コロナ後に地元を盛り上げたい人が増加。駄菓子屋やマルシェなど”小商い”でまちづくり始めてみました!
コロナ禍でリモートワークやステイホームが浸透し、自分が住む地域に目を向ける機会が増えている。地元のまちづくり活動を目にして、参加してみたいと思う人もいるのではないだろうか。これからは、住む街を選ぶという行為だけでなく、参加して変えていくことが、街との関係を考える上でのキーポイントになるかもしれない。全国の最新事例とともに、書籍『まちづくり仕組み図鑑』(日経アーキテクチュア編、日経BP 2022年9月発刊)の著者、早稲田大学教授の佐藤将之先生にお話を聞いた。
続くコロナ禍。身近な人やモノ、機会に目を向ける
佐藤先生の専門は建築計画・環境心理・こども環境。今年9月に、共著で『まちづくり仕組み図鑑』を上梓した。まちづくりに「無意識的」に参画できるような仕組みのポイントを解説しつつ、全国12の事例を取材・紹介して、新たな方向性を示した本だ。カラー写真や図が多く読みやすいので、まちづくりに興味がある人や、地元での楽しみ方を探している人は、ぜひ読んでみてほしい。
もともとは飲み友達だったという佐藤先生と安富啓さん(石塚計画デザイン事務所)、佐藤先生とはパパ友である馬場義徳さん(星野リゾートの海外事業グループユニットディレクター)の共著(写真提供/佐藤将之さん)
「すてきな偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりすることを“セレンディピティ”といいますが、ビジネスにおいては、その偶然に“新たな価値を見出す能力”としてとらえられています。これは今回のテーマの一つであり、本の中でも、セレンディピティによって偶然の出会いを楽しみながらビジネスをするという、これからのまちづくりを紹介しています。
地元の会社と地域の人が連携して定期的にマルシェを開催する「DIY STORE三鷹」での事例(写真提供/佐藤将之さん)
僕を含む共著の3人は、まちなどをプランニングする上で、プロセスを大事にしてきました。物理的環境に寄与したまちづくりではなく、本の中で“地元ぐらし”と呼んでいる暮らし方のような、『“身近なところに隠れているいろいろなもの”を大切にするまちづくりに、ビジネスの契機や幸運が埋もれているのでは? そして、それを逃している人が多いのではないか?』と考えたことが、この本を制作したきっかけです(佐藤先生、以下同)」
「自分が暮らす地域=地元」という認識があるなか、この本の中での“地元ぐらし”とは、単にその地域に住んでいる状態を指すのではなく、地域で出合う機会や人脈、地域のポテンシャルを活かしながら、楽しんでビジネスしている暮らし方という意味で使われる。
建築計画のほか、幼児や子どもが過ごす環境に関する研究も行う佐藤先生。『まちづくり仕組み図鑑』でも事例として紹介した「市民集団まちぐみ」(青森県八戸市)のTシャツを着こなす(写真提供/佐藤将之さん)
地元で相手の顔を見ながら、小さく始める
具体的には、コロナ禍が続く現在、まちづくりはどう変わっているのだろうか。
「コロナ以降のまちづくりのキーワードとしては、地元に目を向けることと、ビジネスを小さく始めるスモールスタートにチャンスがあるのではないかと思います。
スモールスタートの考え方は以前からありましたが、コロナ禍で人々が交流できなかったことの反動で、今は、人とのつながりの価値が高まり、リアルに会うことの大切さを、多くの人が実感しているのではないでしょうか」
そうなると、リアルに会いやすいのは地元で暮らす人であり、まずは地元で、顔の見える人たちを相手に小さく事業を始める、スモールスタートが向いている……といえそうだ。
「また、今は人を『“分ける”から“混ぜる”』に変化しています。昔は人口が増える社会だったので、人を『いかに分けるか』が課題でした。例えば、小学生がメインのイメージがある児童館において、首都圏では中高生用の児童館も誕生していた……、というように。でも人口が減少した今は、ニーズが低い用途の建物を単体で建てていては成り立たなくなり、『いかに混ぜてあげるか』が大事になっています。最近は、高齢者施設の入口に駄菓子屋が入っている例もあります。孤立しがちな高齢者とそのほかの人たちと混ぜるのはどうか?と考える動きが現れた、その一例です」
役目が広がる、現代の駄菓子屋の事例
さらなるキーワードを探して、具体的に事例を見ていこう。まずは、「ヤギサワベース」(東京都西東京市)という施設。グラフィックデザインのオフィスに駄菓子屋を併設して、デザイン業も拡大したという内容だ。
駄菓子がにぎやかに並ぶ「ヤギサワベース」の店内。壁のアートワークがカッコイイ(写真提供/佐藤将之さん)
向かって左側が駄菓子売り場、右側の什器の仕切りの奥がフリースペース。子どもたちは駄菓子を食べたり宿題をしたりして自由に過ごす(写真提供/佐藤将之さん)
