「みんなにとっての居場所になりたい」 tamanaramenインタビュー
2018年にデビューした姉妹オーディオヴィジュアルアーティスト・tamanaramen。2021年から正式に姉・Hanaと妹・Hikamのふたりで表に出るようになってから、はじめての新作EP『はじまり』を2月15日にリリースした。同月には、Spotifyのグローバルプログラム“EQUAL”のJAPANアンバサダーを務め、ニューヨークのタイムズスクエアの屋外広告にビジュアルが登場。国内でも海外アーティスト来日ライブの出演者として名前を並べるなど国内外から注目を集め始めている。3月9日に渋谷・WWWで開催するリリースパーティ「new home」に向けて、新作EP『はじまり』の完成に至るまでの2年間の紆余曲折を経て、社会と呼応するように光を灯すtamanaramenの姿について聞いた。
― これまでライブで歌う様子を見ていて、言葉を刻むラップ的な歌い方が印象的でした。Hikamさんが歌うことに楽しさを感じた最初のきっかけはなんでしたか?
Hikam「小さい頃から目立ちたがり屋だったので、すでに幼稚園の頃から将来の夢に“歌手”と書いていたんです(笑)。でも、いざ高校2年生で進路を考えるようになったら、特にやりたいことがなくて」
Hana「その時に、たまたま私が予約していたラップのワークショップに代わりで行ってもらう機会があって」
Hikam「そうだね。2017年にKAAT神奈川芸術劇場で、演劇集団・Port Bの高山明さんがワークショップワーグナープロジェクトを9日間に渡って開いてて、ラップの基礎を学ぶクラスに参加したことがきっかけでした。そのワークショップでは、ラップの歴史を学んだり、実際にフリースタイルをやってみたり、夜になると柴田聡子さん、K DUB SHINEさんのライブが観れたり。先生も音楽に限らず、『バイトをやめる学校』の著者・山下陽光さんが出ていてめちゃくちゃ面白かったんです。ワークショップに参加するにも、一度審査員の前で歌を披露して選抜されるのですが、そこで初めて歌った音源を収録してSoundcloudにアップしたことが初めて音源公開をした瞬間でしたね。そのワークショップで受けた影響はかなり大きかったかもしれないです」
― そこから「tamanaramen」として活動していこうと、姉のHanaさんと決意したきっかけは?
Hikam「どちらかというと、Hanaがやる気になったんだよね。曲いっぱい出そうよと背中を押してくれたのがきっかけでした」
Hana「Hikamが作った音源を聴かせてくれるときに楽しそうな様子を見るのが嬉しくて」
― その頃からHanaさんが曲と合わせて映像制作するスタイルだったんですか?
Hana「私もHikamにMV作ろうって声かけてもらったのがきっかけでした。物心ついた頃から不思議と映像には興味があって、ショートフィルムや自主映画はつくってたんですけど、上映というアウトプットにもどかしさを感じていて。そもそも作品って観てくれる人がいて初めて成り立つものだと思うので、MVの公共性には感動した覚えはすごくあります」
― 昨年12月24日のOiL XLイベントではHyper Setという名のもと、DJセットの間に会場の大きなスクリーンに映像作品を上映してましたね。ふたりが一旦DJ台の下に隠れて、それまで踊ってた人たちがゆっくりとクラブで作品を観てる様子が新鮮でした。性別、年齢はもちろんですが、ジャンルの横断もtamanaramenらしさに繋がってると思います。
ふたり「ジャンルは越えていきたいですね」
Hana「実はあの映像、卒業制作でつくったものなんです。これからもクラブで音楽以外の体験もつくれたら面白そうだなってあの瞬間感じました。映画もいつか作ってみたいな」
Hikam「制作費が必要だね(笑)。Hanaは視覚的に優れていると思うので、今後Hanaがつくった映像作品を軸に私が音楽をつけるような形でもジャンルを超えていけるんじゃないかなって考えてます」
― tamanaramenを活動する上で、最初からそうした社会の固定観念をやわらげるようなスタイルを意識していたのでしょうか?
