PJ モートン『Watch The Sun』インタビュー/Interview with JP Morton about “Watch The Sun”

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2022年12月にはドーム来日公演を敢行、世界を代表するポップ・バンドとしての圧倒的な存在感を示したマルーン5。そのキーボーディストとして、流麗かつ甘美な旋律を響かせているのが、PJモートンだ。彼はバンド活動だけでなく、ソロとしても精力的に活動し、グラミーにも多数ノミネートされている実力派。2022年にリリースされた最新アルバム『Watch The Sun』においても、まもなく開催される第65回グラミー賞で3部門にノミネートされるなど、高評価を得ている。スティーヴィー・ワンダーをはじめ豪華ミュージシャンが多数参加し、自身のルーツであるゴルペルやソウル、地元ニューオーリンズへの思いが滲んだ、とても丁寧でオーガニックな作品だ。


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━━マルーン5に正式加入して、10年以上が経過しました。


PJ「とても特別な時間を過ごさせてもらっている。当初は、活動に新たな刺激が生まれると思い加入して、1、2年したら終わるものだと思っていたけど、気づいたら10年以上が経過していた。今ではメンバー全員と家族のように濃密な関係を築くことができたよ」


━━また、バンドと並行してソロでも活動。そこに違いや共通点はありますか?


PJ「バンドとソロは全く別の活動。マルーン5ではポップスを追求しているけれど、ソロではR&Bがベース。どちらも自分の音楽クリエーションにおいて欠かせない要素でありながらも、別々な方向性を持っているから、うまく両立できているのだと思う。ひとつのプロジェクトに集中して、それが終わったらもうひとつに頭を切り替える。そういうことを繰り返していくことが、共に新しい刺激を与えてくれるしね。また、バンドではメンバーの一員で音を支える立場だけど、ソロでは自分がすべての責任を持ってディレクションをしなくてはいけない。そこの違いも大きいね」





━━では、2022年にリリースされた最新アルバム『Watch The Sun』は、どういうタイミングで作られたものですか?


PJ「このアルバムに取り掛かる前は、マルーン5のツアーでとにかく忙しかった。でも、パンデミックの影響で突然キャンセルになり、家に帰ることになったんだ。そこで、音作りに没頭し始めたところ、突然パソコンが壊れてしまって。ゼロの状態に戻ってしまった。そこで、私は休憩を取ることにして、もう一度じっくり音楽に向きあおうと思ったんだ。自分が音楽を通じて何を伝え、表現しなくてはいけないのかを。そこで、自分にはたくさん伝えたいことがあることを再確認できた。現代は、心を痛めるようなトピックがたくさんある。そんな状況でも、多くの人に<太陽>のようなポジティヴを与えるものを表現すべきなんだって。また、自分自身にも陽があたるような感覚、エネルギーを授けてくれるものを作りたかったし」


━━収録曲の“Biggest Mistake”は、パソコンが壊れた瞬間の話?


PJ「アハハ(笑)。それはいい質問だ。確かに、あれは大きなミステイクだったね!」


━━(笑)アルバムは、そういう気分を落ち込ませる出来事を乗り越え、自分にとっての「ベターな場所」を見つけるまでの心の旅を表現しているような内容ですね。


PJ「出来上がった楽曲をまとめていくうちに、“The Better Benediction”を到着地にして、旅のような気分にさせるアルバムを作りたくなったんだ。この楽曲は、自分が幼い頃から通っていた教会からインスパイアされて完成させたものなんだけど、そこから帰る瞬間はとても幸福な気持ちにさせる。あの感覚を表現したかった。アルバムは、人生で起こった悩みや人間関係のあれこれを乗り越え、最後には光に満ち溢れたものにしたかったんだ」

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━━サウンドに関しては、ひとつひとつの音を丁寧に鳴らした、とてもオーガニックな雰囲気が漂うものに。


PJ「今回は、〈Studio In The Country〉というスタジオで、バンドメンバーを呼んで、セッションをしながら完成させたもの。ひとりひとりが、楽曲にじっくり向きあい、その楽曲が意図するものを汲み取りながら、制作していった。結果、ヴォーカルがなくても、思いが伝わる、サウンドだけでも聞き手に語りかける力のある楽曲ばかりが揃ったと思う」


━━〈Studio In The Country〉は米ルイジアナ州にあり、スティーヴィー・ワンダーもレコーディングをしたことがある伝説的スタジオですよね。


PJ「これは規制が残るなかでの制作で、マスクなしでもセッションできる広い空間が必要だったから、ここが思い浮かんだ。また、日常から離れピースな気分になれるし。それは、今回の音作りにおいて必要不可欠なものだと思ったから」


━━また、アルバムには多彩なゲストが参加しています。


PJ「サウンドの土台が完成し、そこからどう進化させて完成に導くか考えていくうちに、声をかけた方々だね。本当はスタジオに呼んで、セッションをしたかったんだけど、なかなかそういう訳にはいかず。ネットでやり取りしながら完成させた、でも、しっかりコミュニケートできたと思う」





━━スティーヴィーとNasとの共演曲にもありますが、“Be Like Water”(水のように)滑らかな進行に?


