ケニアの保険テックPula、AIや気象データを駆使してアフリカの農家を支援
美しいサバンナが広がるアフリカ大陸。一方で、気候変動や紛争などさまざまな要因が絡み合い、飢餓人口の増加が依然として課題だ。イギリス赤十字社は、1億5,000万を超えるアフリカの人々が極度の飢餓に苦しんでおり、これは過去40年で最悪の状態だと伝えている。
食料を供給するアフリカの農家も、バッタなどの害虫や気候変動などの災害に悩まされている。災害で収入を得られない場合、次のシーズンの収穫に向けた投資もできず、さらなる食料難につながる悪循環が生まれる。
災害に対しての保険に、多くの農家が加入していないことも問題だ。保険がないと、災害による被害への保証がなくなり、より収穫を上げるための農具や肥料などへの投資が手控えられる。そして、ますます収穫を増やせなくなる。
この現状の打開に向けて取り組んでいるのが、ケニアのナイロビを拠点とするスタートアップPulaだ。
今年4月にビル&メリンダ・ゲイツ財団も参加したシリーズBラウンドで2,000万ドルの資金調達を行った、注目のインシュアテックスタートアップである。
農業保険のスペシャリスト2人が創業
Pulaは2015年に農業保険のスペシャリスト2人によって創業された。Rose Goslinga氏はケニアやルワンダで小規模農家向け保険プログラムの立ち上げを主導し、Thomas Njeru氏はデロイトの南アフリカオフィスでアクチュアリーコンサルタントの仕事をしてきた。
保険を農業の資材やローンと合わせて販売
PulaはAI、センサー、人工衛星のデータ、スマートフォンなどのテクノロジーを駆使して、小規模農家が収穫リスクに耐え、農業活動を改善し、長期的に収入を増やすための農業保険やデジタル製品を設計・提供している。
保険に対する、理解の不足や信頼の欠如があるからだ。そこでPulaは、保険に入ったことがないような遠隔地の小規模農家でも保険に加入できるような仕組みを作った。
1つ目が、農業資材の購入やローンの借り入れと保険への加入を抱き合わせにすることだ。
例えば、農家が種子などの農業資材を購入する際、あるいは農業資金などのローンを組む際に、その代金に保険料を上乗せする。農家はこの保険料込みの代金を支払うことで、自動的に保険への加入ができるのだ。万が一、災害で収穫ができなくなったときには、この保険に基づいて保険金の請求を行える。
2つ目は、収穫時払いの保険だ。
通常、保険に加入するには、シーズン開始時に支払いが必要となるのだが、小規模農家にとって、収穫前に現金を用意することは大きな負担となる。Pulaの保険では、同社が農家に代わって保険料を立て替え、農家は収穫物を売却した後にその収入から保険料を支払う。これにより、農家のシーズン開始時の負担を大幅に軽減できるのだ。
最新テクノロジーを駆使して保険を運営する
同社は衛星データ、気象データ、過去の収穫のデータなどを分析し、保険料を正しく設定して保険商品を設計している。保険料の請求時には、農家はスマートフォンのアプリを用いて土地の特性情報を簡単に登録することが可能。さらには、AIを用いて現地の請求金額の査定が自動で行われている。
アフリカから世界へ広がるPulaの活動
Pulaは、国際連合世界食糧計画(WFP)と協力して、ケニアのキトゥイで農家に作物保険を提供してきた。過去3年間で、このプログラムは1,000人から約1万人の加入農家に成長し、補償額は76万6,000米ドルに上る。
2020年、Pulaはナイジェリア中央銀行と協力して、雨季に備えて約54万3,000人の農家を保険を提供した。
Pulaの活動はケニアだけにとどまらず、100以上の機関と連携しながら19カ国の1,540万人の農家にマイクロ保険を提供してきた。
現地メディアで、CEOのThomas Njeru氏は「1億人の小規模農家に保険を提供することを目指しています。9年前には多くの人が拡張性がないと見なしていた斬新なアイデアが、今では22か国で数百万の小規模農家の実際のニーズを解決する証明済みの解決策となっています」と語っている。
Pulaの活躍により、世界中の農家が安定的な収穫を達成できるようになり、食料危機の解決につながることを期待したい。
参考・引用元:Pula
(文・松本直樹)
ウェブサイト: https://techable.jp/
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