「無理に誰かになろうとしない声を表現したい」Mina Okabeインタビュー
日常にそっと寄り添う大切な人、存在の尊さを、アコースティック・ギターのシンプルな音色と、独特のソフトでドリーミーなヴォーカルで表現した楽曲「Every Second」(エヴリー・セカンド)が、世界で75億を超える再生数を獲得したことで注目を集める、デンマーク・コペンハーゲン在住のシンガー・ソングライター、Mina Okabe。日本もルーツに持つ彼女が放つナチュラルで、親深いサウンドは、等身大の自分でいることを優しく肯定してくれる。
━━ミュージシャンとして、ご自身のルーツのひとつである日本に来訪。その感想は?
Mina「今まで数えきれないほど来日をしていますが、ミュージシャンとしてここにいられることが嬉しいです」
━━幼い頃には、日本の音楽も聴いていられたそうですね。
Mina「はい。母親がレミオロメンの“粉雪”や宇多田ヒカルさんの“Automatic”などを聴いていたので、それらを耳にすると幼い頃を思い出しますね。また、父親もいろんなところで暮らしていた影響もあって多様な音楽(ポップス)を聴いているので、そういった嗜好が私に音楽の魅力を教えてくれ、かつ自分のスタイルを形成するきっかけになったんだと思います」
━━ギターを弾き始めたのが、音楽活動のきっかけに?
Mina「もともとはクラシック・ピアノを弾いていました。母親の勧めだったのですが、始めは純粋に楽しかったです。次第に、自分で楽曲を作りたくなる願望が芽生えてきて。ただ、その方法をピアノの先生は教えてくれなかったことで、徐々に興味が冷めてしまったのです。そこから独学でギターを弾き始め、自分の好きな曲や歌いたい曲をカバーしたり歌っていくうちに、いつしか自分に欠かせない楽器になっていきましたね。今でもピアノは大好きな楽器ではありますが」
━━16歳の頃からコペンハーゲンを拠点にされているそうですね。その頃から本格的にソングライティングを?
Mina「子どもの頃から曲を作るのが大好きで、両親の誕生日プレゼントとして自分の曲を披露することもあって。ソングライティングは幼い頃から好きでした。そして16歳になりコペンハーゲンで暮らし始めるようになった頃から、本格的に自己表現をするためにソングライティングの勉強をスタートした感じです」
━━そして2021年に発表された楽曲“Every Second”が、世界中で大きな話題を呼びました。これは、どういうきっかけで完成したものなのですか?
Mina「この楽曲は、別の楽曲をシングルとして制作するためにスタジオに入った時に生まれたもの。当時、本来完成させるはずだった楽曲を作りたいモードになれなくて、ふと思い浮かんだのがこの楽曲のフレーズだった。それをレーベルに送ったら、反応が良くてシングル化する運びになりました。自分でもいい楽曲になると思ったからうれしかったですね。でも、どうしてもいいサビが浮かばなくって、最終的に4つの候補ができたのですが、どれにすればいいのかプロデューサーを含め悩みました。そこで、私は実妹やスタッフの身内にも意見を聞いて、いい反応だったものを採用したのです」
━━完成した時点で多数の共感を得られたのですね。そうしたら、ヒットも予感もありました?
Mina「これほどまでにヒットするなんて想像していなかったです。ただ、自分にしっくりくる楽曲を作りたいという思いで制作していて、それをひとりでもいいと思ってくれる人がいたらうれしいというくらいだったので」
━━ヒットの影響によって“Every Second”に対する思いの変化はありましたか?
Mina「たくさんの共感の声をいただけたのは、純粋にうれしかった。私自身もいちリスナーになった時には、自分のフィルターを通して楽曲を解釈していくけど、みんながそれぞれ異なる解釈や反応をしてくれるんですよ。その感情をソーシャル・メディアのメッセージを通して見ていると、こういうふうに楽曲を捉えることができるのかと自分でも発見することがたくさんありました。たくさんの物語が生まれる楽曲を制作できたことが素敵だなと思いましたね」
━━また、その後作る楽曲にも変化がありましたか?
