Interview with beabadobee about “Beatopia”




ビーバドゥービーの新しいアルバム『Beatopia』は、彼女が7歳のころに頭のなかで思い描いた空想の世界がコンセプト。成長するティーンエイジャーの胸の内を吐き出したような前作『Fake It Flowers』とは印象を変え、オープンで、フレンドリーで、サウンドもジャンルレスに飛躍を遂げた『Beatopia』には、THE 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエル、ピンクパンサレスなど多彩なミュージシャンがゲストで名を連ねている。しかし、辛いときに現実を紛らわすための逃避先だったというその空想の世界に記憶をさかのぼり、自分の感情と向き合うことから始まった制作の過程は、けっして平坦なものではなかった。4年前にデビューした際には、自分の音楽について「18歳になるまでの10代の不幸の歴史を継ぎ接ぎした曲のコレクション」と語っていたビーバドゥービー。そんな彼女が、『Beatopia』を通じて過去の自分を受け入れ、いまの自分を愛せるようになった背景には、何があってどんなことが起きていたんだろう。サマーソニックのステージを控えた前日、原宿のオフィスで彼女に話を聞いてみた。 (→ in English)



――初めての東京はいかがですか。さっそくSNSではあなたの目撃情報が上がったりしていますが。


Bea「まるで映画のなかにいるような感覚。つねに音やノイズが鳴っていて、至るところで音楽が流れているような街並みは本当にクールだと思う。昨日の夜はドンキに行けて、本当に楽しかった(笑)」



――以前インタヴューした際には、「日本に行けてないことは、パズルで最後のピースがみつからないフィーリングと似ている」と話していましたね。


Bea「日本のカルチャーにはずっと前から興味があって。前作の『Fake It Flowers』も日本のファッション――『FRUiTS』という雑誌にインスパイアされたものでした。それでそのことを撮影を担当していたスタッフに伝えたら、幸運なことにショーイチ(※『FRUiTS』の編集長だった青木正一)に撮影してもらえることになって。『FRUiTS』は私にとって、つねにファッションとアートの大きなインスピレーションであり続けています。そう、だから(今回の来日は)まさに最後のピースを埋めるようなもので……でも、まだパズルが完成したわけではないので、また戻ってきたいと思っています(笑)」



――いま話してくれた撮影の話は『The Face』のことですよね。あれはビーさんのアイデアで?


Bea「いえ、『The Face』側が提案してくれたアイデアでした。それでショーイチが撮影してくれることになって、その写真をカヴァーに使ってくれたんです」





――ちなみに、『FRUiTS』はどうやって読んでいたんですか。


Bea「イギリスでは手に入れることができないので――まあ、ebayで買えたりするんですけど、当時の写真を載せているインスタグラムのアカウントをフォローして、それをチェックしていました」



――『FRUiTS』のスナップは当時、このビルのすぐ近くで撮影されていたんですよね。でも、そうやって日本のファッションをチェックしていたビーさんですが、いまではご自身がファッションやメイクについて世界中のファンからチェックされる立場なわけで。そうした状況をビーさん自身は楽しめていますか。


Bea「変な感じですね。だって、ファッションについて自分にアドバイスを求めたりそれに従ったりするひとがいるなんて、誰かから指摘されるまで考えもしなかったので。私自身は何か厳密なルールに従っているわけではなく、ただ着心地のよいもの、身体にフィットするものを選んでいるだけで。もちろん、私の着こなしが好きなひとがいるのはとても嬉しいことだし、みんなに愛されているんだなって実感できて、感無量です」





――今回の新しいアルバム『Beatopia』はとてもオープンで、フレンドリーで、ジャンルレスで、前のアルバムの『Fake It Flowers』から大きく変化した印象を受けました。その変化って、どういうところから生まれたものなんだろうって。


Bea「いちばんの理由は“成長”で、つまり大人の女性になったということだと思います。それに曲の書き方に関しても、自分のなかにまったく境界線がないように感じていて、今回はずっと自由でした。とくにロックダウン中ということもあって、他人を意識せずに済んだというか、制作の間は自分以外の誰もこのレコードを聴くことがないような気がしていて。だからなんのルールに縛られることもなかったし、それは自分にとって間違いなく成長だったんだと思います」



