日本が「失われた30年」を抜け出すために必要な「知財ミックス」とは

日本が「失われた30年」を抜け出すために必要な「知財ミックス」とは

バブル崩壊後の経済の低成長が続く日本。

「失われた10年」は、20年となり、30年になろうとしているが、未だに日本は低成長にあえぎ、新しい産業が興るようなイノベーションは生まれていない。

日本経済が世界から取り残されつつあることは、企業の時価総額ランキングを見ると明らかだ。1989年の世界の企業時価総額ランキングのトップ5はすべて日本企業だった。しかし2023年のランキングを見ると、50位以内に日本企業は1社もランクインしていない。これが世界の中の日本企業の現状、そして日本の現状なのだ。

■日本企業が国際競争力を失った背景とは

私は、日本企業の多くは、多様な知財を社内に持っているにもかかわらず、それを発見し、ミックスして活用することが不十分で、かつ知財の流出防止等の対策も十分にとれておらず、海外企業に後れを取っていると考えています。(『「見えない資産」が利益を生む: GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』より)

『「見えない資産」が利益を生む: GAFAMも実践する世界基準の知財ミックス』(ポプラ社刊)の著者である鈴木健二郎氏は、日本企業が国際的な競争力を失った背景として「知財の活用が十分でなかったこと」を挙げている。

ここでいう「知財」とは、特許権や商標権だけではない。ブランドや営業秘密、データ、ノウハウ、人的資産や経営理念なども企業が保有する無形の資産も “広義”の知財である。知財は“見えない資産”であるために価値が認識しにくく、“宝の持ち腐れ”になりがちな性質があるが、海外企業は以前からこうした知財をつかって新たな価値を生み出してきた。その一方で、日本企業はさまざまな知財を持っているにもかかわらず、それを利用して利益を追求することを十分にはしてこなかったのである。

本書ではこれらの知財を組み合わせ、活用して事業を展開することを「知財ミックス」と呼び、この取り組みを継続的に行っていくかどうかが、いっそう複雑性、不確実性、変動性が増す21世紀の世界で日本企業の存亡を分けるとしている。

■アップルが「ホテル事業」に参入するのは不自然ではない

では、海外企業はどのような知財ミックスを行っているのだろうか。

iPhone、iPadなどを手掛けるアップルの知財ミックスは大胆かつユニークだ。性能、機能、デザインともに未来を先取りするかのような商品、サービスを発表しつづけ、全世界にファンがいるアップルは、世界でもっとも強いブランド力を持っている企業の一つである。

そのアップルが今参入しようとしているのが、ホテル事業だ。

意外に思えるかもしれないが、「人の五感を日常的に包み込むことで、徹底して快適で豊かな生活空間をつくりだす」という同社のビジョンからすると、快適さが一つの価値となるホテルへの参入は不自然ではなく、それどころかむしろ極めて自然なことである。

アップルはテキサス州に建設中の新社屋内にホテルの開業を計画しているという。世界中にファンを持ち、ビジョンが明確なアップルのような企業には膨大な数の訪問者がやってくる。彼らのために、社屋とつながっているホテルを作ろうというわけだ。

このホテルはApple Vision ProやApple Watch、AirPodsなどのウェアラブルデバイスが標準装備。ファンと五感でつながり、徹底した心地よさを提供するものとなっている。アップルの持つブランド力やビジョンといった知財を組み合わせて価値を生み出そうとしている好例である。

本書ではアップルの事例以外にも、自社の持つ知財を利用して新たな事業を作り価値を生み出した世界的に活躍する企業の事例を多数紹介するとともに、自社の中に眠る知財の見つけ方、それらをどう価値に結びつけるかといった点についても考察されている。

知財ミックスは決してアップルのような世界的なブランド力を持っている企業にしかできないわけではない。そのチャンスと素材は多くの会社に眠っている。本書を読めばそのことがわかるはずだ。

(新刊JP編集部)

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