AI裁判官とハッカー弁護士がもつれる法廷ミステリ
躍動に満ちたエンターテインメント『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』で第八回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞してデビューした竹田人造の第二作。前作同様、AIを題材として技術的ディテールがよく練りあげられている。ただし、ハードSFによくあるような設定を得々と披瀝するような無骨な作品ではない。軸足が置かれているのは、あくまでもストーリーだ。
複雑化が進む訴訟社会にあって、誤解と偏見なく裁判を進めるため、AI裁判官が導入されて数年。いまだに賛否両論はあるが、裁判の省コスト化・高速化が進んだのは事実だ。そんな時代にあって、魔法使いを自称し、不敗をつづけている弁護士がいた。機島雄弁(きしまゆうべん)、勝訴のためならAIの裏をかき、常識的な正義にも背く。それどころか、結果的に依頼人を裏切ることになってもかまわない。目の前の裁判に関して、自分が手柄と利益を総取りできればいいのだ。
清々しいまでのエゴイストであり、たいていの読者はとても彼に感情移入はできないだろう。面白いのは、そんな機島が素朴でお人好しの青年、軒下智紀(のきしたともき)に振りまわされてしまうところだ。本書は四つのエピソードで構成されているが、軒下は第一のエピソードで殺人事件の容疑者となり、機島に弁護を依頼する。機島はとっとと裁判に勝って軒下と縁を切るつもりでいたが、妙ななりゆきで軒下は機島の押しかけ助手となる。
というわけで、この物語はおかしな取り合わせのバディ小説でもある。機島・軒下コンビに加え、次々と濃いキャラクターが登場する。局面が目まぐるしく変わるなか、人物間の意外なつながりと過去の経緯が浮かびあがっていく。そして機島はAI裁判官システムの裏にある震撼すべき真相へ踏みいることになる。
(牧眞司)
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