北欧の街がレンガ造りから木造にシフト中の理由。海藻・ススキ・ワラもサステナブルな新建材として再注目、デンマークからレポート

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北欧の街がレンガ造りから木造にシフト中の理由。海藻・ススキ・ワラもサステナブルな新建材として再注目、デンマークからレポート

ヨーロッパやデンマークの街並みを考える時、まず思い浮かぶのはレンガ造りの建物ではないでしょうか?でも、ここ数年、環境負荷を下げ、持続可能な住まいや建物をつくることを意識する上で、デンマークでも木造建築に注目が集まりはじめています。でも、人々の関心は木材以外のものにも広がっているようで……。デンマークが考える、これからの持続可能な建築素材について探ります。

レンガと瓦がデンマークの街並みをつくってきた建築材料の中心的存在

レンガ造りの家、と聞いて、私がいつも真っ先に思い浮かべるのが、『3びきのこぶた』の童話です。みなさんも、子どものころ読んだことがあるかと思います。子豚を食べてやろうと虎視眈々と狙うオオカミ。長男の子豚はワラで、次男の子豚は木で家を建てるもののどちらの家も簡単に吹き飛ばされてしまいますが、働き者の三男の子豚が建てたのは、レンガの家。そのおかげでオオカミに食べられずにすみ、しかも、オオカミ退治までしてしまうというお話でした。

これは、イギリスのお話だそうですが、デンマークでもレンガや瓦屋根は1000年以上にわたり、建築材料の中心的な役割を担ってきました。見た目が美しく、寒さと熱の両方に対して断熱性を備え、耐久性も優れた素材です。また、デンマークの下層土には粘土が大量に埋蔵されているので、レンガや瓦屋根をつくるのに適していたことも影響しています。

瓦屋根は、はじめは国王や教会、領主だけが使うことができる非常に高価な建築材料でした。しかし、その当時多かった茅葺屋根の家々が連なる町は度重なる火災に見舞われ、何世紀にもわたり大きな人的、金銭的被害を出してきたことと、時代とともに瓦の製造技術が上がったことで、レンガと同様、瓦も一般の人々の家に普及していきました。

今、デンマークのあちこちで見かけるようなレンガと瓦屋根の家が増える前は、木組みにレンガを組み合わせた木骨レンガ造の家に茅葺屋根、というのが主流で、18~19世紀に建てられました。地震や台風がなく、戦争でも大きな被害を受けなかったこともあり、当時建てられた木骨レンガ造の家や茅葺屋根の家は今でもデンマーク各地で現役で使われており、古き良きデンマークの面影を町や田舎の風景の中にとどめています。リゾートエリアにあるこうした建物もとても人気があり、資産価値も高いのです。

私が暮らすロラン島のマリボにある、木骨レンガ造に瓦屋根の家 (C)Daniel Villadsen

私が暮らすロラン島のマリボにある、木骨レンガ造に瓦屋根の家 (C)Daniel Villadsen

家づくりの材料としての木材の利用が少しずつ増加傾向に

私も最初にデンマークで引越したアパートは、なんと1670年代に建てられたもので、レンガ造り。でも、外装も内装も何度もリノベーションが施されているので、そこまで古い感じはしませんでした。一部、床は少し傾いているかな~というところはありましたが……(笑)。

前述したように、デンマークは地震や台風はないので、古い建物でも、補強や断熱などのリノベーションをすれば、家や建物は長く使うことができます。ですから、引越す時に、前あった家を壊して新築する、ということは非常にまれで、もともとあった家に引越して、そこで自分の好みになるように手を加えて暮らすことが主流です。

そうは言っても、人口の自然増が進むデンマークでは、新築の住宅や新しい建築物なども増えていて、近年の住宅完成件数は一年あたり約20,000~35,000件にのぼります。そして、建築材料として木材を使う割合が少しずつ増加傾向にあります。レンガの原料自体は天然素材ですが、これまでのレンガづくりは石炭を燃料とする焼成窯を利用することが多く、製造過程で多くの二酸化炭素を排出します。また、コンクリートも石灰石を他の原料と混ぜて高温で燃焼するプロセスで、二酸化炭素が大量に排出されます。こうした建築材料に、少しでも再生可能な木材などを使うことは、地球上全体の化石燃料による二酸化炭素の排出量を減らすことにつながります。デンマークでは、2020年6月に制定されたデンマークの『気候法』で、二酸化炭素の排出量を2030年までに、1990年比で70%削減するという野心的な目標を定めています。デンマークの二酸化炭素の総排出量の約3分の1以上は建設業界が占めていることから、その削減を確実に進めるために、翌2021年の4月に『持続可能な建設のための国家戦略』が策定されています。
これは、重点分野に

1)より気候に優しい建築と建設
2)高品質で耐久性のある建物
3)資源効率が高い建設
4)エネルギー効率が高く、健康的な建物
5)デジタル対応の建設

という5つを据え、さらに持続可能な建設の3つの次元として

1)自然、環境、気候、資源に影響を与える環境の質
2)幅広い観点で人々の健康と幸福に関係する社会的資質
3)総経費と建設の質のバランス

という意味合いで経済の質が保たれていることにフォーカスし、2030年までのロードマップを示すものです。

そうしたなか、木材が気候への影響を軽減する有効な手段であるという認識の高まりも相まって、建築における木材の使用は、過去10年で約25%増加しています。しかしながら、木造建築が劇的に増えたかというとそういうわけでもなく、2020年のデンマークの総建設の9%、住宅建設の11%が木造建築となっています。デンマークの木材関連団体では、2030年までにデンマークの建築の20%を木造建築が占めるという目標を掲げています。

