【福井・東尋坊】遊覧船に商店街散策。崖、海、島から絶景を望む
いきなりだが、私は福井県に一目置いている。北陸エリアというのは、私の印象だけれど、なんだかサラッとしたイメージの観光地が多い。石川県金沢市は小奇麗な街並みだし、デザイン性の高いトラムが走る富山県富山市は爽やかな情景をたたえている。
そして、もちろん福井県も端麗な味わいを持つ地域である。しかし、よく見ると北陸の他県とは少し違うムードを醸していると思う。表面的にはサラッとしているように見せかけて、実は奥底から異彩を放っている感じが福井県にはある、と私は感じるのだ。だから、福井県は「裏側を覗いてみる」感じで旅をすると面白いのではないだろうか。
東京駅
福井県の裏側を見よう
JR東京駅から北陸新幹線「はくたか」に乗って、北陸の玄関口であるJR金沢駅へ。
そこから北陸本線に乗り換えて、JR芦原温泉駅に到着する。駅前のベンチには、早くも異彩を放つようにして、唐突に恐竜である。
そう、福井県は全国に名高い恐竜化石の宝庫でもある。フクイラプトルの化石発見や、世界三大恐竜博物館に数えられる「福井県立恐竜博物館」の存在など、福井観光のバックボーンは恐竜なのである。
しかし、今回の旅の目的は恐竜ではない。目指すは海方面。そこにある王道の観光地を巡り、その裏側を覗き見ていく所存である。
東尋坊
遊覧船で東尋坊の「裏側」を見よう
というわけで、芦原温泉駅から向かったのは、福井県を訪れたのであれば外すことはできない王道スポット、「東尋坊」である。ちなみに、芦原温泉駅から周辺の観光地へは路線バスでのアクセスが非常に便利だ。
サスペンスドラマで犯人が最終的に追い込まれる場所としてもおなじみの、切り立った崖。さまざまな「刑事」たちが、自白を迫ったり、人生訓を諭したりしてきたその場所に立ち、日本海の大海原を望む。絶景とはこのことである。私もなにかを自白するのであれば、こういったスペクタクル感のある場所をチョイスしたいものだ。
東尋坊と聞くと、激しい波が打ちつけ、バッシャーン! と白い潮が飛び散る画をイメージする人が多いと思うが、あれは冬ならではの景色であるらしい。
春の東尋坊には、実に穏やかな海原が広がっていた。これはこれで、趣がある。荒い性格かと思っていたら、案外に裏では柔らかさを持ち合わせていたんだな、という東尋坊の二面性を発見できて、ちょっと得した気分である。
パノラマの景色だけではなく、地表にも注目したい。そこにあるのは世界でも有数の「柱状節理」なる地質。柔らかそうに見えて、実はめちゃくちゃに硬い、独特な質感の岩が地面を覆っている。下方に注目しながら歩いていると、なんだか他の惑星に訪れたようなSF的感覚に入り込むことができる。
しかし、これだけで東尋坊を満喫した気になってはいけない。ここの真なる魅力を堪能するためには、「東尋坊観光遊覧船」に乗り、崖の景色を裏側から眺めることを強くおすすめする。
遊覧船へは崖が作りだす入江のような場所から乗船することができる。アドベンチャーな風情を感じつつ、いざ出航だ。
東尋坊を海側から覗くと、そこには太古から形成された地層の姿が浮かび上がる。地上からとはまた角度の違う、ダイナミックな光景である。ちょっと『ジュラシック・パーク』な雰囲気も感じられるではないか。
遊覧船の中では、ガイドさんがアカデミックな知識を織り交ぜつつ、地層についての説明をしてくれる。
「さあ、この海では4つの県の姿が見えます。福井県、石川県、富山県、(ここで手をチョキの形にして)そしてジャンケンで~す!」……というユーモアも飛ばしてくれる。こんな陽気なガイドさんにも、お酒を飲みながら涙をこぼす日があるのかな、なんて無駄に裏を読みながら船に揺られる。
東尋坊の裏側、つまり岩壁には、ティラノサウルスの頭部に似た岩肌が露わになっていると説明を受ける。なるほど、言われてみればたしかにそう見える。やはり福井のバックボーンは恐竜なのである。
遊覧船は最後、東尋坊の岩壁に接近する。そこから見上げる崖の景色は、なかなかに圧倒的だった。船内のあちらこちらから感嘆の声が上がる。いいぞいいぞ、福井の裏側。
東尋坊商店街
焼き貝の匂いに誘われて
名勝を表からも裏からも堪能したのち、「東尋坊商店街」を散策する。
そういえば昼食の時間である。並ぶ軒先からは、焼かれたイカや貝の匂いが流れてきて、胃袋がキュッと鳴る。たまらず目についた店の座敷に上がり、焼きつぶ貝や海鮮二色丼などを注文する。
観光地で食べる「ザ・名物」って、美味しさとは別に愉しさみたいな情緒がある。王道の旅って、やっぱり美味しくて愉快だ。食べ物に関しては、無理に裏をセレクトしなくてもよいと思う。
あわら温泉 清風荘
あわら温泉街の旅館の裏側?