――たとえば、前作のときの自分と今の自分を比べて、どんなところに成長や変化を感じますか。


Bea「いまの私は、自分自身のすべてを受け入れることができるようになるための道半ばにいます。でも、前作のときと比べて、自分を愛せるようになれたのは確かだと思います。もちろん、自分の昔の曲は好きだし、いまでもライヴで演奏していますが、時々、自分ではない誰かのふりをしているような気がしていました。それは、髪を染めたり、いつもと違う服装をしたりといった単純なことなんですけどね。だから、このアルバムでは少し(本当の)自分自身に近づけたと思います」

――その変化や成長のきっかけ、自分を愛せるようになれた理由はなんだったんですか。


Bea「それは年齢も関係していると思います。とくに、この何年間は学ぶことが多くありました。恋人と別れたり、家を出て家族と離れたり、いろいろな辛いことを経験しました。なので、要因はたくさんあります。それとミュージシャンの場合、ツアーに出ることで(他のひとよりも)成長することを余儀なくされているような気がします」





――前作をリリースした際には、「どの曲もとてもパーソナルなもので、世界に披露するのは怖かった」と話されていましね。


Bea「そうした感情はつねにあります。なぜなら、私が作る曲はどれもパーソナルなものなので。ただ、『Fake It Flowers』は特定の個人について具体的に歌ったものだったので、より怖さがあったんだと思います。たとえば『Fake It Flowers』の曲を演奏すると、後で何通かメッセージが届くんです。『あれ、自分のことを歌った曲だよね?』って。『Fake It Flowers』は過去のことについてたくさん歌ったアルバムでした。ただ、今回の『Beatopia』では、そこから前に進み、長い間押し殺してきた感情、忘れ去られてきた感情、恥ずかしいと思っていた感情をようやく受け入れて、認めて、共に生きることができるようになりました。それがあったからこそ、成長することができた作品なんです。そうした感情に絡め取られるのではなく、ね」

――ブレイクスルーとなった曲を挙げるなら?


Bea「“See You Soon”だったと思います。ただ、『Beatopia』のために最初に書いたのは“Tinkerbell Is Overrated”で、あの曲を聴くとアルバムのことがよくわかると思います。『Beatopia』は、気まぐれで、とても奇妙で、風変わりなアルバムにしたかったんです。“Tinkerbell Is Overrated”は、このアルバムがどのようなものになるかの足がかりとなった曲でした。対して“See You Soon”は、このアルバムのテーマであり、『Beatopia』の全部が凝縮されているような曲だと思います」





――今回のアルバムは、ビーさんが7歳のときに思い描いた、辛い現実から逃避するための空想の世界=“Beatopia”がコンセプトになっています。ただ、今回の制作にあたって、そうした過去とあらためて向き合うことは大変だったのではないですか。


Bea「辛かったですね。ロックダウン中は、自分の感情とひたすら向き合うための時間をたくさんもらって。部屋にずっと閉じこもっていると、自分の感情から逃げられないし、気晴らしもできないので、何かを感じたらそれと向き合うしかなかった。それは大変なことですが、とても必要なことだと思うし、成長するための過程の一部だったと思うんです。自分の人生を前に進めるためには、子供の頃に理解できなかった感情や、押し殺してしまった感情をもう一度見つめ直さなければいけないこともあるんだって」



――前回『Fake It Flowers』のときのインタヴューで印象的だったのは、あのアルバムは15歳のビーさんがそのまま詰まった作品で、当時の自分と似た状況にいる女の子たちがあのアルバムを聴くことでパワーを得て、人目に左右されずにやりたいことをやっていいんだってことに気づいてほしい、と話していたことで。今回の『Beatopia』を聴いてくれたファンには、どんな声をかけたいですか。


Bea「成長すること、自分の過去を受け入れること。そして過去の出来事をいまの自分の行動の言い訳にするのではなく、そこから前に進むことを学ぶこと。恨みを抱かないこと。それが『Beatopia』の大きなメッセージだと思います」








――ビーさんの音楽は、自身の経験から生まれたとてもパーソナルなものですが、ただそこには、作品の向こう側にいるファンやリスナーの存在がつねに意識されている。それは自然とそうなったのか、それとも、自分も過去にそうして音楽に後押しされた経験があるからなのか、どちらなんでしょうか。


Bea「ごく自然とそうなったんだと思います。これだけパーソナルな音楽を書いていると、自分が話していることに共感してくれるひとが必ず出てくるんです。実際の出来事について話しているわけだから、その時点でほとんど必然的にそうなるんだと思います。結局のところ、私は22歳の女の子で、同い年の女の子や他の多くのひととなんら変わらない問題を抱えているわけで。だから共感してもらえるととても嬉しいし、私も『ひとりじゃないんだな』って感じることができるんです」



