月面都市で語られるいくつかのクリスマス物語~村山早紀『さやかに星はきらめき』

月面都市で語られるいくつかのクリスマス物語~村山早紀『さやかに星はきらめき』

《桜風堂ものがたり》シリーズなどで知られる人気作家、村山早紀が自ら「SFが書きたい」と表明し、それに〈SFマガジン〉編集長(当時)、塩澤快浩が呼応。かくして実現したのが本書である。

 人類が荒廃した地球から離れて数百年後、人間は猫を祖先とするネコビト、同じく犬由来のイヌビトと共生して、太陽系を中心とする領域で暮らしていた。この物語の主な舞台となるのは、月面都市〈新東京〉である。

 主人公のキャサリン・タマ・サイトウはネコビトの腕利き編集者であり、いま『愛に満ちた、人類すべてへの贈り物になるような本』に取りかかっていた。いろいろな時代の、心温まるクリスマス物語を集める企画である。この企画をめぐり、彼女の元へさまざまな者がやってくる。

 第一章「守護天使」では、同僚編集者であるイヌビトのレイノルド。

 第二章「虹色の翼」では、校正者であるトリビトのアネモネ。トリビトは鳥に似た種族だが、ネコビトやイヌビトと異なった歴史を経て、人類と共生するようになった。

 第三章「White Christmas」では、雑誌編集部の編集長リリコ。リリコはキャサリンの子どものころからの友人であり、古き人類(昔風の表現をするなら「普通のヒト」)だ。

 第四章「星から来た魔女」では、銀河連邦から来た広報担当者リョクハネ。銀河連邦はたくさんの異星知性種族によって構成されており、人類は新参者である。

 第一章は十二月中旬、第二章は二月、第三章は夏、第四章は秋と季節はめぐる。各章のなかでひとつずつクリスマス物語が披露される構成だ。それぞれのクリスマス物語の背景として、かつての母星である懐かしい地球の運命、そして人間がたどった切ない歴史が垣間見える。また、SFならではの設定(往年の名作SFを思わせるアイデアが嬉しい)と、クリスマス物語らしいファンタジイ要素(奇跡が訪れる夜)がブレンドされており、それが独特の優しい風合いを醸しだす。

 最終章「さやかに星はきらめき」に至り、季節は冬。キャサリンが一年がかりで編集した本が完成した。書店に並ぶ実物の本、ページをめくる手ざわりのある本。この物語に登場するひとたちはみな、本を愛している。そして、キャサリンのところへ思いがけない人物が訪ねてくる。ここでもうひとつ、新しいクリスマス物語が語られる趣向だ。

 村山早紀はこの作品で枠物語の形式を効果的に用い、過去のひとびとが残した思いを、未来へむかう希望へとつなげてみせる。

(牧眞司)

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 月面都市で語られるいくつかのクリスマス物語~村山早紀『さやかに星はきらめき』

BOOKSTAND

「ブックスタンド ニュース」は、旬の出版ニュースから世の中を読み解きます。

ウェブサイト: http://bookstand.webdoku.jp/news/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。