5分でわかるD2C企業のための「レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)」
スタートアップが資金調達する場合、どのような手段を使うでしょうか。VC(ベンチャーキャピタル)による調達?もしくは、銀行からの借入?
今回取り上げるのは、そのいずれでもありません。株式と借入の「良いとこどり」をした新たな資金調達「レベニュー・ベースド・ファイナンス:Revenue-Based Financing(RBF)」が注目されつつあります。
今回は、RBFとは何か、株式や借入との比較、利用シーンなどをRBFプラットフォーム「Yoii Fuel」を運営する株式会社Yoii CEO・宇野雅晴氏に5分でわかりやすく解説していただきます。
RBFは将来の売上を、いま現金化する資金調達手法
RBFとは、スタートアップが使う資金調達手段の1つです。過去の売上データを分析することで、将来の収益を予測。将来発生する売上の一部を現金化する調達方法です。ロイヤリティ・ベースド・ファイナンス(Royalty-Based Financing)とも呼ばれ、株式(エクイティ)や借入(デット)など従来の資金調達に加え、新たな調達手段として注目を集めています。
RBFは、将来の売上が予測しやすいリカーリングビジネスを展開するD2C(Direct to Consumer)企業などでの利用が広がっています。
RBFを活用して調達した場合、利用企業のバランスシートには負債として計上されます。しかし、残高に応じた利息は発生しないため、融資とは異なる形を取っています。
株式や借入による資金調達とは何が異なるのか
RBFは、株式と借入のハイブリッドとも言われています。株式や借入と比較して、どのような特徴があるのでしょうか。1. 希薄化の防止
RBFは株式と異なり、会社所有権(株式)の移転が発生しません。つまり、創業者や役員などが保有する株式が希薄化しないということです。
創業者の持分が希薄化すると、経営に関する重要な意思決定ができなくなるリスクがあります。また、Exit(IPOやM&A)した場合のアップサイドを取れない可能性もあります。
2.スピーディーかつ負担の少ない資金調達
RBFは財務データ(Stripeやfreeeなど)と連携することで、すぐに審査を始められます。VCや銀行から調達するためには、膨大な書類を作成したり、何度もやり取りをしたりする必要がありますが、RBFであれば紙の書類でのやり取りは不要、すべてオンラインで完結します。
着金までのリードタイムは、RBFの提供会社によって異なります。弊社が運営する「Yoii Fuel」では、審査から調達完了まで6営業日以内に実施できます。
ランウェイが重要なスタートアップにとって、着金までの時間は死活問題となります。また、すべてオンラインで完結させることで、起業家の負荷を軽減。プロダクト開発や営業活動に集中できます。
3.個人保証や担保が不要
起業家が融資を申し込む際、銀行から個人保証や担保が求められるケースがあります。融資では過去の売上が重視されるため、特にシード期のスタートアップにとって、借入による調達はハードルが高いでしょう。
RBFは将来の売上を予測しやすい企業が利用するため、個人保証や担保が必要ありません。リスクを抑えながら、スタートアップの成長資金を調達できる有効な手段となっています。
4.資金調達コストが高くない
一般的に、銀行による借入はコスト(金利)が低いです。しかし、前述したように個人保証/担保を求められたり、着金まで時間がかかったりする場合があります。
一方、VCによる調達は調達(資本)コストが高いと言われています。株主が求める期待リターンが高く、それが起業家にとってプレッシャーとなることもあります。
RBFは、借入と株式の中間くらいのコストです。そのため、株式による調達よりコストを抑えつつ、借入よりも素早い資金調達を実現できます。
RBFの注意点
ここまでRBFの特徴について解説しました。しかし、RBFを活用する上で注意点があることも念頭に入れておきましょう。
1.一定の売上が必要となる
売上(MRR)が積み上がっていない場合、期待した資金調達ができない場合があります。また、過去の売上にボラティリティがある場合にも同じことが言えます。
2.調達額が想定より少なくなることも
売上がほとんど立っていない企業だと、エンジェルラウンドより小さな金額しか調達できないかもしれません。しかし、売上の増大とともに、調達できる金額も増加していきます。
RBFには2種類の方法がある
RBFで調達した企業は、毎月支払いを行います。この支払方法には2種類存在します。業績にかかわらず一定金額を毎月支払う「Flat fee(定額型)」と業績に応じて毎月の支払額が変動する「Variable collection(変動受取型)」です。Flat fee(定額型)