東尋坊をあとにして、バスで芦原温泉駅へと戻り本日の宿へと向かう。あわら温泉街にある「あわら温泉 清風荘」である。
通されたのは、「これぞ旅館部屋」と呼ぶべき、洗練された空間。まさに王道であるといえる。
そして、こちらの宿はまた、温泉がよい。
広々とした大浴場「風の温泉郷 十楽」の内風呂。露天風呂もあり、趣向を凝らした湯船が楽しめる。
さらに「裏ステージ」といった感じで、もうひとつの大浴場「木もれ陽の湯」が旅館の奥にある。こちらは男女時間入れ替え制で入浴することができる。
福井の春の青空を見上げながらの露天風呂。もう私は、このまま溶けてしまってもいい。
こうなってくると気になるのは今夜の夕食だ。福井のグルメといえば、「ソースカツ丼」や「越前おろしそば」などが挙げられるわけだが、こちらの旅館ではどんなものがいただけるのか。
会席である。目にも鮮やかな、会席フルコースである。
福井が実は深い食文化の潜むエリアであることにも、私は一目置いている。宿自慢の会席料理を前にして、襟を正す。
どの器も美味しかったが、特に紹介したいのはこちら。つぶ貝と苺を和えたサラダ風の逸品である。
まさかつぶ貝と苺が合うわけなんて……、え、うそ、チョー美味しいんですけど! と私の人格の裏に棲むティーンエイジャーが驚きの声を上げる。
給仕の方に勧められて地元の日本酒「女将のお酒」もいただく。あわら温泉街では日本酒にも力を入れているとのこと。福井の日本酒は、さすが米どころの風味で、淡くて繊細な甘みが舌の上でほどけていく。
竹の器で蒸していただく牛肉料理も、絶品であった。明日も明後日も、これが食べたい。ずっと福井の食文化に潜っていたい。
大湊神社/雄島
小さな無人島でアドベンチャー
清風荘で朝を迎えて、チェックアウトしたのちに、芦原温泉駅からバスで向かったのは東尋坊にほど近い、「大湊神社/雄島」である。
こちらは小さな無人島で、「北陸の江の島」とも呼ばれているそう。名勝天然記念物にも指定されている、隠れた観光スポットである。
雄島は全体が大湊神社の境内でもある。まずは正面から参拝場所へと向かう。木々に囲まれ、静謐な空気感に満たされた社であった。
参拝したのち、島の裏手へと歩を進める。すると、このような景色が広がっている。
特殊な地質が織りなす非日常的な景色。太古の時代にマグマが冷えて、この異様な岩の様がつくられたのだという。
東尋坊とはまた一味違った、独特な寂寥感がある。無人島の裏側というシチュエーションも相まって、奇妙なドラマに巻き込まれてしまったような感覚に胸がざわめく。
雄島の自然林にはヤブニッケイなる湾曲した木々が集まっている。見慣れない植生を前にすると、ささやかながらも冒険をしているような気分が味わえる。雄島、好きです。
海のレストラン おおとく
最後はやっぱり正面から
さて、福井の裏側を覗き見た2日間の旅程も、そろそろ終了である。最後はやはり、いまいちど正面からこの福井の海を見据えたい。
というわけで、雄島のすぐ近くにある「海のレストラン おおとく」にお邪魔する。
こちらのレストランでは、席から目の前の日本海を一望できる。
いただいたのはお刺身定食。日本海で獲れた新鮮な魚たちを口に運びつつ、穏やかな紺色の海を目に映す。贅沢とは、つまりこのことである。
福井の旅で出合った食事は、どれもがしみじみと美味しかった。
レストランの窓から見える雄島に後ろ髪を引かれつつ帰京した。
東尋坊を表から臨んだ圧巻の景色、そして遊覧船に乗って裏側から眺めた意外な表情。雄島の風光明媚な正面の顔と、裏手に広がる雄大な姿。旅の中で目に映したそれぞれを、車内でゆっくりと反すうする。
サラッとしているけれど滋味も感じる。表もよいし、裏もよい。それが福井の魅力であると、つくづく思う。
北陸エリアは本当に豊かだ。次は石川県と富山県も裏から眺めてみたいな。
そんな旅情がなによりのお土産だった。
東京駅
掲載情報は2022年5月31日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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