Kamal. 来日インタビュー/Interview with Kamal. In Japan
これまでのストリーミング累計再生回数が2億2500万を超えているUK出身のシンガーソングライター、Kamal.(カマル)が、横浜で開催されたGREENROOM FESTIVAL ’23のために初来日を果たした。2002年にロンドンでカリブ系イギリス人の両親の間に誕生し、多彩な音楽を聴きながら育った少年は、2020年のロックダウンの直前に初のシングル「homebody」をリリース。“家にいるのが好きな人”という意味のタイトルを持つこの曲は、当時多くの人が置かれた状況とシンクロしてバイラルヒットを記録し、世界各国のチャートを賑わせた。ここでは、来日したKamal.にインタビューを行い、これまでの道のりや曲作りへの想い、そして、3月にリリースされた最新ミックステープ『so here you are, drowning』について話を聞いた。
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――初めての日本はいかがですか?
Kamal.「最高だよ。音楽のおかげで日本にいるなんて、とても非現実的な気分だ。音楽が自分をこんなに遠くまで連れてきてくれたなんてクレイジーなことだけど、新しいカルチャーを吸収できるのは、いつだって素晴らしい経験なんだ」
――まずはバックグラウンドについてお聞かせください。出身はどちらですか?
Kamal.「ロンドンだよ。ノースウェスト・ロンドンのハールズデンで生まれ育った。僕は生まれてからずっと同じ家に住んでいるんだ。自分のアイデンティティは、その大部分が地元の多彩なカルチャーによって占められている気がする。それは僕という人間にポジティブな形で影響を与えてくれた」
――最初に音楽に触れた経験は?
Kamal.「6歳の頃にピアノを習い始めた。クラシックピアノから始めて、コードの組み立て方の基礎を学ぶことができた。C、F、Gといった基本的なコード進行を理解して、それらのコードを繰り返せば、あらゆるポップソングを歌えるんだと気づいた。同じコードでいろんな曲を作ることができるんだな、と。だから、僕はかなり幼い頃から曲を書いていたんだ」
――そんなに早い時期に気づいたなんてすごいですね。
Kamal.「そうだね。それに、僕はかなり幼い頃から音楽活動をしたいと思っていた。大学に進学して、その傍らで音楽活動しようと思っていたんだ。最終的に大学には行かず、フルタイムで音楽活動しているんだけどね」
――音楽を始めたきっかけはクラシックピアノとのことですが、他にはどんな音楽を聴いて育ちましたか?
Kamal.「いろんなジャンルを聴いて育った。両親によく言われるんだけど、母が僕を妊娠していたときはベートーベンをかけていたらしい。お腹の中にいる赤ちゃんにクラシック音楽を聴かせると賢くなる、という記事を読んだみたいで(笑)。それに、うちではよくヒップホップもかかっていた。父はヒップホップが大好きなんだ。帰宅すると50セントの曲が聴こえてきて、僕が部屋に入った途端に『汚い言葉が多すぎるから』と、父が曲を止めていたのを覚えている(笑)。あとはエリカ・バドゥとか、いろんなアーティストの曲が流れていた。多すぎて一瞬では思い出せないくらい、たくさんのアーティストの曲を聴いていたような気がする。父からの影響は大きいと思う。その頃の僕に音楽を聴かせてくれたのは、間違いなく父なんだ。僕は父の趣味をかなり受け継いでいるはずだよ」
――作曲の方法は幼い頃に覚えたとのことですが、実際にはいつ頃から曲作りをしていたのですか?
Kamal.「小学生の頃にウクレレを習っていたんだ。ウクレレ好きな人をディスるつもりはないけど、あれはギターの赤ちゃんのようなものだよね(笑)。もちろん、れっきとした楽器だけど、当時の僕はウクレレをシンプルなギターとして捉えていた。弦は4本だけだし、コードの形もかなり押さえやすいからね。それが僕にとっては大きな一歩となった。ただ曲を書くためのツールとして使っていただけでなく、あの年頃から比較的真剣に取り組んでいたんだと思う。確か6年生だったから、12歳くらいかな」
――実際に初めてリリースした曲は?
