社会性がない、努力できない、知ったかぶりをする……全部遺伝子のせい? 生物学的視点から悩みを分析
嘘をついたり知ったかぶりをしてしまう、小さなことですぐイライラしてしまうなど、日々の生活の中で行動や感情を制御できず悩むのは、多かれ少なかれ誰にでもあることです。しかしそのことで「なぜ他の人のようにうまくいかないのか」「自分はなんてダメな人間なんだ」と自責の念にかられて、深く落ち込むことも……。
でもそれ、生物学的にしょうがないんです!
そんな言葉でわたしたちの悩みを一蹴してくれる書籍『生物学的に、しょうがない!』が、落ち込んだときに心強い味方になってくれそうです。著者は『サイエンスZERO』(NHK)や『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオに出演する生物学の専門家・石川幹人(いしかわ・まさと)さんです。
ただ、「生物学的にしょうがない」なんて言われても、すぐにはピンとこないかもしれません。そこで同書の冒頭で石川さんは、「遺伝子に問いかける問題」を出題しています。次の文章を読んで、あなたはどんな気持ちになるでしょうか? 文章の内容をよく想像しながら読み進めてみてください。
「ある雨の日、あなたは友人に誘われて初対面の人ばかりがいる会合に出かけることになりました。
その会合では、ひとりにつき3分、出席者の前で自分のことを話す時間が設けられています」(同書より)
上記の文章を読んで「こんなところ行きたくないなあ」と嫌な気持ちになりませんか? 「すっごくワクワクする!」と思った人は少ないでしょう。
石川さんによると、「雨の日」「初対面の人」「人前で話す」というポイントは、「人間が生物として持っている遺伝子に刻まれたプログラムが原因」で、できれば避けたいと感じるのだそうです。
「友だちとの約束があるのに雨が降ったから行きたくなくなっちゃった」や「新しい環境で初対面の人に話しかけられず友だちを作るのに苦労する」といった気持ちに、多くの人が共感できるはず。それは遺伝子が嫌がっているからなので、「自分には社会性がない……」なんて落ち込む必要はないということです。
また、人はそれぞれ個別の遺伝子を持っているため、「他の人はできるのに自分にはできない」という状況がどうしても生まれてしまいます。そのことで劣等感を抱き、他人と比べて落ち込むこともあるでしょう。その劣等感があるからこそ、すさまじい努力ができることもありますが、その「努力の総量」にも生物学的な限界があると石川さんは記します。
「『同じ人間なのだから、きっとできるはずだ』とか、『努力を重ねれば誰でも絶対達成できる』などと言う人がいます。(中略)私は『やめてくれ!』と強く思います。遺伝子の影響力を知らないからそう言えるのです」(同書より)
「努力を続けている人は、その才能や個性が興味ある対象とピッタリ合致したので、限られた努力をそれに向けつづけているのです」(同書より)
石川さんはこのように、生物学的視点から、さまざまな悩みを分析・解説しています。たとえば冒頭で出した「嘘をついたり知ったかぶりをしてしまう」という悩み。実は人類は、最初から嘘つきだったわけではないようです。わたしたちは、言語が主なコミュニケーション手段になったことで、誰でも簡単に嘘をつけるようになり、しかも「ウソを見抜くことが非常に不得手」なのだそうです。
「私たちの能力の大わくが確立した狩猟採集時代では、ウソに効果があまりなかったのでウソをつく人が少なく、そのため、ウソを見抜く能力も進化しなかったのです。
情報メディアが高度に発達した今日では、より手軽にウソがつける社会になっています。SNSで気軽に多くの人にメッセージが伝えられる便利な社会は、同時に、知ったかぶりがあふれ、ウソが渦巻く不信社会となったのです」(同書より)
そのため石川さんは「ウソをつかないことよりも大切なのが、誠実な人づきあい」と記します。たとえ知ったかぶりをしたり嘘をついたりしてしまっても、そのあとに素直に謝ることです。石川さんは「諦めなさい ウソにメリットがある 社会になったのだから」と締めくくります。
他にも同書では、「嫉妬しちゃうの、しょうがない!」、「整形したくなるの、しょうがない!」、「マウントとろうとしちゃうの、しょうがない!」、「SMプレーが好きなの、しょうがない!」など、さまざまな悩みと遺伝子の影響を紹介しつつ、「しょうがない」「諦めなさい」と生物学的視点から甘えさせてくれます。
もちろん遺伝子を言い訳に逃げ続けていても人生が好転するとはいえません。ただ、すごく頑張っているのにずっと心が苦しい、自分のダメな部分にばかり目がいってしまうなど、海の底に沈んだような気持ちで日々暮らしている人がいたら、ぜひ同書を手に取ってみてほしいのです。心に積もった小さなストレスを少しずつ取り除くことができるかもしれません。
[文・春夏冬つかさ]
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