Hikam「初期の頃は、自分のための日記のような個人的な記録として曲作りしてましたね。ポエトリーリーディングの感覚に近いような。そこから2019年頃に年齢的に自然と社会のことも意識し始めて…なんというか大人になったのかな。それ以前は曲作りに対して衝動的な感情が先行してたんですけど、その頃からtamanaramenとして、歌手としての自分を客観視できるようになったのかもしれないです」
Hana「そこからしばらくしてHikamは、制作に打ち込むようになって自分にも他者にもすごくストイックになったよね(笑)」
Hikam「尖ってたね(笑)。朝から近所の公園を何周か走って、帰宅してコーヒー飲んで作曲して、1日1曲作ろうとしてた。むしろ1曲作れなかった日は、すごく駄目な日だって落ち込んで」
Hana「当時のHikamは、公園かフォレストリミットか、家にいるかしかなかった(笑)」
― どうしてそんなストイックに?(笑)
Hikam「全世界的なものだと思いますけど、コロナで海外からの来日イベントもなければ、自分も海外に行けなくなって、向かう目標が急に消えちゃったから混乱したんだと思います。本当は大学入学後にベルリン留学して音楽制作ができたらと考えてたんですけど、大学も実質2回くらいしか行かないうちにオンライン授業になってしまって。夢が突然閉ざされた瞬間にどこに向いたらいいのかわからず、がむしゃらに修行し始めたんだと思います」
ー 今回の新作EP『はじまり』はコロナ禍も含めた2年ぶりのEPリリースとなりましたね。そうしたコロナ禍における社会情勢の影響を受けた内容になってるのでしょうか?
Hana「そうですね。『静かな孤独の中で光るつながり』のようなコンセプトでつくりました。この2年間でステイホームから緩和を経て、徐々にみんな状況に慣れていったけど、誰しもがどこか「孤独」感を持っていますよね。一方で、自分たちの周りのコミュニティが中心を持たずしてフラットにつながる関係性を築いていて、ゆるやかな連帯感が居心地いい一方で、孤独も生んでるのかもと考えたことがきっかけです」
― 中心がないからこそ、強制的な繋がりや上下関係による権威性は発生しないけれど、その代わり闇の部分として人はやっぱり横のつながりがないと孤独感も持ってしまうと。
Hana「そうですね。その孤独に対して、tamanaramenとしては離れてても光のように寄り添いたい気持ちがあります。あとは、Hikamの失恋もあるね(笑)」
Hikam「人の痛みをわかるようになったね。優しくなった、らしいです(笑)」
― そうした2年間の中で制作のモチベーションはどのように保ってましたか?
Hikam「横でHanaがいつもなにかしら作っていたのは、やっぱり大きいかも」
Hana「最初のステイホームの1年間は2人で制作に打ち込めるから楽しかったよね。お風呂場でライブしたり」
Hikam「でも、それもどんどん外からの刺激がなくて壁打ちのように感じて2年目で息切れしちゃって」
Hana「実はその時点で、今回のEPはほとんど出来てていたのですが、リリース間際にHikamの体調不良があったりして、ようやくタイミングが来たという感じ」
Hikam「時がきたね」
― これまでの曲から新作EP『はじまり』まで、一貫して歌詞に「きらめき」「ひかり」などをまぶたで感じる動作が連想させられる言葉が散りばめられているように感じます。意識的なものなのでしょうか?
Hikam「2019年にリリースした『舌下』から、音楽って耳からしか聴こえないけど、匂いも触った感触も音楽で表現できたらいいなと意識し始めるようになりました。五感で感じられるというか」
Hana「まぶたに関しては個人的な感覚として、生きていることを感じる体温のような熱をこもった印象を言葉から連想するんですよね」
― 映像でもそうした光や水などテクスチャがHanaさんの作風にありますよね。
Hana「まだ言語化できていないんですけど……『視覚的な触覚』のようなことは意識して映像制作してます。身体的なプリミティブな要素も好きだから、自然と液体のようなモチーフを使ってるという理由もあるけど。客観的なコメントとしては『まだ胎児だった時の感覚』を表現したいんじゃないかと言われることもありますね」
― 先ほどのHikamさんが音で五感を感じさせるような意識と似てますね。一方で、VJの中では電車やグラフィティなど都市のモチーフが赤色に塗られたシーンも出てきて対照的に見えます。
Hana「『都市と孤独』について考えていた時に、渋谷でたくさん素材を撮り貯めたものですね。東京でも特に渋谷にいると、誰も知らないし、自分もそこにいると誰でもなくなれることを孤独だと思う反面、安心感も覚えることがあって。血の気の通っていないそうした街に対して、東京タワーや国旗など日本の象徴的な色でありながら、生きていることを感じる色として赤色を使ってます」
― 『はじまり』のコンセプトにもあった「孤独」に対してtamanaramenとしては意識し続けてるのでしょうか?
