驚愕のサイコサスペンス『死刑にいたる病』白石和彌監督インタビュー「“惹きつける目”と“突き刺してくるような意志の強い目”」

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史上最悪の凶悪事件とその真相を描いた問題作『凶悪』で注目を集め、 恋愛ミステリーに挑戦した『彼女がその名を知らない鳥たち』や、警察とやくざの血で血を洗う攻防戦を 過激な描写も辞さずに描いた『孤狼の血』シリーズでも数々の映画賞を獲得しただけでなく、高い支持を得ている、 今日本映画界で最も注目される白石和彌監督。

注目の作家・櫛木理宇の最高傑作を映画化。 阿部サダヲ×岡田健史のW主演、映画『死刑にいたる病』が大ヒット上映中です。観るものを翻弄する驚愕のサイコサスペンスをどう作り上げたのか。白石和彌監督にお話しを伺いました。

――本作とても怖く面白く拝見させていただきました。原作を映画化すると決まった時、どのように映像に落とし込んでいこうと思いましたか?

小説の中で、榛村(阿部サダヲ)と雅也(岡田健史)の面会のシーンがたくさんあるのですが、面会室のシーンはこれまでもいっぱい撮った経験があったので、同じような感じになっちゃわないかなと心配の方が先にありました。なので、この小説を僕が実写化するのは難しいのかなと最初は思っていたんですね。

榛村大和というキャラクターが面白かったので惹かれたことが大きかったのと。物語の大枠は(『凶悪』と)違ったので、カメラを動かしたり色々なことをしていいんだろうなって考えながら作っていきました。榛村が24人もの殺人を起こしている過去をどうやって説明するのが良いのかなって思ったんですけど、それも脚本の高田さんが上手に入れ込んでくださったので良かったなと。

――映画を拝見した後に、原作も読みました。映画の方が過去の事件の描写が所々に差し込まれていますよね。

そうですね。原作は榛村の両親の話とか、どうやって榛村大和が生まれたかみたいなことも書かれているんですけど、できるだけ訳して現代のミステリーに合うところだけ描いていって、そこはかとなく過去を感じられるように調整していきました。

――榛村大和というキャラクターが面白いからこそ、映像にするのも難しかったのかなと思います。阿部サダヲさんにお願いするのは決まっていたのですか?

阿部さんとは「彼女はその名を知らない鳥たち」で、ご一緒しているのですが、あの映画の中で時々、本当に怖い目をしている瞬間があって。「榛村は、どういう人なんだろう?」って考えた時に、まず阿部さんの目が浮かんだんですよ。

――阿部さんの年齢不詳感や優しい声なのに恐ろしさも感じる凄さがありました。

年齢不詳感もありますね。阿部さんって、色々な会話ができる方なんですけど、いつも終わった後、「今、阿部さんは僕との会話、楽しんでたのかな?」とか思うこともあって(笑)。阿部さんって、どういう方なんだろう?と掴みきれない部分が、榛村大和のミステリアスな感じを手助けしてくれるのではないかと思いました。

――印象的なセリフがたくさん出てきますが、どれが本心か最後まで分からないですよね。今も分からないです。

そうですね。本心なのか、本心じゃないのか分からない作り方にしています。悪い人には変わらないけど、みんな彼を好きになるし、原作を読んだ時に感じた、「この人って本当はどうなんだろう?」という、この感覚は何らかの形で残しておきたいなと思いました。

――岡田さんが演じる雅也についてはいかがですか。

岡田くんはすごく真面目で「芝居をしたいです」という気持ちが強くて。真っ直ぐに生きている感じがしました。雅也という役は憂鬱な感じなんですけど、岡田くんは、その“陰”が似合う感じがしていて。

阿部さんが“惹きつける目”だとしたら、岡田くんの目は“突き刺してくるような意志の強い目”をしていて。この2人の面会室だったら、のめり込んで見れるんじゃないかなと思ったんです。

――岡田さん演じる雅也、ハマってらっしゃいました。端正な顔立ちだけど、なぜか陰を感じる、というのが分かります。

岡田くんは状況によって顔が全然、違って見えるんです。「こんな顔してるんだ?」って。振り幅が広い感じがして。撮ってみないと分からなかったんですけど、こんなに色んな顔を魅せるってすごいなと思いました。本当に素敵な俳優だと思います。

――また、中山美穂さんも、すごく印象的でした。中山美穂さんが、この役をやられるんだ…と。

“ただのお母さん”じゃないですからね。僕もやっていただけると思わなかったです。僕らにとっては、中学生くらいからのスーパーアイドルだったし、中山美穂さんに憧れていましたし、いつかチャンスがあればと思っていましたけど。今回、お受けいただいて光栄以外のなにものでもなかったです。難しいシーンも多くて、緊張されていたんでしょうけど、「楽しかった」って言ってくださって良かったです。

――すごく意外なキャスティングだと思いますが、素晴らしかったですね。

映画「Love Letter」も含めて、ずっと見ていましたし。お願いする直前に松尾スズキ監督の「108〜海馬五郎の復讐と冒険〜」という映画に出られていたんですけど、「この役を受けてくださるならチャンスあるかも!」って思ってプロデューサーに相談して。「もしお受けいただけるならぜひ」とお願いしました。

――戦慄のラストシーンですが、原作とは異なりますよね。監督は、どういうふうに作りたいと思われましたか?

