ママ5人vs子供たちのフットサル対決に圧倒!〜末次由紀『MA・MA・Match』

 相川成実(あいかわなるみ)は45歳。小さな映画広告会社に勤めながら、週替わりで料理を担当し合う穏やかな性格の夫と、17歳の息子・拓実(たくみ)、10歳の娘・瑠実(るみ)の4人で仲良く暮らしている。子どもたちは幼い頃からサッカーに没頭してきたが、ある日、拓実が「サッカー部を辞める」と告げたことで、成実は激しく動揺する。息子の頑張りを見守ってきた彼女にとって、その決断は十分理解できるものの、さみしさが募る選択でもあった。

 ショックを受けながらも、いつものように娘の練習へ付き添う成実に声をかけたのは、ママ友の芦原沙耶(あしはらさや)。10歳になる彼女の長男・圭人(けいと)はサッカーが上手いことを鼻にかけ、専業主婦として家庭を切り盛りする沙耶をバカにした言動を繰り返す。夫も加担したその態度をなんとか改めたい沙耶は、成実に思いがけない提案をもちかける。いわく「一緒にサッカー選手になりませんか」と──。

 著者は競技かるたを題材とした『ちはやふる』(講談社)で、広く知られている。2022年8月、15年にわたったその連載を終え、1年の充電期間を経て発表されたのが、本書の表題作「MA・MA・Match」だ。

 ちなみにこの表題作は、2023年11月7日発売の『good!アフタヌーン』に掲載された直後から、web上にてしばらくの間無料公開された。またたく間にSNS上で話題となり、私もこの時初めて触れた。発売してすぐという意外な試み、くわえて内容は115ページという大ボリュームの読み切り作で、難しいテーマを幅広く詰め込んでいるのに、するする読めて心に刺さる。その上、丁寧な設定と展開があることで、描かれなかった部分にも思いが及ぶ。巧みさに、ただただ圧倒された。なお今回の単行本化で、描き下ろしの「PA・PA・Patch」も収録されている。

 さて沙耶の提案をきっかけに、圭人や瑠美のいる子どもチームとフットサルの試合をすることになった、ママたち5人の即席チーム。全員がサッカー未経験というハンデを負いつつも、限られた時間の中で地道な練習を重ねていく。挑む理由も運動経験も人それぞれ。だがお互いの状況や気持ちが理解できるからこそ、誰もやめようとはしない。そうしてチームは形になってくるが、一方でそれを面白く思わない家族がいた。

 フィールドに立った彼ら/彼女らのプレーは、対話そのものだ。パスを回せること、ゴールを決められること。その動作ひとつひとつに意味があり、できるようになるまで積み重ねた時間がある。傲慢な少年であっても、それを感じ取れないほど愚かなプレーヤーではない。そして応援されていた者が応援する側に回ることで、新たに気づく風景もある。変化は試合の中でも、外でも起きていく。

 家族であれチームであれ、人が集う上で根底に必要なのは信頼と尊敬だ。はたして彼ら/彼女らがそれを手にできたのかは──ぜひその目で確かめてほしい。

(田中香織)

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