母から娘、四世代にわたる人類のサバイバル~高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』

access_time create folder生活・趣味
母から娘、四世代にわたる人類のサバイバル~高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』

 メディアミックスで展開中のプロジェクト〈SYNDUALITY〉の、本書は公式小説。高島雄哉作品らしい、ハードSFのガジェットと青春小説テイストがたくみにブレンドされている。また、文章作品ながら、場面の構成や描写に工夫を凝らし、強烈なイメージ喚起力を発揮する。

 はじまりは西暦2099年に突如、地上に降り注いだ青い雨だった。のちにブルーシストと呼称されたその雨は、ガラス窓をつきやぶり、建物の機能を不全におとしいれる。また、それに触れた人間の皮膚にモザイク状の染みを発生させ、死に至らしめる。通信や流通などの社会機能は麻痺し、自然の景色も大きく様変わりしてしまった。生き延びた数少ない人間は雨を避け、地下へ向かった。

 そのなかに、壊滅した尖塔都市〈ラミナ〉から脱出したふたりの少女がいた。エリロスとアイ。彼女たちは、青い雨を予測する感性と、地上で活動するための移動機械〈クレイドル〉を操縦する能力を発揮し、さまざまな物資を調達するドリフターという仕事に就く。ドリフターの探索対象のうち、もっとも重要なのは新しいエネルギー源〈AO(Amorphous Orange)結晶〉だ。その正体は不明だが、ブルーシストとほぼ同時に発見された。

 ブルーシストとの関連が噂されるものには、異形の脅威〈エンダーズ〉もある。こちらも正体不明。多くは動物に酷似した形態を持ち、どうやら〈AO結晶〉からエネルギーを得ているようだ。

 人類の苛酷なサバイバルという大きなプロットと、ブルーシストをめぐるいくつかの謎、そして相棒として活躍するエリロスとアイのドラマ。物語はテンポよく進み、第二世代にあたる、エリロスの娘エオーナ(彼女もドリフターとなる)と、アイの娘アサ(彼女は建築師となる)が登場する。さらに、第三世代のエウディア(ドリフター)とアメ(数学師)、そして第四世代のエリス(歌姫)とアオ(ドリフター)と、運命のバトンは受けつがれていく。

 母から娘へという縦の継承(ただし感情的な結びつきはそれぞれの母娘で異なる)と、相棒となる同世代同士の横の連帯(これもそれぞれのペア特有の機微がある)。これによって、全体に瑞々しい香気が醸しだされる。

 プロジェクト名の〈SYNDUALITY〉にはさまざまな意味がこめられているのだろう。本作では、それぞれの世代でふたりの女性が相棒となって、人類史に新たな局面を拓いていく展開が端的だ。また、物語中で圏論への言及があることも注目ポイント。双対性(duality)は圏論では基本的な概念のようだ。圏論は現代数学における注目分野であり、素人目には高度に抽象的な議論(集合論を発展させたような)に思えるが、そこはさすが高島雄哉。大ぶりのSFギミックにみごとに結びつけている。

(牧眞司)

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 母から娘、四世代にわたる人類のサバイバル~高島雄哉『はじまりの青 シンデュアリティ:ルーツ』
access_time create folder生活・趣味

BOOKSTAND

「ブックスタンド ニュース」は、旬の出版ニュースから世の中を読み解きます。

ウェブサイト: http://bookstand.webdoku.jp/news/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。