魔法の駄菓子屋「チロル堂」、大人の飲食代が子どものカレーやおやつに変身! 子どもを貧困・孤独から地域で守る 奈良県生駒市

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グッドデザイン賞大賞を受賞! 地域で子ども達の成長を支える活動[まほうのだがしやチロル堂]

「まほうのだがしやチロル堂」は、貧困や孤独といった環境にある子どもたちを、地域みんなで支える魔法の駄菓子屋さん。子ども食堂など食べ物を通じた取り組みが話題になるなかで駄菓子を通じた新しい取り組みです。この仕組みを支えているのは地域の大人の寄付。2022年にグッドデザイン大賞を受賞しており、理由は、大人が飲食を楽しむことで、代金の一部が寄付され、子どもたちはチロル堂のカプセルトイに投じた100円で、100円以上の価値のある駄菓子や食事をすることができる仕組みが評価されたことから。発起人のひとり、石田慶子さんにチロル堂の魔法の仕掛けを伺いました。

子どもたちに金銭での支援以上に価値のある食べ物を支援できる仕組み

奈良県生駒市の大通りから一本入った路地に「まほうのだがしやチロル堂」(以下、チロル堂)はあります。学校帰りの子どもたちが暖簾(のれん)をくぐると、そこは懐かしい駄菓子屋さん。入口にあるカプセルトイには、魔法がかけられています。100円を入れて出てきたカプセルには、チロル堂だけで使える店内通貨「チロル札」が入っています。子どもたちは、このチロル札でお菓子を買ったり、カレーを食べたりすることができます。カプセルに入っているチロル札は1枚100円以上のものと交換でき、しかも枚数は1枚から3枚と運しだい。ドキドキ感は昔からある駄菓子屋の醍醐味と同じです。

暖簾が目印。やってきた子どもは最初に入口のガチャガチャを回す(画像提供/一般社団法人無限)

暖簾が目印。やって来た子どもは最初に入口のガチャガチャを回す(画像提供/一般社団法人無限)

表情は真剣そのもの。「チロル札何枚出てくるかな」(画像提供/一般社団法人無限)

表情は真剣そのもの。「チロル札何枚出てくるかな」(画像提供/一般社団法人無限)

カプセルには、1~3チロル札が入っている(画像提供/一般社団法人無限)

カプセルには、1~3枚チロル札が入っている(画像提供/一般社団法人無限)

近隣の幼稚園児や小学生でにぎわう(画像提供/一般社団法人無限)

近隣の幼稚園児や小学生でにぎわう(画像提供/一般社団法人無限)

魔法を可能にしているのは、地域の大人たちの寄付。このチロル堂には、大人も利用可能なチロル食堂やチロル酒場が併設されており、大人が飲食を楽しむことで、代金の一部が寄付され、子どもたちはチロル堂のカプセルトイに投じた100円で、100円以上の価値のある駄菓子や食事を食べることができるのです。例えば「チロルこどもカレー」は一般価格500円、これを子どもは1チロルで食べることができます。大人には日常のなかで気軽に寄付を行う機会、子どもたちにはそれを受け取る機会を、ともに1つの場所で生みだしているのです。

「チロルこどもカレー」を食べに来た仲良し二人組(画像提供/一般社団法人無限)

「チロルこどもカレー」を食べに来た仲良し二人組(画像提供/一般社団法人無限)

チロル堂をつくったのは、生駒市で放課後デイサービスを行う石田慶子さん、子どものためのアートスクールを開いている吉田田タカシ(ヨシダダ・タカシ)さん、デザイナーの坂本大祐さん、地域子ども食堂「たわわ食堂」を運営する溝口雅代さんの4人。発起人の石田さんに解決したかった地域の課題と、チロル堂が地域の子どもや大人たちに与えた影響を伺いました。

2021年8月にオープンしたチロル堂には、平日には30~40人、休日には200人の子どもたちが訪れます。多いときは、大人も含めると、ひと月で2500人が暖簾をくぐります。

カウンターでお絵描きや宿題をしたり、カレーや駄菓子を食べたり(画像提供/一般社団法人無限)

カウンターでお絵描きや宿題をしたり、カレーや駄菓子を食べたり(画像提供/一般社団法人無限)

