希望の裏返しのファーストコンタクト
NASAの有人火星ミッションが失敗し、宇宙開発がすっかり停滞して二十年。太陽系外から飛来し、地球へと向かうコースをたどる天体2Iが発見される。驚いたことに、慣性での移動ではなく減速をつづけているのだ。ということは異星の恒星船か? 色めきたったNASAはお蔵入りしていた探査用宇宙船オリオン号を打ちあげる。乗組員は四人。ベテラン宇宙飛行士サリー・ジャンセン(彼女が船長)、軍人ウィンザー・ホーキンス、2Iの発見者である宇宙物理学者サニー・スティーブンス、宇宙生物学者にして医学博士パーミンダ・ラオ。
オリオン号はぶじ2Iに接近するが、そのときすでに別な宇宙船が2Iへ先乗りしていたことが判明する。民間企業Kスペースのワンダラー号だ。しかし、オリオン号から呼びかけても、ワンダラー号のクルーたちは応答しない。彼らは無謀にも2I内部へ入りこみ(エアロックに相当する機構があったのだ)、その後、地上のKスペースチームとの連絡が途絶したという。
ジャンセンの船長判断により、オリオン号の四人も2I内部の実地探査を開始する。彼らの目の前にあらわれたのは、驚くべき光景だった……。
ここまでで全体のおよそ四分の一。
読者の前に投げだされているのは、
(1) ワンダラー号の乗員はどうなったのか?
(2) 2Iに異星人は乗っているのか? そうならコンタクトは可能か?
(3) 2Iは地球にとって(天文学的に、あるいは軍事的に)脅威となるのか?
――これらの謎である。オリオン号の四人の探査行はそれ自体がたいへんな冒険だが、謎の真相を解きあかす過程でもある。また、2Iの奥へ足を踏みこむにつれて思いもよらない局面が出現し、ふりかかるストレスのなか、オリオン号の四人がそれぞれに負った精神的葛藤や秘められた動機が浮き彫りになっていく。さまざまな人間ドラマが織りなされるのだが、もちろん、この作品の中核テーマはあくまで異質な存在とのファーストコンタクトだ。
2Iをめぐるシチュエーションは、アーサー・C・クラークの名作『宇宙のランデヴー』を髣髴とさせる。しかし、『最後の宇宙飛行士』はクラーク作品のようなソリッドな肌理ではなく、だんだんとオーソドックスな異星生物SFとなり、物語としてはスペクタクルとスリラーの起伏が激しくなる。とは言え、さすがに現代の作品なので、簡単に人類と異星人とのコミュニケーションが実現するような展開にはならない。
オリオン号のひとりラオは次のように独白する。
宇宙生物学者として異星人との接触を待ち望んでいた。ところが実現してみると、それは夢みたことの裏返しだった。虚空にこだまする嘲笑だった。
はたして彼女は2Iの深奥で何に出会ったのか? これ以上はアイデアの核心なので、実際に読んでいただくしかない。
(牧眞司)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。