運転をやめない”高齢さん”の心理とは? 老年行動学の第一人者が分析&解説

運転をやめない”高齢さん”の心理とは? 老年行動学の第一人者が分析&解説

 「高齢者」は「暦年齢で65歳以上」と一応の定義があります。けれど今の時代、「65歳」と聞いて「老人」のイメージを持つ人は少ないかもしれません。

 実際、現在の高齢者の身体状況や活動能力を科学的に検証すると、10~20年前に比べて10歳は若くなっているのだそうです。さらに高齢者人口自体も増えており、日本における100歳以上の高齢者は、1963年に153人だったのに対し、2020年には8万人を超えています。まさに人類は未曽有の高齢社会に突入しており、私たちが高齢者とうまくコミュニケーションをとることは、今後ますます必要となっていくことでしょう。

 しかし実生活では、身近にいる高齢者に対して、「なぜあんなに頑固なの?」「なぜすぐに怒り出すの?」など、理解できずに思い悩む人も多いのではないでしょうか。こうした「高齢さん」の言動の背後にある心理や感情を分析し、わかりやすく教えてくれる一冊が、老年行動学の第一人者である佐藤眞一大阪大学名誉教授が著した『あなたのまわりの「高齢さん」の本 高齢者の心理がわかる112のキーワード』です。

 たとえば、昨今問題化している高齢ドライバーによる交通事故。周囲が止めても頑なに運転をやめない高齢さんもおり、これについて著者は「自己効力感(自分の考えたことが思い通りになる感覚)が関係している」といいます。体力が落ちて外出するのもひと苦労だったり、IT化が進んだことで自動券売機やセルフレジの使い方がわからなくて戸惑ったりする中、高齢さんにとっては「車を運転することは、自己効力感を感じられる数少ない機会」(同書より)なのだそうです。

 そのため、自己効力感を手放すことがいかに抵抗感のあることなのかを踏まえたうえで、家族でよく話し合うのが効果的だといいます。その際には「家族は本人を責めたり、能力の低下を認めさせるような言動をしたりすることは慎むこと」(同書より)。本人が自発的に運転をやめるように話を持っていくことが大切です。運転をやめる代わりに趣味や自治会の活動、ボランティアなど他に自己効力感を持てることにうまく導いてあげるとよいそうです。

 このケースで取り上げられているのが「自己効力感」「自尊感情」「自己評価」「選択的注意」「熟達化」といったキーワード。それぞれの言葉の意味や高齢者の心理などを解説しながら、こちらがどのような声がけや誘導をするとよいかが詳しく書かれています。

 このほか、「年をとってキレやすくなった」「物をため込んでごみ屋敷化してきた」「いくら注意しても”オレオレ詐欺”に騙される」などのケースも紹介。さらに社会との関わり方や介護など、どうすれば高齢さんが豊かで幸せに生きられるかについても掘り下げられています。

 生きている限り、いずれは私たちも高齢者になります。「高齢者はみな、幸せも苦しみもそれぞれに感じながら、限られた未来に向けて生き続けている私たちの隣人」だという著者。高齢さんについて学ぶことは自身の将来のためにもけっして無駄にはならないはずです。

[文・鷺ノ宮やよい]

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