低層ビルの1階に位置し、駄菓子屋が営業を開始する午後には、子どもたちの自転車が集まってくる(写真提供/中村晋也さん)
グラフィックデザイナーである中村晋也さんは、自身のデザイン事務所に併設する形で「ヤギサワベース」という駄菓子屋を始めた。駄菓子屋は参入障壁が低く、ビジネス構造も単純であることがわかったからだという。売り場の奥にはフリースペースがあり、子どもたちは自由に“たまる”ことができ、夜になると商店街の集会場所としても活用される。スペースを地域に開いたことをきっかけに、地元コミュニティーから本業のデザインの依頼も舞い込むようになったという。
「ヤギサワベース」がある柳盛会柳沢北口商店街の祭礼で、中村さんがポスターなどのデザインを担当(写真提供/中村晋也さん)
中村さんは現在、西東京市で販売されているさまざまな商品のパッケージデザインなども担当し、地域でのネットワークを広げている。「ひばりが丘PARCO」や「ASTA」といった、市内の大型商業施設のデザインにも参画しているという。
自身のデザイン事務所に駄菓子屋を併設するスタイルは、地元での「スモールスタート」であり、人を「分けるから混ぜる」ことも含んだ事例だ。
西東京市のアンテナショップ「まちテナ 西東京」の責任者にもなり、店舗のデザインなども任されている中村さん。ここでも「まちづくり仕組み図鑑」が購入できるので要チェック!(写真提供/中村晋也さん)
「ひばりが丘PARCO」では、「西東京市カルタ展」の展示を担当(写真提供/中村晋也さん)
佐藤先生によると、「そもそも、昔と比べて駄菓子屋の意味が変わってきています」とのこと。
「かつては、駄菓子屋といえばお菓子があり、子どもたちが集まっていました。でも近年は、子どもたちとそれ以外の人との交流の場としても活用されています」
「ヤギサワベース」のフリースペースでゲームなどを楽しむ子どもたち。遊び場に大人の目があるのは、親としても安心(写真提供/中村晋也さん)
現代において駄菓子屋は、多世代をつなぐ場としてのキーポイントに。以前SUUMOジャーナルでも紹介した、野田山崎団地にオープンした「駄菓子屋×設計事務所」の「ぐりーんハウス」の事例や、2022年度のグッドデザイン大賞を受賞した、店内通貨によって子ども食堂の役割を果たした奈良県の駄菓子屋「チロル堂」の事例も、駄菓子屋の新しい形といえそうだ。
地域の絆を大切に、スモールスタートで
ほかにも、地元に目を向けたスモールスタートの事例を2つ見てみよう。
「DIY STORE三鷹」(東京都三鷹市)は、東京の郊外でDIYショップを開く会社だ。地域連携の一環として、年2回、駐車場でマルシェを開催していることで、会社の認知度が向上し、住宅の改修工事の受注効果につながるなど、波及効果は大きいという。
マルシェに出店する手仕事の作家たちは、「DIY STORE三鷹」の店内でも、日常的に商品を販売することができる(写真提供/佐藤将之さん)
「DIY STORE三鷹」を運営するTLSグループの本業はビルメンテナンス事業やリフォーム事業。コロナ禍で人々が自宅をリノベーションしたり、これまで目を向けていなかった地元のお店に行ったりする頻度が増えたというライフスタイルの変化に着目。DIYショップやマルシェの活動を通して、地域とのコミュニティーを形成した。
「DIY STORE三鷹」のマルシェは、アパートの駐車場スペースを活用して開催。小さなスペースだからこそ、出店者や来場者に活発なコミュニケーションが生まれているという(写真提供/佐藤将之さん)
マルシェでは農作物を販売する市内の農家や、アクセサリーなどをつくって販売する近隣の造形作家、紙芝居屋さんやキッチンカーなどが集まる。2020年の初回から、1日当たり600人が来場したという。
「先日も、11月の初めの3日間、秋のマルシェが行われました。地元の人同士がつながるだけでなく、手仕事をしている人やDIYに関心がある人など、趣味の合う人がつながることがマルシェの強みです。出店を機に商談に発展することもあるほか、出店者同士のコラボなどが生まれています」
2021年11月に行われた、活況の秋のマルシェの様子(写真提供/佐藤将之さん)
ビーズ編みや刺繍のアクセサリーを手掛ける地元作家の出店ブース(写真提供/佐藤将之さん)
地元作家による手仕事の商品を前に、会話も弾む(写真提供/佐藤将之さん)
TLSグループの白石尚登代表は、マルシェスペース周辺のアパートを買取ってオーナーとなり、工作教室やシェアレンタルスペースとして貸出している。シェアレンタルスペースは日替わりで喫茶店やベーカリー、整骨院などになり、トライアルできるスペースと賃料によって、双方にメリットがあるという。
「DIY STORE三鷹」では、リノベーションしたアパートをシェアレンタルスペースとして喫茶店などに貸し出している(写真提供/佐藤将之さん)