将来収益の一定割合を毎月支払うタイプです。RBFの提供会社によって異なりますが、支払い期間は約1年となります。
毎月の支払額が固定されているため、規模が大きくなればなるほど、売上に占める支払割合は小さくなります。そのため、急成長しているスタートアップにとってふさわしい手段と言えます。「Yoii fuel」*も「Flat fee」形式で運営しています。
*RBF プラットフォーム「Yoii Fuel」とは
2022年4月に正式版をリリースし、D2C / SaaS起業を中心にこれまで数十社のスタートアップに活用されています。freeeをはじめとする財務データと連携するだけで、売上実績から将来発生する売上を予測。
将来の売上を買い取る形で、いま必要な資金を提供しています。主に広告宣伝費やブリッジファイナンスを目的とした資金調達に活用されています。手続きはオンライン上で完結し審査開始から6営業日以内の着金も可能です。
Variable collection(変動受取型)
調達企業は、売上に連動した金額を毎月支払います。そのため、業績がよければ返済額も多くなり、その分返済期間が短くなります。逆に、業績が良くなければ、返済期間は長期化します。
カナダに拠点をおくユニコーン企業「Clearco」などは、この形式を採用しています。
どのようなユーザーが、なぜRBFを利用しているのか
ここまでで、RBFの特徴、株式や借入との違いについてご理解いただけたかと思います。それでは、RBFはどのような企業が、どのような目的で利用しているのでしょうか。
D2CやSaaS企業の広告宣伝費、ブリッジファイナンス
まずは、サブスクビジネスを提供しているD2CやSaaS企業。なぜなら、販売方法が定期課金である比率が高く、新規獲得、離脱率などがわかるために将来の収益が予測しやすい特徴を持っています。
このため、顧客獲得単価、LTV(顧客生涯価値)の算出がしやすく彼らとしても投資対効果を測りながら投資を進めることができます。
主な資金用途としては、広告宣伝費があげられます。デジタル広告を主として、顧客獲得単価をコントロールしながらマーケティングへ投資するD2C企業が近年増加しています。
また、次回の資金調達までのブリッジファイナンスとして活用されることもあります。
EC事業者の仕入れや広告宣伝費
EC事業者はRBFを活用することで、需要に応じた仕入れやマーケティング投資が可能となります。サブスクリプションの要素は薄いですが、財務データから将来の売上を予測できるため、気軽に利用できます。
ブラックフライデーなど、ピークシーズンに向けて在庫を確保。広告宣伝費を補強すれば、増加した売上で素早く支払うこともできます。
このようにRBFによる調達は、将来売上の一部を現金化するため、株式や借入による調達よりも小額となる場合が多いです。
RBFは株式や借入と共存していく
繰り返しにはなりますが、RBFは従来の調達方法よりも速く、そして、起業家のオーナーシップを保った調達手段として、今後はますます需要が高まっていくでしょう。
しかし、RBFは従来の調達手段(株式や借入)を代替するものでなく、共存するものだと考えています。それは、資金調達の目的や資金使途が異なるためです。
株式による調達は、たしかに持分が希薄化するというデメリットがあります。しかし、VCのネットワークを活用することで、ビジネスをよりスケールすることが可能です。また、ハンズオンで支援してもらうことで、確実性を高めることができます。
借入による調達は、RBFよりも大きな金額を調達できるでしょう。また、銀行が顧客を紹介してくれることも想定できます。そのような背景から、スタートアップはRBF / 株式 / 借入をハイブリッドで活用していくことが想定されます。
まとめ
- RBFは希薄化を防ぎながら迅速な資金調達ができる
- 急成長しているスタートアップには、「定額型」のRBFが最適
- 起業家はRBFを株式や借入と組み合わせながら資金調達していく
<著者プロフィール>
宇野雅晴
株式会社Yoii 共同創業者CEO– 神戸大学卒業後、博報堂プロダクツにてダイレクトマーケティング。
– 決済スタートアップのOmise(現Opn)にてCountry Managerとして日本市場の立ち上げと拡大を行う。
– ブロックチェーンコンサルティングBUIDLにて事業統括として銀行、証券会社などのデジタル証券発行を推進。米SecuritizeへM&A。
– ブロックチェーン基盤を開発するStake TechnologiesにてCOOとして企業向けにシステム提供、取引所向けコンサルを行いながら、バックオフィスと財務設計を実施。書籍: 「Mastering Ethereum」の監訳と翻訳
ウェブサイト: https://techable.jp/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。