「当初は、お母さんと来たり、コソっとひとりで来て帰る子どもが多かったんですが、運動会の休憩時間中に、『チロル堂って知ってるか?』って子どもたちのうわさ話が学校中に広がって、運動会の振替休日に驚くほど多くの子どもたちがやってきたんです。そのうち、『上がっていいらしいよ』となり、子どもたちだけで待ち合わせしてカレーを食べに来たりするようになって。私たちも、チロル堂のスタートは、子どもたちの居場所になることだと思っていたので、よかった!と思いました」(石田さん)

子どもたちからどんな悩みが寄せられていますか? という質問に、石田さんは首を横にふります。

「子どもたちが、今困っているか困っていないかは、重要じゃないと思うんです。提供しているのは駄菓子や食事ですが、今貧困の子どもだけを対象にしているわけでもありません。今来ている子がいつ困るかわからないですよね。ずっと困らない子、問題を抱えない子はいないのではないでしょうか。困ったときにヘルプが出せるように、ここが開き続けることが大事だと思っています」(石田さん)

「放課後チロルに集合ね」と待ち合わせ場所に(画像提供/一般社団法人無限)

「放課後チロルに集合ね」と待ち合わせ場所に(画像提供/一般社団法人無限)

子どもの問題は、大人や社会の問題につながっている

日本では、子どもの約7人に1人が貧困状態にある(厚生労働省国民生活基礎調査)といわれています。無料や安価で栄養のある食事や団らんを提供する「子ども食堂」が全国的に広がってはいますが、石田さんは複雑な思いや疑問を感じていました。

「子ども食堂があることはもちろん良いことですが、必要なこと自体がそもそも問題だと感じていました。子ども食堂ができることで、『困ったときはあそこに行けばいいよ』という大人が増えるとしたら、どうなんだろうと。隣の困っている子どもを地域の大人が助けるという責任を放棄しているように思うのです。おなかを空かしている子どもがいたら、大人がごはんをおごってあげるのは自然なこと、地域の子どもたちを大人が支えるのは当たり前のことではないでしょうか。困っている人は、行政や福祉が助けるべきだと大人が考え、自分たちの問題と切り離してしまうことで、子どもたちが誰にヘルプしたらいいかわからない社会をつくってしまっているんです」(石田さん)

石田さん(右)と子どもに誘われてやって来たお母さん(画像提供/一般社団法人無限)

石田さん(右)と子どもに誘われてやって来たお母さん(画像提供/一般社団法人無限)

石田さんが子どもの課題を社会の課題と考えるようになったのは、10年前から行ってきた障がいのある子どもの療育支援でした。子どもの抱える問題によって窓口が異なるなど、福祉支援があまりに縦割りで、横のつながりが薄いと痛感したと言います。

「子どもが困っていることの多くは、本人の障がいなどでなく、大人の問題や社会の問題だと気づいたんです。貧困や虐待、無理解や差別。問題は複雑に絡み合っているし、支援の縦割りで切り離されてしまうと解決できない多くの問題に直面し、福祉支援だけでは限界を感じていました」(石田さん)

アートや街づくりなど異なる経験をもつ4人が力を合わせる

そんなとき、石田さんが出会ったのが、子ども食堂「たわわ食堂」の溝口さんでした。子ども食堂は、多くは子どもだけが利用する場所になっていますが、たわわ食堂が、子どもや大人、おじいさん、おばあさんが集い、支援する側、される側を超えた多様な人が集まる場所を実現していることに感銘を受けたのです。「課題を解決するのは、こういう場所なのかもしれない」と考えた石田さん。溝口さんと多様な世代、カテゴリーの人が集まる場所をつくろうと2019年ころから動き始めました。

次に石田さんが声をかけたのが、吉田田さんと坂本さんでした。

「福祉の人間が地域活動を行っても、福祉の場にしか刺さらなくて、自分たちの表現する力が足りないことはわかっていました。多くの人に届けるためには、もっと伝わる表現力、デザイン力が必要と考えました。吉田田さんは、子どものアートを通じた教育、坂本さんは、街づくりに携わっていて、“人間”に興味あるふたり。デザインをしていて人も見えている人は、ふたりの他にいないと思いました」(石田さん)

