懸命な彼らのもがきとあゆみ〜泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』

 金髪で長髪のヤンキー高校生、小林大和(こばやしやまと)。日々を気だるげに過ごす彼のクラスに、ある日、ひとりの転校生がやってきた。彼の名は宇野啓介(うのけいすけ)。不意の大声による自己紹介にはじまり、独り言を言っては笑い、字のみっちり詰まったノートを持参する風変わりな様子は、他クラスにいる小林の仲間にも伝わるほどだった。

 本作はWebマンガサイト「&Sofa(アンドソファ)」で発表されている。1話目が公開されるやいなやSNS上で大きな話題を呼び、後日、「&Sofa」の運営元である青年誌『月刊アフタヌーン』にも掲載された。著者は『東京人魚』という短編で「アフタヌーン四季賞2022秋」に準入選した新鋭で、本作が初の連載である。

 友人たちの俗な関心をよそに、小林は新しいバイト先へと向かう。これまでに勤めた本屋やコンビニ、ファミレスでは、仕事がうまくこなせなかった。今度の中古ショップでも彼のミスは続き、同僚はあからさまな陰口を叩く。見た目に反して素直な小林は、内心で彼らを毒づきながらも自らの不出来について思い悩む。「…他のバイトは皆簡単そうにやってんのに…なんで俺はまちがえるんだ?」と。

「みんな」にとって当たり前にできることが、自分にはできない。それはどうにもいたたまれない気持ちを呼び起こす。かといって、感じたもどかしさや情けなさを言葉にすることはさらにつらいし、学び方もわからない。そうして投げやりになっていた小林を意図せず救ったのは、偶然通りがかった宇野の大声だった。自分のペースを崩さない/崩せない彼の在り様に、小林は徐々に興味を持っていく。

 今の時代、彼らの状況に名前を付けるのは簡単なことだろう。だがそれをあえてしない理由を、著者はあとがきに記している。くわえて本作では他にも、語られない情報が多くある。登場人物たちの動きや表情に託されたそれらは、言葉よりも雄弁だ。コマの中に収められた感情は読み手に委ねられ、マンガがマンガである面白さを存分に伝えてくれる。

 その後、ひょんなことから宇野のひたむきな努力と心に触れた小林は、彼の言葉を頼りに、自分の気持ちと向き合い始める。感情に名前を付けて状況から逃げ出さず、できることを一つずつ探すこと。それは小林にとって初めての挑戦であり、宇野と出会ったことで起きた変化だった。

 小林と旧友との関係や、2話目以降で広がる宇野と小林の学校生活も胸に迫る。それぞれなりに不器用で、誰しもうまく動けない。それでも新たに知った望みと楽しさが、少しずつ彼らの日々を変えていく。その懸命なもがきと歩みから、今は目を離したくない。

(田中香織)

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