藤岡みなみ|塗りたい。磨きたい。DIYの欲求【思い立ったがDIY吉日】vol.80
文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観には、思わず引き込まれちゃいます。今回は、DIYの欲求について!
藤岡みなみ
文筆家。暮らしの中の異文化をテーマにした新刊『パンダのうんこはいい匂い』(左右社)が発売中。
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塗りたい。磨きたい。DIYの欲求
▲塗りたい欲が高まった、ある日曜日。
なにか塗りたい。定期的にやってくるDIY欲のひとつだ。
他には飾りたい、組み立てたい、描きたいなどがある。何かを完成させることが目的のこともあれば、ただ作りたいとか、作業自体がメインの場合も多い。
まず頭に浮かんだのは「休日に塗料と刷毛を手にする私」だった。それだけでなんかもう、その日の充実が約束された気がする。
気になっていたバラバラの色とサイズの植木鉢。最近よく植物を買うので植え替えの時にプラスチックの鉢植えが余ってしまうのだ。
同じ色に塗ったらきっと兄弟みたいになってかわいいんじゃないか。
ターナーのミルクペイントで大胆に塗ってみることにした。
▲ミルクペイントの見た目が好きすぎる。
やっぱり「塗る」は良い。
脳内の雑念を塗りつぶしていくように、無我の境地で刷毛を動かす。詳しくないけど、瞑想ってこんな感じかなぁ、と思う。
選んだインディアンターコイズは、ちょうど海とか空を感じる色。ミルクが原料なのでのびがよく、胸がすっと晴れていく。
あっという間に3つ塗り終わってしまった。乾くのが思っていたより数倍早くて驚く。
家族に「これ塗りたてだから触らないでね」とアナウンスする必要さえなかった。
青空の植木鉢が生まれた。白や水色の花を植えて飾ったら、窓辺がぐっと爽やかになるだろうな。
▲色を塗ると自分の道具になった気がする。
なにか磨きたい、がやってきた日もあった。これも没頭できる好きな作業。
くすんできた靴か、焦げたやかんか。部屋を見回して、今回は手作りの木製デスクに狙いを定めた。ムクボードにアイアンレッグを取り付けてこしらえた私の作業机。
広くて気持ち良くて気に入っている。作ってもうすぐ1年くらい。
裏写りしてしまったサインペンの汚れ、コーヒーの染みなどがじわじわ目立ってきた。
パソコンや本を片付けて、紙やすりでこする。無心。精神的に研ぎ澄まされる感じがある。そういえば「イライラした時はトイレを磨きます」って言っている人がいたな。
夢中で磨いていたらあっという間に生まれたてのような木肌になった。一点をこすったことによるでこぼこ感もない。
ほんのり木の香りがたちのぼって、このムクボードを買ってきた日の新鮮な気持ちが戻ってきた。
ホームセンターで好きな大きさに切ってもらってホクホクしていたっけ。
紙やすりでこするだけでいつでもリフレッシュできて、心なしかやる気も上がる。
木のデスクを作ってよかったと改めて思った。
▲やすりがけの快感。もっとやすりがけしたい。
最近の家庭菜園、夢と気づき
▲家でイチゴが実るとかなりときめく。
家でイチゴ狩りがしたい。
そんな夢を抱き、イチゴの苗を買って育てていた。イチゴ栽培は初めてなので今年はひかえめに1苗のみ。小さなプランターでおそるおそる水やりをしていたが、ついに5月の頭に4粒、真っ赤に熟した。
家の中で食べようと思ったけれど、5歳の子どもに「ここでたべよう」と誘われて庭先で洗って食べることに。
確かに外で食べた方がさらにイチゴ狩りっぽい。
甘すぎず、酸っぱすぎず、見事に理想のイチゴだった。
4粒しかないし、なんなら私がありつけたのは1粒だけだったけれど、喜びの度合いで言うと休日に出向いて行くような本家のイチゴ狩りに全然負けていなかった。
イチゴ狩りの本質は、量ではなかったのだ。
多分、ピークはつるから摘み取るところ。
こんなかわいらしい葉っぱの陰にいたんだね、これ以上ないくらい赤くなっているね、と確認してぷちんとひっぱる瞬間。
イチゴが育ってくれたという喜びを一身に受け止めたあと、口の中でうれしさが甘酸っぱくはじける。これこそがイチゴ狩りのたのしみ。
DIY心とはざっくりひとことで言うと「やってみたい!」だと思うけれど、その中を分け入っていくと実はさらにカラフルな欲求がある。
心がむずむず動きだしたら、今日もDIY吉日。
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