木造の住宅コミュニティAgorahaverne。大人と高齢者向けで、自由、コミュニティ、自然、そして持続可能性がテーマ(C)Tetriis A/S

木造の住宅コミュニティAgorahaverne。大人と高齢者向けで、自由、コミュニティ、自然、そして持続可能性がテーマ(C)Tetriis A/S

(C)Tetriis A/S

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ワラ、亜麻、海藻……木材だけじゃない、古くて新しいこれからの建築材料

これからデンマークが、二酸化炭素の排出量を大幅に削減して、国連の気候目標を達成すると同時に資源不足を解消するためには、再生可能な生物由来の資源を建築材料として使いこなしていくことも重要です。農業先進国であり、周りをぐるりと海岸線に囲まれたデンマークは、林業、農業、海洋環境から生物由来の資源を生み出せる可能性も大きく、これまで建築材料として使用してきた、環境負荷が高く再生不能なコンクリート、鉄鋼、レンガ、ミネラルウールの代わりにそうした生物由来の資源を使用することで、建設における二酸化炭素の排出量の削減に大きく貢献できます。
前述したデンマークの茅葺屋根ですが、その素材となっているのは実は日本原産のススキで、1990年代にデンマークに輸入され、全国で栽培されるようになったものなんです。もともとは、デンマーク産の葦が屋根に使われていて、200~400年も長持ちしていたそうですが、1930年にその葦が全国的に病気に侵され、既にあった茅葺屋根の家の補修も困難になってしまいました。そこで1990年代に、デンマークでは茅葺屋根の素材に関する世界での大規模調査が行われ、その時に日本のススキは丈夫で、経年劣化もゆっくりで金色とも例えられる美しい色合いが長持ちするということで、デンマークに移植されることになりました。日本では、ススキというと河原や山沿いの原っぱに生えているのが私たちに馴染みある風景だと思いますが、デンマークではススキは畑や湖や海岸近くの平地で栽培されています。ですから、刈り取る機械などもデンマークで開発されました。

私は、たまたま日本とデンマーク、両方の茅葺屋根職人さんの友人がいて、彼らの技術交流のお手伝いをさせていただいていたこともあります。現在、デンマークには約55,000軒の茅葺屋根の家があります。余談ですが、国際茅葺き協会というものがあり、現在、デンマーク、日本、フランス、ドイツ、英国、オランダ、南アフリカ、スウェーデンの職人さんたちが会員になり、2年毎に「世界茅葺き会議」も開催されています。ちなみに2019年には日本の白川郷、京都、美山、神戸を会場として開催されました。次回は2025年にデンマークでの開催が予定されています。

茅葺屋根の家。部屋の中は夏涼しく冬暖かい (C)Visit Lolland-Falster

茅葺屋根の家。部屋の中は夏涼しく冬暖かい (C)Visit Lolland-Falster

最近の茅葺屋根建築の代表的なものは、記事冒頭の写真で紹介した、デンマーク最古の町リーベにある、Vadehavscenteret。国立公園にあるこの海洋センターは、ファサード、屋根、天井裏が葦で覆われていて、自然と一体化した特徴的なデザインです。通常、茅葺きは屋根の部分のみの場合が多いですが、この建物は、地面に続くところまですべて葦(あし)でつくられています。

Vadehavscenteret(ワッデン海洋センター)。自然に溶け込む、全体が葦で覆われた雄大な建物 (C) Vadehavscentret (2017) - Dorte Mandrup. Photographer: Adam Moerk

Vadehavscenteret(ワッデン海洋センター)。自然に溶け込む、全体が葦で覆われた雄大な建物 (C) Vadehavscentret (2017) – Dorte Mandrup. Photographer: Adam Moerk

デンマークには、伝統的に海藻を使って屋根を葺く伝統もレス島に残っています。レス島は女性の島と呼ばれることもあります。歴史的に男性は漁に出たり、船乗りが多かったので、屋根を葺くなどの重労働も女性が手仕事で担っていたためです。その歴史から生まれたのが、アマモを使って屋根を葺く海藻屋根。島には17世紀に葺かれた海藻屋根が健在で、長持ちすることが証明されていますが、アマモには塩が染み込んでい
るため、燃えたり腐ったりすることがないのだそうです。

レス島の海藻屋根の家。とてもユニークな外観。断熱、防音効果も高い(C)Kjetil Loeite

レス島の海藻屋根の家。とてもユニークな外観。断熱、防音効果も高い(C)Kjetil Loeite

デンマークの建築というと、日本でも人気の北欧デザイン、最新のシャープで斬新なものがイメージされるかもしれませんが、その良さを活かしつつ、今後は温故知新、身の回りにもともとあった自然素材の価値を再定義して、うまく組み合わせていくことになりそうです。どこか温かみのある住宅や建物がある町や地域、住む場所、使う場所が他の誰かや地球にストレスをかけない暮らし。スピードと効率性を究極まで求めてきた時代から、ようやくまた人が、地球が自然なテンポで生きることに戻っていくのかもしれないと思うと、心まで温かくなるような気がするのは私だけでしょうか?

●取材協力
Eksporteventyr og lØsningen på fremtidens bæredygtige byggeri – KØbenhavns Universitet
・LæsØs tangtage | VisitLæsØ
・Vadehavscentret i Ribe

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