Hikam「Hanaのテーマとして『孤独』『つながり』『寂しさ』はあるよね」
Hana「切ない、悲しいって気持ちが好きなんですよね。人間らしさを感じるというか。Hikamはそうじゃないよね」
Hikam「なるべく前を見て生きていきたいね(笑)。Hanaは義理堅くて愛情深くて……」
ふたり「江戸っ子?(笑)」
― アーティストとしては、そうした社会に広がる「孤独」に対してどのような存在でありたいですか?
Hikam「『強い光を見た後に目を閉じて、まぶたに残る残像』のような存在になりたいです。先ほどの歌詞の話にも近いかもしれませんが…」
Hana「私も同じようなことメモに書いてた。『太陽みたいに、光みたいになりたい。やさしく』って」
― 先ほどから、ふたり各々の考え方で共通しているところもあれば、真逆なところもありますよね。「tamanaramen」という存在は、また自分と距離のある別のものですか?
Hikam「よくテントのようなイメージで『みんなにとっての居場所』としての存在になりたいと話してますね」
Hana「自分と距離のあるものですね。正式に2人で表に出て活動するようになってから、よりtamanaramenは2人で作り出す桃源郷のようなイメージがあります」
― そのスペースは柔軟に形を変えるもの?それとも神聖なままであってほしい?
Hana「両方?」
Hikam「わたしは巨大なゲルのような感じでイメージしてるから、どちらかというと柔軟であっていいかも。一部分汚いところもあって混沌としてても守られている場所という感じ」
Hana「ゲルなんだ!綿毛だと思ってた」
Hikam「ちょっと違ったね(笑)」
― 生み出した曲に対しては、守るべき存在なのか、もう少し自立したものとして捉えていますか?
Hikam「 少し前までは、冒頭で話した通り自分に向けたものだったこともあって、子どものように守るべき存在だと思ってましたね。だから、作品に対して嫌なコメントがあると感情的になってたかも。だけど、最近になって、もう少し自分と距離が生まれたから否定的なコメントが来ると、むしろ嬉しいですね。聴いてくれる人すらいなかったから…」
ふたり「『知っていただき、ありがとうございます』という気持ちだよね(笑)」
― 来たる3月9日には渋谷・WWWXでリリースパーティ「new home」が開催されますね。パーティを皮切りに、今年tamanaramenとして目指すところを教えてください。
Hikam「先ほど話した『みんなにとっての居場所』を国内外でパーティ開催することで広げていきたいなと考えてます。でも、実際そう簡単じゃないことも感じてて。例えば、自分たちより年齢層の高い出演者が並ぶパーティだと、自分たちと同年代の10~20代は浮いてしまって、逆も然りで若年層のパーティには30代以上のオーディエンスが来てなかったりして。今回のパーティでは、そうした境をできる限りなくして混沌をつくりだしていきたいです」
― これまで話を聞いている限りでも、2人の関係は姉妹以上になにか強い繋がりを感じます。最後に、お互い尊敬できるところと支え合ってるところを教えてください。
Hikam「Hanaは、他者と一体化して相手の痛みや感情に寄り添って、一緒に泣いたりする優しさがある」
Hana「Hikamの尊敬できるところを箇条書きにしたので、読み上げると… 思い立ったらすぐ行動に映すところ / 一度集中すると物凄い集中力が高いところ / 大胆さ/ 生き様がロックスターみたいに面白いところ(笑)」
Hikam「やばい人みたいだね(笑)。Hanaがいることで仕事のモチベーションが保てる。というか、ミューズかも」
Hana「私もHikamのことミューズなんだよな。1人だと自信がないけど、一緒にいると大丈夫って思える」
ふたり「お互いミューズなんだね(照)」
Photography Kanade Hamamoto(IG)
Text Yoshiko Kurata(IG)
LIVE
tamanaramen「はじまり」Release Party “new home”
2023年3月9日(木) 東京・渋谷WWW
OPEN / START 18:00
前売 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
https://www-shibuya.jp/schedule/016246.php
※お問い合わせ: WWW 03-5458-7685
tamanaramen
「はじまり」
https://jvcmusic.lnk.to/tamanaramen_hajimari
tamanaramen
姉・Hana(ビジュアルアーティスト)と妹・Hikam(シンガー/プロデューサー)の二人によるオーディオビジュアルユニット。当初は姉妹ぞれぞれのソロ活動だったが、2021年よりユニットでの活動を開始。アブストラクトな音像とささやくような歌声、肌の質感や絶えない流れを独特の色彩で映し出すビジュアルの融合により、他にない独自の世界観を作り出す。その音楽と映像はジャンルやシーンを超えてボーダーレスに混ざり合う。
Twitter: https://twitter.com/tamanaramen
Instagram: https://www.instagram.com/tamanaramen/
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