終末世界における奇妙なシスターフッド
キム・チョヨプは1993年生まれの韓国作家。2020年には短篇集『わたしたちが光の速さで進めないなら』が邦訳されている。SFの設定を用い切実なテーマを柔らかな物語へ落としこむ作風によって、大きな評価を得た。同書は本欄でも取りあげている(https://www.webdoku.jp/newshz/maki/2020/12/22/123624.html)。
本書は、自己増殖する塵”ダスト”による環境激変をくぐり抜けて、ようやく復興をはじめた地球の物語だ。ダストの影響によって多くの動植物がダメージを受け、生き残った種も変異を被っている。ダスト生態学者のアヨンは、新種の蔓草モスバナが異常繁殖するゴーストタウンへ赴き、青い光の噂にふれる。モスバナと青い光、それはアヨン自身の幼いころの記憶を呼び起こすものだった。
彼女は粘り強く調査をつづけ、やがて、ふたつの物語にたどりつく。
ひとつめの物語は、人類がダストによって破滅に瀕していた時代を生きたナオミとアマラの姉妹の運命だ。彼女たちはダスト耐性の体質を有していたため、子どものころから研究所に囚われていた。研究所が侵入者に襲われたことで、隙を突いて脱出に成功する。彼女たちが目ざしたのは、ダスト汚染を免れていると言われるコミュニティだった。しかし、そんな場所が実際に存在するかは確証がなく、場所もあやふやだ。
ふたつめの物語は、ダスト時代の少し前にまで遡り、機械整備士ジスと植物学者レイチェルとが奇妙な出逢いをする。やがてダストが振りはじめ、激変する環境を背景としてジスとレイチェルの関係が思わぬ方向へ変化していく。ふたりのあいだに通うものを単純に友情と呼んでよいかはわからないが、抜き差しならない縁であることは確かだ。特殊なシスターフッドとでも言おうか。
ナオミとアマラの物語と、ジスとレイチェルの物語はもつれあい、最終的にはアヨン自身の物語にもつながっていく。そこにダストの秘密、モスバナの謎が絡む構成が巧みだ。
(牧眞司)
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