショップが実現
長野県上田市は、山に囲まれた盆地で、夏はうだるような暑さ。冬は雪は少ないものの、平均気温が1度前後と凍てつく寒さに見舞われます。上田市中心部近くに立つ上田染谷丘(そめやおか)高校の校舎は、無断熱の築50年以上の鉄筋コンクリート造の建物。夏と冬の教室は快適とはとてもいえない環境にありました。
そんななか、「教室を断熱化したい!」と声を上げたのが、2代前の生徒会副会長だったといいます。
1901年創立の歴史ある上田染谷丘高校。現在の校舎は築50年を超える(撮影/窪田真一)
上田染谷丘高校では、これまで2023年2月、2024年2月の2回、生徒が主体となり断熱ワークショップを実現させています。しかも、長野県のゼロカーボン社会共創プラットフォームの学校断熱プロジェクトに選ばれ、県からの予算も獲得しています。
NPO法人 上田市民エネルギー理事長の藤川まゆみさん。パネルオーナーと屋根オーナーをつないで太陽光発電を増やす仕組み「相乗りくん」を展開(撮影/窪田真一)
その経緯について、長野県の学校断熱ワークショップをサポートしているNPO法人 上田市民エネルギー理事長の藤川まゆみさんと、上田染谷丘高校の上條隆志先生はこう話します。
「長野県内では2020年に初めて、白馬村の白馬高校で学校断熱ワークショップが行われました。きっかけは『教室が寒すぎるからなんとかしたい』と生徒が声を上げたこと。建築家の竹内昌義さん達と地元市民団体、私たちNPOが生徒と学校のサポートを務めたのです。その際、上田市の工務店さんにもお声がけして協力していただいたのを機に、今度は上田高校の探求学習の一環として断熱ワークショップを開催。その翌年に県の学校断熱プロジェクトが始まり、もともとSDGsに取り組んでいた上田染谷丘高校の生徒が『やりたい』と名乗りを上げてくれたのです」(藤川さん)
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昨年度まで生徒会主任を務めた上條隆志先生。生徒とともに2年にわたり、2回の断熱ワークショップを行った(撮影/窪田真一)
「上田染谷丘高校では、5年ほど前から生徒会が中心となって『染めDGs』と称したSDGs活動を行ってきました。2022年、とある生徒が生徒会選挙で『教室の断熱ワークショップに取り組む』という公約を掲げて副会長に当選。県が始めた初年度の学校断熱プロジェクトに応募し、6校のうちの1校に選ばれたのです。
次の生徒会選挙で選ばれた生徒会長がその志を継ぎ、2023年2月にワークショップを実施。その生徒会長は今春卒業してしまったのですが、後輩の生徒会長たちが志を引き継いで、2代にわたってワークショップを行ったというわけです」(上條先生)
断熱改修後の教室にて、藤川さんと生徒会本部の3年生たち、上條先生。2024年2月開催の2回目のワークショップは、彼らが中心となって行った(撮影/窪田真一)
現生徒会長の竹内美乃宜(みのぎ)さん。今回の経験を次の代の生徒会にもしっかり引き継ぎたいと話す(撮影/窪田真一)
劣悪な環境の最上階角部屋の教室をなんとかしたい!