映画は2時間なので、切れ味よく終わりたいなと思っていて。本当に悩んで悩んで、脚本の高田さんにも繰り返し書いてもらったシーンです。ちょうど、コロナ禍の映画館が苦しい時期にも、ホラー好き、ミステリー好きの方は頻繁に映画館に足を運んでいるという話を聞いていて。ホラーっぽい要素に寄せて描いても良いかな?と思い、ラストは、そんなイメージで作りました。

――そんな背景があったんですね!拷問シーンも沢山ありますよね。目を背けたくなるほど痛そうでした…。

そうなんですよね。若い俳優たちが拷問シーンも頑張ってくれて。阿部さんも「若い俳優たちが、良いリアクションをしてくれたので演じやすかった」おっしゃっていました。逆に、若い俳優たち目線で見ると、阿部さんだからこそ思い切り演じることができたのかなとも思います。

――ティーンの皆さんは、オーディションですか?

ほとんどオーディションです。ああいうところでお芝居がちゃんとできる子達じゃないと、映画が嘘になってしまうので。ちゃんと芝居できて良い表情してくれる方にお願いしました。榛村大和の嗜好もあり、「勉強ができて、清潔感がある」男女たちが良かったので。それも、作品の禍々しさと榛村大和の人格形成にも役立っている気がします。

――確かに。すごく賢い子だから狙われてしまうっていう怖さが出ていたなと思いました。白石監督の作品は、個人的にサブキャラクターのキャスティングも楽しみだったりするのですが、今回も面白い人がたくさん出ていましたね。赤ペン瀧川先生が雰囲気すごくあるなって。

瀧川さんは、芝居が上手いですからね。表情も良いし、会って話すと面白いんです。僕も楽しみにして現場で待っているんですよ。「あ、瀧川さんだ!」って。テンション上がる方が嬉しいじゃないですか。それが重要っていいますか…。芝居が上手いことも重要ですけど、この方が来るし楽しみだなあっていう枠です(笑)。岩井志麻子さんとかも。音尾(琢真)さんも連続記録更新中で出てくださっていて、“音尾枠”は止め時を見失っています(笑)。

――本作を作ってみて監督の中では、他の作品に比べて迷いなくできましたか?それとも時間をかけましたか?

毎回、迷いながら作っているので、迷わないってことは、なかなか無いんです。まずコロナで一年、撮影が延びたんですね。その一年の間にイメージを熟成しました。最初のロケハンの時に、大和の山の中の家と水門が見つけられて。後ろに鉄塔があったりしてイメージどおりで、その場所を見つけられた時に、この映画全体のルックが見えてきて。それで、迷っていた部分が少しずつ見えてきました。閉鎖感あるけれど、どこか美しさもあって。ロケハンから映画が動き出してきたと思います。

――セット、美術も含めて、暗いトーンだけど綺麗さがある映像に引き込まれました。

美しく撮りたいなと意識していました。今回、初めてだった撮影の池田さんと照明の舘野さんが素晴らしくて。良い感じでルックを作って提示してくださったんです。僕もその美しさに酔いながら見ていたという感じですね。品のある良い画を撮ってくださるなと思いながら惚れ惚れ見ていました。

――今おっしゃられたとおり、本当に恐ろしいのに品の良い作品で大好きな作品になりました。監督が最近、刺激を受けたミステリーやスリラー作品はありますか?

「TITANE チタン」ですね。素晴らしい映画でした。どこにいくのかわからないし、強引なところもいっぱいあるけれど、それを感じさせない…あれも、そういう意味では品の良い作品だと思います。ジャンルを言えない映画じゃないですか。それも素晴らしいし、見ている間、「俺、何を観ているんだろう?」っていう(笑)。でも、ワンシーンワンシーンが映画以外の何者でもなくて。本当に悔しいと思わせてくれましたね。僕もあんな映画を撮ってみたいです。

――白石監督をそう思わせるというのがすごい映画ですよね。

同じような企画を思いついたとしても日本映画業界ではまず企画が通せないですね。自主映画で撮るしかないかなと。脚本を描いても理解してくれる方、全くいないとは言わないけれど、少ないと思います。本来だったら自主映画で、低予算で作る感じになってしまうのに、「TITANE チタン」はしっかりお金をかけて作っている。その辺の文化の違いも考えてしまいます。才能の違いかなとも思いますが、まだまだ勉強しないといけないなと思わされる作品でした。

――監督はいくつもの企画を進行させている中で、映画館での映画鑑賞なども時間をしっかりとられているのですね。

はい。それが無くなったら終わりだろうなと思っているので。仕事も当然たくさん抱えているんですけど、それと同じように映画を観ることも優先順位を上げています。本当は映画だけじゃダメなんでしょうね。本を読んだり、ライブにいったり、美術館にいったりする時間も取らないといけないんでしょうけど最低限、映画だけは最後の砦として。

――最後に、月並みな質問で恐縮ですが、この作品を通して、どんなことを感じてほしいですか?

最初、お客さんは雅也目線で見ていくと思うんですよね。ただ、見終わった後、犯人目線で色々と物を見て欲しいです。そうすると別の魅力が顔を変えて出てくる映画だと思っているので。それを考えてみると、面白いんじゃないかなって。犯人の目線で様々な事を考えながら二回目を観ていただけたら感じ方も変わると思います。

――その視点でもう一回じっくり見させていただきます。本日は素敵なお話をどうもありがとうございました。

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

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藤本エリ

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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