“変態的接客サービス”でグローバル企業へと成長した火鍋チェーン。その成功の秘密に迫る
みなさんは中国の火鍋チェーン「海底撈(かいていろう)」をご存じでしょうか? 中国国内以外に、日本を含むアジア、欧米、オーストラリアなどでも店舗を展開しているグローバル企業です。
1994年に四川省簡陽市で開業した海底撈は、2018年に上場。2021年1月には時価総額が5兆円を超える成長を見せます。現在、この上位に位置するのは、世界的に見てもトップのマクドナルドとそれに続くスターバックスのみ。つまり、海底撈は30年足らずで世界第3位の外食企業へと上り詰めたのです。
同書はそんな海底撈の成功の軌跡について書かれた一冊です。著者の山下 純さんは中国に長年駐在し、協業プロジェクトを含めて海底撈と深いつながりを持ってきました。さまざまな実体験を通じて得た、創業者・張 勇さんの姿や海底撈の内部事情などをリアルに伝えています。
さて、海底撈が大きく飛躍した理由のひとつが、「変態的接客サービス」と称されるほどの顧客至上主義です。スタッフがエプロンを着けるのを手伝ってくれる、お菓子やフルーツを無料で配る、入店待ちの女性客には無料でネイルサービスを提供する、専門スタッフがカンフーダンスを舞いながら火鍋で煮込む麺を作り上げるなど挙げればキリがありません。
こうした過剰なほどのサービスを支持するのが、中国の若者世代「九〇后(ジウリンホウ。1990年代生まれの意味)」です。物心ついたときからスマホやタブレット端末があり、SNSを自在に使いこなす彼らは、「モノよりも友達とつながっていることや経験型のコト消費に大きな価値を見出す」(同書より)のが特長。給仕だけでなく鍋やスープのつけダレにいたるまで徹底したカスタマイズを楽しめる海底撈は、自分流を大事にする九〇后のスタイルにピタリとマッチしました。現在、店を訪れる客の9割は、九〇后かそれよりも若い世代だそうです。
これに合わせ、海底撈の店員は大半が九〇后。彼らの多くは学歴、コネ、都市の戸籍もない、人生の選択肢が限られている若者です。けれど、社内に複数のチームを競わせる仕組みを作るなど、とにかく現場第一主義である海底撈では、努力次第で人生を逆転することも可能。これは海底撈の経営理念である「双手改変命運」(直訳すると「自分の両手で自分の運命を変える」)にもつながります。
創業者である張 勇さん自身も、故郷で仲間たちと小さな火鍋店を立ち上げたところから苦難の連続を経て業界トップへと成り上がった人物。「企業の競争力を高めるための仕組みは、海底撈の従業員たちにとっても『自らの努力で未来を拓く』というチャイナドリームを実現するリアルな現場だった」(同書より)と山下さんは記しています。
とはいえ、2021年11月には約300店を閉鎖するとのニュースも流れた海底撈。今後の動向も目が離せません。この一大外食企業を通じて中国のダイナミックな成長ぶりを目の当たりにできる同書は、海外とかかわりを持つビジネスパーソンであれば読んで損はないでしょう。また、山下さんの「火鍋愛」が随所に盛り込まれていて、火鍋に詳しくなれる一冊としてグルメ好きな人にもおすすめです。
[文・鷺ノ宮やよい]
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