断熱改修したのは3階西端の講義室。あまりにも暑さ寒さが過酷なため、一時は壊れた机置き場になっていたことも(撮影/窪田真一)
上田染谷丘高校で断熱ワークショップが行われたのは、3階の西端に位置する講義室。通常クラスで使われている教室ではなく、入試対策の講義などで主に3年生が利用する場所です。
実はここ、南側だけでなく北側にも窓があるため、エアコンで冷やした空気もストーブで暖めた空気も、窓を通じて外に逃げ、外気温の影響を強く受けてしまいます。最上階ゆえ、夏は屋上からの熱がダイレクトに伝わり、夕方は西日で壁が熱せられ蓄熱して酷い暑さに。冬は灯油ストーブが一台設置してあるものの、ストーブの近くは暑いが離れると寒くてたまらない、という現象が起きていました。
断熱前の教室の様子(写真提供/上田市民エネルギー)
断熱前の教室の様子(写真提供/上田市民エネルギー)
「ふだん終日使う教室ではありませんが、校内でいちばん過酷な環境だからこそ、断熱効果がはっきりわかるのではと、この教室が選ばれました」(藤川さん)
2年に分けて1部屋を断熱改修
1年目は2023年、2年目は2024年。どちらも2月の2日間にわたり、断熱ワークショップが開催されました。参加したのは生徒会メンバーを中心とした生徒たち約25名と、先生や指導者、関係者約10名。上田市内の工務店と、藤川さんらNPO法人がサポートしました。
長野県からの予算は1年目が60万円、2年目が100万円。材料費すべてをまかなうことは難しい状況でしたが、断熱材メーカーや断熱材メーカーから断熱材、隣の東御市の材木店・第三木材から羽目板の寄付の申し出があったそうで、地域とのつながりを実感するきっかけにもなったようです。
1年目は
天井裏に厚さ200mmほどのグラスウール製の断熱材を入れる
北側の窓枠に、木の枠にポリカーボネートを張った内窓を設置する
2年目は
南側の窓枠に木製の内窓を設置する
北と南の窓まわりの壁に厚さ40mmほどの断熱ボードをはめ込んだ上に羽目板を張る
という作業を行いました。
1回目のワークショップでは、ところどころ天井板(白い部分)を外して、断熱材を敷き詰めた(撮影/窪田真一)
壁にはイノアック・コーポレーションのサーマックスを。熱伝導率0.020w/m・kという高性能な断熱材だ(撮影/窪田真一)
ワークショップ当日は、以下のような流れで行われました。
ユニークなのは、4「レクチャー、学びのワークショップ」を取り入れていること。作業の間に、気候変動についての意見交換の場を設けることで、今行っている断熱改修が何につながるのか、改めて認識する機会になるのです。
グループには工務店やNPOのスタッフなども入ってもらい、大人視点からの意見も交えながら、今自分たちが取り組むべきことを考え、共有します。
それでは、2024年に行われた2年目のワークショップ風景を見てみましょう。
内窓の設置風景。窓の素材は、下はポリカーボネート2枚、上は中空ポリカ(ツインカーボ)。建具にはめる作業も体験した (写真提供/上田染谷丘高校)
上田市の工務店クボケイの窪田さん指導のもと、壁に断熱材をはめ込んでいく。後で木材を張ると隠れてしまう断熱材には思いのたけを落書き(写真提供/上田染谷丘高校)
信州産カラマツの羽目板は、東御市の木材店・第三木材が提供してくれた(写真提供/上田染谷丘高校)
高いところでの作業も慎重に生徒たちが行う(写真提供/上田染谷丘高校)
朝の会と昼休憩、プレゼン大会は隣の教室で。「作業中の教室と暖かさが全然違う!」と、既にこの時点で実感できたとか(写真提供/上田染谷丘高校)
発表まで30分。意見を交わし、スライド資料作成も協力して進めていく(写真提供/上田染谷丘高校)
具体的な節電、節水方法に加え、「教科書をデジタルにし、ノートをアプリに」「二酸化炭素によって暖まる壁紙を開発したらどうか」といった提案も(写真提供/上田染谷丘高校)
ストーブは10分つけただけで、教室中ずっと暖かい
実際にワークショップに参加した生徒たちの声を聞いてみましょう。
信州産カラマツの暖かみのある壁が素敵(撮影/窪田真一)
現在3年生の生徒たちは、2回目(2024年2月)の断熱ワークショップに初参加。やってみてどうでしたか?