PJ「確かにスムースなものだったけど、実はこの楽曲は難航したんだ。先にNasに話を持ちかけたんだけど、彼は自分のアルバムに取り掛かっていたから、なかなか時間が作れなかった。その間に、私はスティーヴィーの楽曲に参加することになり、その勢いにのって、自分の楽曲にも参加してくれないか打診したところ快諾いただいたんだ。それで出来上がったものをNasに送ったら、即レスが届いて。『ずっとスティーヴィーと共演するのが夢だった』っていう。それからすぐに完成したものなんだ。素晴らしい才能を持つふたりを、自分の楽曲を通じて引き合わせることができて、とても光栄だったよ」


━━またタイトル曲の“Watch The Sun”はレゲエ調の楽曲で、アルバムの中でも異彩を放っています。


PJ「この楽曲でフィーチャリングしているクロニックス(Chronixx)とは、2017年のグラミーで意気投合して、今回ようやく共演が実現した。最初に自分がフックを送って、そこから向こうもアイデアを返してくれるという作業をネットで繰り返しながら完成させた曲。でも、とても自然なヴァイブが生まれていると思うよ」


━━ソウルやR&Bとは異なる音楽性を垣間見せる作品であると同時に、ラストの“The Better Benediction”ではゴスペル・クワイアを取り入れ、自身のルーツである音楽、そして故郷ニューオーリンズへの思いを感じさせる仕上がりに。


PJ「実はレゲエの曲はこれまでも発表しているんだけどね。“The Better Benediction”は自分のルーツを辿った楽曲であることは、間違いない。父親に連れられて行った教会で知った音楽、そしてオーガニックな環境のアメリカ南部ならではの音も表現して、自分のホームを表現したかったんだ」

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━━このアルバム制作を通じて、何か新しい音楽的発見はありましたか?


PJ「今まで私はストーリーテラーのような役割で音楽を発信していこうと思っていた。自分の経験もエッセンスになっているが、他の誰かの物語を代弁しているような感覚。でも、今回は自分の経験や思いが軸になっている。弱さを含めて、本当の自分がここにあるんだ。そのことによって、ゴスペルやレゲエなど好きな音楽の要素をすべて取り入れることができたし、スティーヴィーをはじめジル・スコットやエル・デバージ、ジョジョなど、影響を受けたミュージシャンにも参加してもらって、これまでの音楽人生の道のり、旅を表現することができたと思う。自分にしか作ることができないアルバムになったよ」


━━そんなアルバムは2023年開催の第65回グラミー賞で「最優秀R&Bアルバム」など3部門でノミネートされています。


PJ「グラミーにノミネートされるというのは、ミュージシャンとしてとても光栄なことだ。自分がやるべきことをやって、それを評価いただいたという証なのだから」


━━当日はステージで受賞スピーチされるのを楽しみにしています。


PJ「私もだよ!できたらいいね」


━━今回のグラミーで会いたい人はいますか?


PJ「ありがたいことに、たいていのミュージシャンに会っているけど、著名な方々が一堂に会する機会はここしかないからね。行くたびに新鮮だし、興奮する」





━━2023年の予定は?


PJ「ドキュメンタリー・フィルムを製作しようと思っている。あと、アニメのサントラの話もあったりするんだ。もちろん、次のアルバムの制作にも取り掛かりたいと思っているよ」


━━2018年以降、ソロでの来日公演は実現されていませんが。


PJ「もちろんツアーもしたい。この間までツアーをしていたんだけど、残念ながら日本には行けなかったからね。とても素晴らしいオーディエンスばかりなので、ぜひ実現させたい」


━━最後に日本のリスナーへメッセージを。


PJ「みなさんのことが大好きです。今度ソロで来日した際には、素晴らしい思い出を一緒に作ることができたらと思う。楽しみにしていてください」

photography Yosuke Torii(https://www.instagram.com/hurry/
text Takahisa Matsunaga


PJ Morton
『Watch The Sun』
EMPIRE
https://music.empi.re/watchthesun


PROFILE
1981年米ニューオーリンズ生まれ。05年に初のスタジオ・アルバムを発表後、10年よりマルーン5のツアーメンバーとして活動し、12年に正式加入。13年にはメジャー初アルバムをリリースした。21年発表のアルバム『Gospel According To PJ』で第63回グラミーの最優秀ゴスペル・アルバム賞を獲得している。

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NeoL/ネオエル

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ウェブサイト: http://www.neol.jp/

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