川口浩探検隊とは何だったのか? 制作関係者の証言からテレビの本質に迫ったルポタージュ

川口浩探検隊とは何だったのか? 制作関係者の証言からテレビの本質に迫ったルポタージュ

 「その謎を解明すべく、我々はアマゾンの奥地へ向かった――」とは、今もネットでよく見る表現。昭和の時代に育った皆さんなら、元ネタが『水曜スペシャル』の「川口浩探検シリーズ」であることを秒で答えられるのではないでしょうか。

 『水曜スペシャル』は1976年から1986年まで続いた90分枠のテレビ番組。その中の名物企画が、俳優の川口 浩氏が隊長となって世界中の秘境を探検するというシリーズでした。巨大怪鳥ギャロン、幻の魔獣バラナーゴ、石器裸族タオパントゥといったインパクト満点のネーミング、画面いっぱいに映し出される赤文字のテロップ、川口隊長らの勇姿に臨場感を煽る効果音やナレーション……子どものみならず大人までもがお茶の間のテレビに釘付けになったことでしょう。

 書籍『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』の著者であるプチ鹿島氏も、この番組に夢中になった少年のひとりでした。しかしだんだんと、それがプロレスのように多くの大人からはあまり本気で相手にされていないことに気づいていきます。そして大人になった今、彼が思うのは「当時の隊員たちは、どのような信念で制作し、視聴者である我々はこの番組をどのように解釈してきたのか」ということ。同書は、ヤラセとは何か、演出とは何かといった問題にまで踏み込み、真面目に「川口浩探検隊」について探索したノンフィクションです。

 同書が出色なのは、実際に川口浩探検シリーズを制作していた当事者たちに話を聞いているところ。今でも話のネタやパロディ化されるほど有名な番組でありながら、一視聴者としては初めて知るようなエピソードが数多く出てきます。

「ストーリーをまず作ります。オチを決めてからルートを考える。途中途中でどういう脅かしとかを入れるんだっていう。世界地図を見ながらね」
「ベネズエラにオオヨタカという夜行性の鳥がいるっていう情報を仕入れてくる。じゃあこれを探しに行こうと。ギャロンって名前は日本で付けた名前。怪獣っぽいでしょ? ベネズエラは石油の国だから石油ってガロンだろ、じゃあギャロンにしようみたいな」(同書より)

 ほかにも、原始猿人バーゴンがワニと戦ったり滝壺に飛び込んだりといった名シーンにはギャラが発生していた、ヘビは小道具として欠かせないため現地で見つけたら速攻で捕まえていた、などなど今だからこそ言えるような話が満載です。

 とはいえ、これらは明らかな「ヤラセ」と言ってしまってよいのでしょうか。同書を読むと、作り手たちの意識に「これはドキュメンタリーではなくエンタメだ」という強い情熱や美学があったことがうかがえます。特に、最終章に出てくる「川口浩探検シリーズ」で放送作家を務めた鵜沢茂郎氏の独白は圧巻。ヤラセとは何か、演出とは何か、真実とは何か、考えさせられるものがあります。皆さんにとっての川口浩探検隊とは、そしてテレビとは――? 同書を通じて、皆さんも”テレビに映っているもの”について考える探検の旅に出てみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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