「工務店の方の見本を見ながら、のこぎりや機械で木材をカットしたのですが、だんだんうまくできるようになっておもしろかった」
「プロはかっこいいなと思いました。早さも正確さもすごい!尊敬です」
「真っ白だった壁が、木材を張ったことで見た目にも変化がわかる。達成感がありました」
DIY自体が楽しかったという声も多数(撮影/窪田真一)
「断熱材や木材を微調整しながらカットして、壁にちょうどぴったりハマるとうれしい!」
「銃みたいな機械で釘を打って板を留めたんですが、その音が楽しくてやみつきになりました」
と、楽しかった様子が伝わってきます。
2回の断熱ワークショップが終わった教室。北側の窓まわりにも断熱材が入った(撮影/窪田真一)
断熱改修後の教室で過ごしてみて、以前との違い、無断熱のほかの教室との違いはどうでしょうか。
「教室にストーブはひとつしかないので、ストーブに近い席だと腕まくり、遠い席だとすきま風でとても寒かったけれど、断熱後は教室のどこにいても同じくらい暖かい」
「足元までまんべんなくポカポカになりました」
「ストーブは火の強さを大・中・小と設定できて、ほかの教室では大でずっとつけっぱなしなのに、ここは小で10分くらいつければ、そのあと切ってしまっても寒くない」
ちなみにワークショップ直後の測定では、窓の表面温度は内窓取り付け前と後で比べて2.0度→9.3度、内壁の温度は4.6度→9.0度に。
「2月の寒い時期に行ったので、断熱効果がわかりやすかったですね。おそらく実際の数値よりも、生徒たちが感じる過ごしやすさ、実感値はかなり大きいと思います。灯油の減り方はこの冬から検証していきたい。この教室だけ明らかに給油する回数が減っていることは実感しているので」と上條先生は言います。また、断熱化の前から現在も教室の机の上と床部分には温度を測定するセンサーが取り付けられ、自動的にデータが蓄積されており、解析も並行して行われています。
ちなみに断熱1回目を終えた昨年の夏は、
「朝来ると、気密性が高まったおかげでとても暑いのですが、一度窓を開け放して熱を逃してからエアコンを入れると、すぐに涼しくなりました。ほかの教室は設定温度24度にしていますが、ここは26度で十分効いていましたね」(上條先生)。
学校一劣悪な環境だった教室が、格段に快適に。2回目の断熱を経た今年の夏は、さらに効果が実感できることでしょう。
断熱材は約40mm、羽目板は約1cm。その分壁に厚みができたが、狭くなった印象はない(撮影/窪田真一)
外窓上部の曇りガラスに合わせて、内窓には中空ポリカを採用(撮影/窪田真一)
金属製に比べ断熱性の高い木製サッシは見た目にも暖かい(撮影/窪田真一)
断熱ワークショップで生まれる社会的効果は絶大
教室環境が大幅に改善されて快適になったことに加え、今後に活かせる学びも大きい断熱ワークショップ。
まずは、地球環境への関心がより強まったこと。
「これ以上温暖化が進んだらまずい。気候変動のニュースが気になる。若い世代が、地球温暖化を自分ごととして考えるいい機会になっています。脱炭素社会に向けた対策を考えていくと、個人レベルで頑張るのには限界があり、自治体や国に声を届けていくべきと行動する生徒も出てくるでしょう」と藤川さんは話します。
CO2排出量の削減や、エネルギー費用の削減を実感できたこと。
生徒のひとりが、「自分の家は学校より標高が高いところにあって、冬は極寒で暖房費がものすごくかかる。断熱した教室は少しのエネルギーで暖められることがよくわかった」と話していました。断熱効果を高めてエネルギー消費を少なくできれば、高騰する灯油代や電気代の削減にもつながります。
断熱について話す機会が増えたこと。
「うちを建てるときはふわふわの断熱材を使っていたから、ワークショップで固くて厚い断熱材を入れたと話したら親が驚いていた」と言う生徒も。家庭で話すことで、親御さんの断熱に対する意識も高まるかもしれません。また、断熱の効果を実感したら誰かに話したくなるし、こうした取り組みが広まるきっかけにもなります。
自分たちの手でも建物をカスタマイズできると知ったこと。
「DIYは初めてだったけど楽しかった」「自分たちでも断熱改修できるんだ」。楽しく取り組んだら効果が実感できたという体験は、将来自分の住まいと向き合う際に大いに役立つことでしょう。
次のワークショップでは、後ろの黒板がある西側の壁に断熱材を入れたいという(撮影/窪田真一)
学校断熱ネットワーク信州が企画・監修した「教室断熱ワークショップマニュアル」(撮影/窪田真一)
今年度も3回目の断熱ワークショップを行い、次は外壁と直結している西側の壁を断熱したいと意気込む生徒たちの姿は、なんとも頼もしく見えました。3年生は受験を控えているため、現実的には次の生徒会に引き継ぐ形になります。このあとも代々、気候変動対策に取り組み、また全国各地の学校にこうした動きが波及することで、脱炭素社会に近づく大きなステップになることを期待しています。
上田染谷丘高校のように、ワークショップを企画して自分たちで教室を断熱するためのプランづくりや進め方は、藤川さんたち「学校断熱ネットワーク信州」がまとめた冊子「教室断熱ワークショップマニュアル」で詳しく解説しています。今後PDF版を無料公開する予定だそうですが、現在のところは1冊500円の寄付で入手できるそう。企画書のつくり方やスケジュール、資金集めについてなど、興味がある方はぜひ取り寄せてみてはいかがでしょうか。
●取材協力
・上田染谷丘高校
・NPO法人 上田市民エネルギー
・冊子「みんなの教室断熱ワークショップマニュアル」データ
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