【「本屋大賞2024」候補作紹介】『水車小屋のネネ』――18歳と8歳の姉妹がたどり着いた先は……?「親切」が連鎖する40年の物語

【「本屋大賞2024」候補作紹介】『水車小屋のネネ』――18歳と8歳の姉妹がたどり着いた先は……?「親切」が連鎖する40年の物語

 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2024」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、津村記久子(つむら・きくこ)著『水車小屋のネネ』です。
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 タイトルを見て一瞬で内容がわかる本もあれば、まったく予測できない本もあります。それで言えば『水車小屋のネネ』は完全に後者で、「いったいどんなお話なんだろう?」と興味をそそられる人も多いのではないでしょうか。

 「ネネ」とは、同書に登場するインコ科の鳥・ヨウムにつけられた名前です。なんとヨウムは3歳児程度の知能があり、平均寿命も50年ほどだといいます。同書は水車小屋に住むネネと、ネネにまつわる人々の40年間の暮らしを描いた長編小説です。

 第一話の舞台は1981年。高校を卒業した山下理佐は、身勝手な母親のせいで予定していた短大入学の道が絶たれてしまいます。さらに10歳年下の妹・律が、母親の婚約者に家から閉め出されたり頭を叩かれたりしていることを知り、妹を連れて家を出ることを決意します。理佐は職安で、あるそば店が人手を募集していることを知りますが、そこに付記されていたのは「鳥の世話じゃっかん」というちょっぴり不思議な文言。そば店のすぐ近くの水車小屋にはそば粉を挽くための石臼があるとともにヨウムのネネが住んでおり、そのお世話も仕事の一環に含まれていたのです。こうして実家から離れた山間の町で、姉妹ふたりの新たな生活がスタートしたのでした――。

 そこで紡ぎ出されるのは、人々の優しさや温かさの連鎖です。理佐を雇ったそば店の店主と妻の浪子さん。姉妹の良き話し相手で理解者となってくれる画家のおばあさん・杉子さん。律の小学校の担任の先生であり、その後も交流を持つ藤沢先生。律の同級生の寛実ちゃんを男手ひとつで育てる榊原さん。皆、頼れる親がいない姉妹を心配しながらも見守るスタンスを貫くその温度感がなんと素敵なことでしょう。

 さらに、自分たちの暮らしを立て直した理佐と律が、今度は身の回りにいる人たちを変えていこうとする姿も印象的です。親切とは過度な手助けではなく、無理のない範囲で自分にできることをして支え合っていくことなのかもしれません。そして、誰かから受けた善意を誰かに渡すことで、そのつながりはずっと続いていきます。第二話で1991年、第三話で2001年、第四話で2011年、エピローグで2021年と10年単位で描かれる各話を読んで、優しさの連鎖がたしかに広がっていることを読者は感じるでしょう。

 同書で心に残る言葉のひとつが、「誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ」(同書より)という藤沢先生のセリフです。普段、他人に手を差し伸べることを躊躇してしまうこともある私たちですが、読んだ後は自然と「自分もできることを誰かにしてみようかな」と思えるはず。同書はそんな「優しさの持つ力」を素直に信じたくなる、温かさにつつまれた作品です。

[文・鷺ノ宮やよい]

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