主演映画でヤングケアラーの少女役を熱演 独特の存在感と演技で注目の女優・中井友望

主演映画でヤングケアラーの少女役を熱演 独特の存在感と演技で注目の女優・中井友望

「ミスiD 2019」グランプリで、現在は女優として活躍する中井友望さん。そんな彼女の単独初主演映画となる『サーチライト-遊星散歩-』が今月14日に公開されます。“ヤングケアラー”“JKビジネス”などヘビーな題材を扱った本作に挑んだ彼女ですが、「前向きな気持ちで臨めた」と言います。そんな彼女の演技やパーソナリティの魅力を紹介します。

★「ミスID」グランプリから女優へ 映画を中心に活躍

中井さんは2019年、新タイプのアイドルコンテスト「ミスiD」に参加し、見事グランプリに。その後現在の事務所に所属し女優活動をスタート。そして2020年、ドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』(日テレ系)でデビューします。

以降『かそけきサンカヨウ』(2021年)、『シノノメ色の週末』(2021年)、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー 』(2023年)、『少女は卒業しない』(2023年)など映画を中心に、ドラマ、舞台など多彩な作品に出演してきました。

今年8月公開の『炎上する君』ではバンドのボーカル役で出演。打ち上げの居酒屋で男性のバンド仲間から“恋愛経験が乏しいから、ボーカルが艶っぽくない”みたいなことを言われ、嫌な気持ちになります。自身の恋愛経験をからかわれたり、恋愛についてイメージで決めつけられ、悲しくなり店を出ようとしていたところ、たまたま客として居合わせた主人公の女性に「君は悪くない」と励まされ、勇気づけられます。出番は決して多くないものの、物語を象徴するような存在で、エンディングでも登場しインパクトを残します。

★“ヤングケアラー”“JKビジネス”を扱った作品を体当たりで熱演 初の単独主演映画が公開

そんな中井さんの初となる単独主演映画『サーチライト -遊星散歩-』が10月14日に公開となります。

本作は一見普通の女子高生が、若年性認知症を患った母との二人の暮らしを守るために奔走する物語。生活のために“JK散歩”に足を踏み入れていきます。

本作が撮影されたのは1年半前。当時まだ女優としてほとんど実績のなかった中井さんを指名で主役に抜擢。脚本家が主人公・果歩を中井さんに合わせて当て書き、人物像が出来上がったといいます。

10代、20代序盤の若者が病気の親や祖父母を一人で介護する“ヤングケアラー”や、女子高生(に見える女性)が年上の男性からお金をもらってデートする“JK散歩”についてはほとんど知識はなかったという中井さん。でも事前にそれについて研究しなかったといいます。それは「詳しくなくていいし、実際、その当人はそういうことを詳しくないと思うんです。そういう環境にいて、その中でただ必死に一生懸命頑張る女の子だったので……」(GirlsNews、10月掲載)という思いから。

彼女と主人公の果歩は置かれている状況は違いますが、人物像は中井さんに当てて作られているため、理解できる部分も多いといいます。そのおかげで、環境的には違う役柄でありながら実に自然に演じている印象です。

果歩はギリギリの環境で生活しているため、人に対して感情をあらわにする芝居も目立ちます。「今までの作品の中で一番感情を出すお芝居をしました。今までそれを自分がどう捉えて演じるのかわからなかったんですけど、今回まったく客観的じゃなかったです。そのセリフを言っているとすごいぐっとなってきたりというのは、今回初めて経験しました」(同上)と振り返ってくれました。果歩として感情が自然に湧き上がっているような彼女の叫びが、観ていて心に響きます。

また、学校にいるときには感情をなくしたような表情を見せている一方、大好きなお母さんと一緒にいるときの可愛らしい笑顔とのギャップも見どころです。

撮影に入るにあたっては、監督と事前に細かく話し合ったりもしなかったといいます。「果歩をただ“かわいそう”という見え方にはしたくない」という注文だけはあったそうですが、それ以外に細かく演技に注文を出されることもなく、中井さんからも“こう思ってる”みたいなことは言わなかったそう。まるで中井さんが果歩として生きている姿をドキュメンタリーとして撮っているよう感じです。

★独特な演技や存在感にはクリエイターの想像力を刺激するような魅力が

そんな彼女のお芝居を観ていると、「うまく演じよう」という意識より、上記のように“その役を生きようとしている”ように感じます。主演映画『サーチライト』でもその主人公は果歩でありますが、中井友望でもあるという印象です。その演技は、一般的な尺度の上手いかどうかということでなく、唯一無二の芝居、中井友望ならではの独特の存在感を感じます。

また、クリエイターを刺激するような素材の魅力。“彼女を起用してこう料理したい”“こういう役をやらせてみたい”という想像力を刺激するような、女優としての素材感があります。

筆者は観る立場としてですが、90年代の野島伸司さん脚本のドラマに登場したような、何かハンディキャップを持つ少女役、不幸な目に遭う少女役がハマりそうで、そういう役を演じている姿を観たいと思いました。

今回の主演映画に限らず、撮影前には新しい現場に入るということでも緊張するという彼女。もともと人と交わることが得意ではなく、学生時代には不登校や学校の中退も経験していたと聞きます。そういう意味でも緊張感があるのかなと思いつつ、実際に撮影に入ると、現場のスタッフと自然にいろいろ話せるといいます。インタビューでは、学校のクラスや一般の企業にいたとしたら馴染める自信はないといつも話しますが、「いい仕事がみつかってよかった」と微笑む彼女でした。

そうしたインタビューの場などで話すときにも独特の雰囲気があります。決して饒舌ではありませんが、自分について伝えようと話す姿に興味深く耳を傾けさせられます。口数は多くなく、話の途中で空白ができることもあるけれど、不思議と彼女のペースに心地よく引き込まれます。

性格的に大人数ではしゃいだりすることより、映画を観に行ったり、一人旅をしたりするのが好きだという中井さん。映画『炎上する君』に出演したことを機に、その原作者の西加奈子さんの作品を入口に読書にもハマり始めたとのこと。最近は宮本輝さんの小説も好きで読んでいるといいます。彼女の独特の個性が、それらの作品と交わることでさらに面白くなりそうなのも楽しみです。

現在放送中のドラマ『君には届かない。』では、これまであまり演じてこなかった、青春っぽい役柄にも挑戦。この作品の撮影を通じて「自分とは近くない役も楽しめるようになったし、逆に自分からどういうアプローチをしていけばいいのか考えながら演じていたので、すごいいい経験になったなと思います」(同上)と話します。そんな最新の彼女の演技が見られるドラマ『君には届かない。』は、TBSで火曜深夜24時58分〜放送中ですので、よければそちらもチェックしてみてください。。

文/田中裕幸

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