――ちなみに、15歳のときでも7歳のときでも構いませんが、音楽を聴いて「これは自分の歌だ、自分のことを歌った曲だ」と感じた経験ってありますか。


Bea「7歳や15歳のときはとくになかったのですが、共感できる音楽を見つけるようになったのは、実際に自分で音楽を作り始めたことがきっかけだと思います。18歳のときにいろんなバンドを聴くようになって、自分の人生と繋がりを感じられるような音楽と出会いました。ラリ・プナ(Lali Puna)の曲で、『自分のことを最悪だって思うときは、自分が最悪なんじゃなくて、自分がそれを気にしちゃっているときなんだよ』というような歌詞があって。つまり、問題があるのは自分の見た目なんかじゃなくて、それを気にしている自分、っていう。この歌詞はずっと心に残っています。私も自尊心に問題を抱えていたから。この歌詞を聴いて自分自身に言い聞かせると、気持ちが楽になるんです」





――今回いろいろなミュージシャンをゲストに迎えることになったきっかけとして、去年The 1975のマシューとジョージとコラボレーションしたEP『Our Extended Play』の経験が大きかったそうですね。ふたりは今作にも参加していますが、ビーさんにとってマシューとジョージは、音楽以外のことでもいろいろと教えてくれたり導いたりしてくれる存在なのかなって。


Bea「そうですね。とくにマシューは私にとって兄のような存在で、時々うっとうしいけど(笑)、本当に素敵なひとです。彼がくれた最高のアドバイスのひとつは、私が別れを経験したときのこと。彼は『君はまだ若いから、いまはそんなに深刻なことを考える必要はない、自分を幸せにしてくれる何かを見つけた方がいい』と言ってくれて。そして、彼は恋愛を“庭”にたとえました。『庭を美しく豊かにするためには、手入れをする必要がある。でも君は22歳で、まだ若いから、水をやり続ける必要がない、つねに生き生きとした庭を欲しがるものなんだ。若いからそれでいいんだよ。ただ、落ち着いて余裕ができてくると、庭仕事の時間ができて、庭を育てることをエンジョイできるようになる』って。以来、私の頭のなかにはそのような“愛の観念”が刻まれています」



―― 一方でマシューは、たとえばフェスの出演者におけるジェンダーバランスについて提言したり、社会的なメッセージを発信することやその役割を負うことに意識的ですよね。そうしたマシューの姿勢に感化されたり、考えさせられたりすることはありますか。


Bea「すべてのミュージシャンにとって、自分が信じていることをはっきりと表明することは大切だと思います。それも、プラットフォームを持ち、自分に期待してくれて支持してくれるひとがいる場合であればなおさらです。とくに、それが社会にとってポジティヴで良いことであるならば、自分が信じていることを伝えずに多くのひとに注目されることに何の意味があるのかな、って思うんです」





―― 一昨年に開催された88 risingのイヴェント「Asia Rising Forever」に出演した理由について、「音楽業界におけるこのコミュニティの一員でいたいと思ったから。素晴らしい作品を作っている新しいアジア人のアーティストたちを見てみたいという気持ちもあった」と話していましたね。同じように、ビーさんに対してそうしたコミュニティのロールモデルとして期待し、支持を寄せる声も多いのではないでしょうか。


Bea「それはとても幸せなことだし、自分自身を誇りに思えることです。小さい頃は、自分と同じようなひとに憧れたり尊敬することはありませんでした。どこかの女の子や誰かのための何かになることは、自分がやっていることすべてに価値があるんだって感じさせてくれます。だって、それがすべてなんだから」





photography Satomi Yamauchi(IG
text Junnosuke Amai(TW



beabadoobee
『Beatopia(ビートピア)』
Now on Sale
(Dirty Hit)

※国内盤はボーナストラック(曲)、歌詞対訳、ライナーノーツ付
Tracklist
1. Beatopia Cultsong
2. 10:36
3. Sunny day
4. See you Soon
5. Ripples
6. the perfect pair
7. broken cd
8. Talk
9. Lovesong
10. Picture of Us
11. fair so
ng 12. Don’t get the deal
13. thinkerbell is overrated
14. You’re here that’s the thing
15. Back to Mars (ボーナストラック)

https://www.virginmusic.jp/beabadoobee/

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NeoL/ネオエル

都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

ウェブサイト: http://www.neol.jp/

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