建物のデザインも手掛けた吉田田さん。暖簾は、坂本さんのデザイン会社が担当(画像提供/一般社団法人無限)

建物のデザインも手掛けた吉田田さん。暖簾は、坂本さんのデザイン会社が担当(画像提供/一般社団法人無限)

吉田田さんも坂本さんも石田さんの思いに即座に賛同。プロジェクトが大きく動き出したのは、吉田田さん発案の「寄付を『チロ』と呼ぶ」「この場所だけの通貨『チロル』を使って子どもたちが通貨以上の飲食ができる」という仕組みが生まれたとき。坂本さんによってロゴやチラシのデザインが決定。溝口さんは、週に1回、チロル堂で、運営費のサポートを受けながら子ども食堂を開くことになりました。チロル食堂のカレーやお弁当は、石田さんが運営する障がいのある人の就労支援のお仕事としてつくっています。

楽しみながら寄付ができる大人の居場所「チロル酒場」

「子どもたちが抱えている問題は多様ですが、いちばん課題だと感じているのは、孤立、孤独です。都会・田舎に関係なくどこでも起こっている問題で、今の時代を象徴する、子どもに限らない日本の課題だと思っています。地域の大人が子どもを支える構造をつくるために必要なのは、子どもだけでなく、大人の居場所をつくること。それがチロル酒場です。昼間の駄菓子屋を見て、子どもの場所でしょ?と思っていた大人たちが、酒場がスタートしてから多くの方が訪れてくれるようになりました」(石田さん)

チロル酒場では、おいしい料理やお酒が提供され、子どもたちの親だけでなく、地域の大人でにぎわいます。店主との会話を楽しんだり、日頃の愚痴で盛り上がったり、大人たちは、飲食や場を楽しみながら、自然と寄付ができます。

水・木・金・土の18時30分から営業するチロル酒場。地元のインフルエンサーが店主を務めることも(画像提供/一般社団法人無限)

水・木・金・土の18時30分から営業するチロル酒場。地元のインフルエンサーが店主を務めることも(画像提供/一般社団法人無限)

ドリンク・フードすべての代金に、子どもたちへの「チロ」が含まれている(画像提供/一般社団法人無限)

ドリンク・フードすべての代金に、子どもたちへの「チロ」が含まれている(画像提供/一般社団法人無限)

「地域の大人が子どもを支えていると意識することが大事だと思っています。といっても、難しいことを議論する場所だとはできるだけ言いたくないんです。誰と出会うか、どんな話がはじまるかは自然に任せていきたいです。運営側が方針やルールを設定した瞬間に入る人が限定的になってしまう。それは子どもたちも同じ。ここは100円でカレーが食べられる場所という事実だけでいいんです」(石田さん)

現金で寄付をした人は、壁に名前入りのシールを貼れる(画像提供/一般社団法人無限)

現金で寄付をした人は、壁に名前入りのシールを貼れる(画像提供/一般社団法人無限)

広く寄付を募り、全国からお菓子や野菜、お米などの寄付も寄せられている(画像提供/一般社団法人無限)

広く寄付を募り、全国からお菓子や野菜、お米などの寄付も寄せられている(画像提供/一般社団法人無限)

はじめてチロル堂に関わるには、どうしたらいいですか? と尋ねると、「チロル食堂やチロル酒場においしい食事やお酒を飲みに来ていただけるとうれしいです。昼間はただのお店ですが、夕方になると子どもたちがワーッと集まってきます。その空気を味わいに来ていただくのがいちばんいいかな」とほほ笑む石田さん。

大人用の「ツキノワ・OTONA CURRY」は、コーヒー付き1200円。代金の一部が子どもたちへの寄付になる(画像提供/一般社団法人無限)

大人用の「ツキノワ・OTONA CURRY」は、コーヒー付き1200円。代金の一部が子どもたちへの寄付になる(画像提供/一般社団法人無限)

子どもたちが困っていることの要因は大人たちの問題につながっていると考え、共に解決しようと考えられたチロル堂の仕組み。金沢に2号店が、大阪に3号店がオープン。そのほか4カ所が準備中です。石田さんたちがかけた小さな魔法が、少しずつ全国へ広がっています。

●取材協力
まほうのだがしやチロル堂

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