Kaamal.「2019年に『demand』と『smilingdownthephone』という曲をリリースした。16歳の頃にマネージャーがSoundCloudで僕を見つけてくれて、それからちゃんとレコーディングするようになったんだ。当時はまだ学生だったから、週末にセッションしていた。それ以来、僕はレコーディングのプロセスに夢中になって没頭している。これまでの人生で最高の出来事の一つだよ」
――BRITスクール出身だそうですね。たくさんの卒業生がアーティストとして活躍されていますが、学校生活はいかがでしたか?
Kamal.「リソースやネットワーク作りに最高の環境だった。ネットワーク作りと言っても、当時はまだ子どもだったから、ただ友だちを作っていただけだけどね。でも、卒業してから、素晴らしい写真やショートフィルムを撮影してくれる友だちがいたり、曲をプロデュースしてくれる友だちがいたり、いろんな楽器でセッションを手伝ってくれる友だちがいたりすることに気づかされた。ロンドンのクリエイティブシーンと繋がりが感じられるのが、とても良いところだと思う」
――「homebody」がバイラルヒットしたときも、まだ学生だったんですか?
Kamal.「まだ学生だった。学校はコロナの影響で1年早く、17歳で卒業したんだ」
――ロックダウン中に多くの人たちの心を動かした「homebody」ですが、実は曲を書いたのはコロナ前だったそうですね。
Kamal.「あの曲は、文字通り家に引きこもるというよりも、自分の頭の中に閉じこもっている状態のメタファーとして書いたんだ。自分が内向的に感じて、家に引きこもっていたいと思う状態について書いた部分も少しはあるけど、それよりも、自分自身の思考の中に閉じこもって、孤独を感じることについて書いた。人と一緒にいても、本当に居心地の良い場所は自分の心の中だけと感じてしまうことを表現したというか。そして、その状態と自分が認識している現実の間に、ある種のレイヤーが存在する時もあるということも。あの時期にリリースされたのは偶然で、僕らは本当に“homebody”(=家にいるのが好きな人)となることを強いられてしまった。それはコロナに関して、僕が感謝している数少ないことの一つなんだ。あのような恐ろしい出来事から、少しでも希望の光を得ることができてうれしかった」
――バイラルヒットしたときは、どう思いましたか?
Kamal.「最高の気分だった。でも、自分が(パンデミックを)予測してしまったのではないかと責任も感じてしまった(笑)。とはいえ、あの曲があの時期を乗り越える上で人々の役に立ったことや、みんなが曲と繋がりを感じてくれたという事実には、非常に感謝しているんだ」
――2021年リリースのEP『war outside』に収録された曲は、ロックダウンの最中に書いたものが多いのですか?
Kamal.「間違いなくその流れだった。収録曲の多くはかなり憂鬱でメランコリックな印象だけど、それはロックダウンによる僕の精神状態を反映しているからだと思う。当時の僕はとても不安を感じていて、それ以前よりも、ずっと不安だったんだ」
――あの頃は誰もがそうでしたよね。
Kamal.「そうだよね。あのEPにも多くの人が共感してくれたんじゃないかな。僕はあのような精神状態と、親密で余計なものを取り除いたアコースティックなヴァイブスを反映したかったんだと思う。収録曲の多くはZoomを使ったセッションを通して作ったんだ」
――これまでに社会不安をテーマにした曲をいくつか書かれていますが、実体験に基づいているのですか?
Kamal.「間違いなく自分自身の経験に基づいているし、同じような経験をしている友人が多いという現実もある。とても悲しいことだけど、僕はそれを音楽やメディアを通して語ることに大きな意味を感じている。“不安のスポークスパーソン”というレッテルを貼られることも多いけど、決して意図的なものではない。僕は曲の中で正直に表現したいと思っていて、これもその一部なんだ。それに、社会不安は音楽を通してシェアできる、最もセラピー的なものだと思う。だから、声を上げているというよりも、かなり自分勝手なものが多くて、むしろ自分自身の問題を解決しようとしているだけなんだよ」
――でも、それによって美しい曲が生まれるんですよね。
Kamal.「確かに、それはボーナスだね(笑)」
――ロックダウンが終わって、新しいミックステープ『so here you are, drowning』の制作はいかがでしたか?