DIYを見学し、シェアレンタルスペースのカフェでくつろぐ学生たち。カフェスペースがあることで、ふらりと訪れた若者も覗きやすい仕組みになっている(写真提供/佐藤将之さん)
「スタジオ伝伝とArt&Hotel木ノ離」(岐阜県郡上市)は、岐阜県の郡上八幡に移住した建築家の藤沢百合さんが、スタジオの設立後、ゲストハウス「Art&Hotel木ノ離」を開業。“地元ぐらし”の場とした例だ。郡上八幡の2拠点に、住民や観光客が気軽に訪れる場をつくることで、出会いや持続的な関係を生み出す。
建築設計事務所「スタジオ伝伝」は、縁側に立ち寄って座れるようにしつらえている(写真提供/佐藤将之さん)
「スタジオ伝伝」のエントランスは引き戸にして開放し、地域に対してオープンに(写真提供/佐藤将之さん)
小さくビジネスを試してみて、周囲の反応を見ながら少しずつ成長させた藤沢さん。東京に設計事務所を残しつつ、郡上で空き家再生などの建築活動が根付いてから、オフィスを立ち上げた。そして定期清掃やお祭りの準備など、地域活動にも積極的に参加していた結果、「木ノ離」となる物件の大家とつながり、トライアルからゲストハウスを始めた。
「無理せず段階を経てビジネスを発展させていく、スモールスタートの例です。やりたいことを周囲に話しておくと、誰かしらが助けてくれたりするもの。藤沢さんが『空き家でゲストハウスをやりたい』と周囲に話したことで幸運を呼び込んだ、セレンディピティの例でもあります」
お酒のCM撮影のロケ地になった「Art&Hotel木ノ離」。敷地外から2方向のアクセス路があり、外履きのままキッチン・ダイニングまで入ることができる。「スタジオ伝伝」との距離は徒歩2分(写真提供/佐藤将之さん)
お酒のCM撮影のロケ地になった「Art&Hotel木ノ離」。敷地外から2方向のアクセス路があり、外履きのままキッチン・ダイニングまで入ることができる。「スタジオ伝伝」との距離は徒歩2分(写真提供/佐藤将之さん)
高齢男性のパワーと“複業” がキーワード
それでは、これからのまちづくりのポイントは?
「一つ目は、高齢者マンパワーに期待することですね。なかでも、退職後の高齢男性は、地元に肩書なしで付き合える仲間や居場所がないことがあり、1日中冷暖房の効いた公共施設で時間を潰している例を聞きました。活動のポテンシャルが活かされていないと感じています。高齢男性が無意識的に参画することができて、知らず知らずのうちに地域活動で躍動するような場や仕組みを提供できるなら、そこにビジネスチャンスがあるのでは」
女性は近所付き合いや自治会、子どものPTA活動などを通して、地域と接点があることが多いが、世代的に仕事人間だった高齢男性は、リタイア後に孤立しがちなようだ。
高齢男性のパワーを活かせるような地域での居場所や雇用方法を考えることが、これからキーワードの一つだ。
「二つ目は、“副業”というより“複業”を考える時代ということです」
通信・情報環境の進化や企業の副業解禁、働き方改革などの追い風で、“複業”は身近になっている。
「今はさまざまな人が、多彩な仕事や役割を担うことができます。『ヤギサワベース』における駄菓子屋のように、複業は自分の中で稼ぎ頭ではなくても、本業へ人々を引き込む力がある場合も」
子どもたちでにぎわう「ヤギサワベース」。大人にとっては懐かしい空間だ(写真提供/中村晋也さん)
「ヤギサワベース」ではワークショップも開催。この日は「好きな駄菓子を描く」がテーマ。イラストを見ると、それ自分も好きだった!と言いたくなる(写真提供/中村晋也さん)
今後の暮らし方でいえば、今住んでいる場所だけでなく、多拠点生活や移住も注目を集めている。移住先で“地元ぐらし”をするために心掛けることは?
「今回、書籍で扱った人たちの中には移住組も多いのですが、まず地元の人と一緒に作業に取り組んだり、顔なじみをつくってから生業を始めたりするなどのポイントがありました。周囲の人を無意識的に巻き込んで、共に楽しむことができれば、移住した先でも、地元ぐらしがうまくいくのではないでしょうか」
「地元ぐらし」「スモールスタート」「分けるから混ぜる」「副業から複業へ」など、現代のまちづくりや暮らし方のキーワードには、どれも納得。
筆者も地元が好き。ただこれまでは、「地元」を強調すると、その地で生まれ育っていない人が疎外感を覚えるのでは……と考えていたけれど、必ずしもそうではなさそう。そのまちを愛し、地域の人の役に立ちたいと考えて動き、楽しんでいたら、それは地元ぐらしであり、そこはもう「地元」になるのだ。
●取材協力
・早稲田大学人間科学学術院教授 佐藤将之先生
・まちづくり仕組み図鑑
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