日本で初めて用いられた地図記号とは?

日本で初めて用いられた地図記号とは?

温泉のマークや「文」マークの学校、「卍」のお寺など、学校で習った地図記号。馴染みのある記号からそうではない記号まで、実はまだまだ知られていないことも多い。

そんな学校では教えてくれない地図記号の奥深い世界を紹介するのが『地図記号のひみつ』(今尾恵介著、中央公論新社刊)だ。

■日本で初めて使われた地図記号は誰もが知っているあのマーク

本書では、中学生の頃から地形図に親しんできた地図研究家の今尾恵介氏が、地形図に用いられた記号のあり方を明治から令和の今日までを概観しながら、その記号が表現しようとした世の中の変貌も辿っていく。

日本で初めて用いられた地図記号は「温泉」の記号だとされている。湯壺から湯気がゆらゆらと立ち上がった様子がシンプルに表現されている、あの記号だ。

江戸初期の万治4年(1661年)、土地争いに関して群馬県安中市の磯部温泉を示す絵図に、湯壺から湯気が立ち上がる要素を簡略化した記号らしきものが描かれていたのが、日本最古の事例といわれている。

日本以外でこの記号が温泉として一般的に使われているのは台湾と韓国。どちらも日本統治下で広まったものと思われるが、温泉文化のあり方は違うので、この記号を見てどんな風景を想像するかは各国で微妙に異なるという。

また、地形図の記号はドイツなどの影響を受けながら長く使われてきたものが多いが、現実社会の姿が変われば従来の記号では十分に表現できないことも出てくる。統廃合によって記号数は減少傾向にあるが、そんな中でも新しい記号も誕生している。

平成18年(2006年)に登場した「老人ホーム」と発電用の「風車」の記号は、小中学生から公募したものだ。国土地理院が記号のデザインを外部から募集するのも初めての試みだった。これらの記号が求められたのも、その対象が急増する現実を反映したものといえる。

老人ホームの記号のデザインでは、小中学生からの総応募数が5万7041点に及んだ。その中から選ばれた記号は、家の中に杖をあしらった、施設の性格が伝わりやすいデザインになった。

最も新しい記号は令和元年(2019年)から表示が始まった「自然災害伝承碑」だ。昨今では毎年のように台風などの大雨による土砂災害や洪水被害が相次いでいることから、過去の災害を今に伝える碑を避難行動に役立てるため、従来の「記念碑」とは別の記号で表すことにしたものだ。

地図記号からは、明治から令和に至る日本社会の変貌が読み取ることもできる。本書を読みながら、自分の住んでいる土地の地図を見てみるのも、新しい発見などがあり、面白いかもしれない。

(T・N/新刊JP編集部)

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