Kamal.「最高だった。より社交的になれたし、音楽業界で新たなコネクションを作ることができて、本当に楽しかった。J Moon、フレッド・ボール、ジョニー・コファー、Congeeなど、とても尊敬しているソングライターやプロデューサーとコラボレーションして、一緒に素晴らしい時間を過ごすことができた。彼らと音楽的にぶつかり合うことができて、本当に楽しかったんだ。自分のアイデアをシェアして、褒めてくれたり、批判してくれたりする人たちがいるということは、アーティストとして成長する上で非常に重要なことだと思う。ロックダウンを終えて、そういった経験ができたことに感謝している。それによって、サウンドも多様化したと思うんだ。いろんな人とコラボレーションすることでさまざまな影響を受けて、以前よりもプロダクション主導の曲ができたから。最新のミックステープでは、それがよくわかってもらえると思う」
――今回のミックステープは、ある本からインスピレーションを得たそうですね。
Kamal.「ケイリブ・アズマー・ネルソンの『Open Water』という本だよ。実はミックステープの最後の曲『drown』で、本からの一節を朗読する著者の声をサンプリングしたんだ。彼があの本に書いた経験と、ミックステープの中で語られる僕の経験には、類似点がたくさんあった。テーマは愛や人間関係で、具体的には若い人やマイノリティ、そして彼の本では、とりわけ黒人の愛が描かれている。僕は彼の本に書かれた多くのテーマに繋がりを感じ、まるで自分に語りかけているかのように、とても私的に感じた。だから、本の一節を自分の声として使っても、支離滅裂に感じないんだ。まだ読んでない人はぜひチェックしてみて。本当に素晴らしい本だから。僕はあの本をきっかけに再び読書するようになって、以前よりもたくさん読んでいるんだ」
――自分の本がインスピレーションとなって音楽が生まれるなんて、著者も喜んだのではないですか?
Kamal.「彼に連絡してミックステープで朗読してほしいと依頼したら、とても喜んでくれた。あの本の素晴らしいところは、音楽そのものに強い繋がりがあるだけでなく、いろんな楽曲が参照されていること。ソランジュとか、僕が尊敬している多くのアーティストに触れている。僕は彼の音楽の趣味が好きだから、音楽にまつわることが一緒にできて光栄だった」
――現在、弱冠20歳ということで、かなりの速さでいろんなことを経験されているかと思いますが、自分を見失わずにいられる秘訣はありますか?
Kamal.「僕が地に足をつけていられるのは、ずっと同じ人たちと一緒にいるからだと思う。彼らは成功する前から僕のことを知っているので、もし変なことをしようとしたら、『君らしくないよ』とちゃんと言ってくれるんだ。それは大切なことだと思う。あとは、もうすぐ実家を出るとはいえ、今でも家族と過ごす時間があること。引っ越したらどうなるかな(笑)。でも、とにかく考え過ぎず、今でも音楽を人々が関心を寄せる大きなものとしてではなく、自分が表現するためのささやかな手段として捉えることで、落ち着いていられるんだと思う」
――今も「homebody」のミュージックビデオに出てくる部屋に住んでいるのですか?
Kamal.「そうだよ。でも実は面白いことに、あのミュージックビデオの部屋は、僕の部屋にそっくりなリメイクなんだ。彼らは大きなバンで我が家にやって来て、僕の部屋からすべてのものを運び出した。そして、同じサイズの部屋を建て、壁を青く塗り、ワードローブなどすべてを追加して、僕の部屋が完璧に再現された。自分の部屋にいるのに実際は倉庫にいるなんて、とても奇妙だったよ。あれは面白い体験だった(笑)」
――今後の予定は?
Kamal.「まだ詳しくは話せないんだけど、いくつかかなり楽しみなコラボレーションが控えているんだ」
――曲は常に書いているんですか?
Kamal. 「僕にとっては日常的なことで、呼吸をしているようなものだよ(笑)。毎晩曲を書いているし、毎日書く必要を感じる。曲全体を書かなかったとしても、断片やフック、コード進行だけでも書いている。自己表現の手段として、僕になくてはならないものなんだ。時には何か目的があって作ったり、作品を手がけたり、特定のテーマで曲を書いたりすることもあるけど、たとえ何もなくても、僕はとにかく何かしら作っているんだ」
photography Kotetsu Nakazato(https://www.instagram.com/kotetsunakazato/)
text nao machida
Kamal.
『so here you are, drowning』
https://virginmusic.lnk.to/shyad
https://www.virginmusic.jp/kamal/
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
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