Mina「ヒットを作ろうとかそういうことで、自分の意識に変化はないと思います。ただ、成長していくプロセスのなかで、いろんな出来事や人々に出会ってたくさんの刺激を受けて、もっとこういう音を作りたい、こういう表現をしたいというアイデアが膨らんでいるのは確か。また、ヒット曲ができたことによって、それに左右されたものを作ったとしても、決して自分にもリスナーのみんなの心にも響くものが生まれるわけではないと思います」
━━2023年3月にリリースされたEP『Spinning Around』は、アコースティック・サウンドだけでなく、ダンサブルな要素など、より広がりのあるサウンドに進化していますね。
Mina「2021年発表のアルバム『Better Days』リリース後に、ツアーを含めさまざまな世界を訪れることができました。とても素晴らしい経験で、そこからたくさんのアイデアを吸収することができたのです。このEPは、そのアイデアをできるだけ忠実に、かつ多角的に表現したかったのです。ちなみに、このタイトルは“Every Second”の発表以降、目まぐるしくいろんなことが起こっている最近の日々を表現したものになります」
━━変化していくサウンドのいっぽうで、ずっと変わり続けず表現している「コア」な部分はありますか?
Mina「作詞は必ず自分ひとりでするように心がけています。実は以前に共作をしたことがあるのですが、先方がより良い楽曲にするためではあるけれど、いろんな意見を加えてきて。その結果、出来上がったものは、自分の楽曲とは思えないものになってしまったのです。それ以降、歌詞に関しては自分ひとりで、正直な思いを投影させたものにしようと決めました」
━━ヴォーカルもイノセントでドリーミーな雰囲気を放っていますね。
Mina「子どもの頃はビヨンセみたいなパワフルに感情を表現できる人がシンガーだと思っていましたし、自分もそうなりたいと思っていた時期もありましたが、それを真似することはできない。だから一時期は自分はシンガーに向いていないと諦めていた部分があります。でも、歌っていくうちに、自分が心地よいと思える声で歌っていいんだと思うようになったのです。メロディにあうヴォーカルを大切に。無理に誰かになろうとしない声を表現したいと思っています」
━━今後はどんな楽曲を作っていきたいですか?日本語曲に挑戦する予定は?
Mina「日本語の楽曲もそうですが、デンマーク語の楽曲にも挑戦してみたいですね。どちらも、自分という人間を形成する大切な要素であるので。ただ、実際に歌ってみると、まだ慣れない部分が多いので難しい部分もあるのですが、新しいことを始める時にはそういう壁は当たり前。なので、いろんなことに挑戦していきたいです」
━━ミュージシャンとしての目標はありますか?
Mina「まず、音楽とはどういう形になったとしても、関わっていきたい。実は1年前までコペンハーゲンのカフェでバイトしながら活動をしていたので、もうそういう生活には戻りたくないですね(笑)。また、進化することを恐れずにいたい。常に新しいものを取り入れ続けて、いろんな世界を知りたいのです。だから、自分自身が将来どうなっているか想像つかないし、どんな進化を遂げているのか楽しみにしています」
━━リスナーにはどんな思いや風景を届ける存在になりたいですか?
Mina「音楽を作り始めた頃は、自分のためだけに制作していたというか。楽曲を作ることで、自分がどういうことを考えて、どうしたいと思っているのか頭の中を整理するような、セラピーのみたいな役割を果たしていました。でも、楽曲をリリースするようになって、たくさんのメッセージをいただけたことで、世界には自分と同じように悩みながら生活している人がたくさんいるんだということを知ったのです。また、自分の音楽には、何かしらの意味を世界に残すことができる力があることにも気づいた。だから、今後も自分に正直でありながらも、誰かの心の隙間に響くような楽曲を届けられるように頑張っていきたいですね」
photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/)
text Takahisa Matsunaga
ミイナ・オカべ
New Album 『ベター・デイズ 』日本盤
2023年8月30日(水)発売
試聴・購入:https://umj.lnk.to/MO_BetterDaysJP
フェス情報
Local Green Festival’23 開催概要
開催日程 :2023年9月9日(土)、9月10日(日) *ミイナ・オカべ出演日:9月9日(土)
開催場所 :横浜赤レンガ地区野外特設会場
WEB : https://localgreen.jp/
デンマーク人の父親と日本人の母親を持ち、デンマーク・コペンハーゲンを拠点に活動するシンガー・ソングライター。2021年8月にデビュー・アルバム『Better Days』(ベター・デイズ)をリリース。収録の「Every Second」は、60万本以上のインスタグラムのリールが作成され、これまでに合計75億回以上の再生を記録し、日本をはじめ、世界中でトレンドになった。
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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