「大人より学生の方がジェンダー平等を理解している」 『月曜日のたわわ』広告問題でアンケートを実施したTwitterユーザーの動機とは?

『週刊ヤングマガジン』連載中の比村奇石さんのマンガ『月曜日のたわわ』。2022年4月4日の日本経済新聞に全面広告を掲載したことが賛否を呼び、Twitterなどのネット上ではフェミニストと表現の自由を尊重する立場からの意見が噴出しています。2022年4月14日には国連女性機関(UN Women)が抗議の書面を日経新聞に送付し、政治的な色彩も帯びてきました。

そんな中、15〜29歳の女性100名を対象とした調査をTwitterユーザーのいっちゃんさん(@1chan_nobit)がセルフ型アンケートツール『Freeasy』を利用して実施。全体で「特に問題がない」が82%、「問題がある」が18%という結果になりました。

【拡散希望】2022年4月4日日経新聞に掲載されたマンガ「月曜日のたわわ」の全面広告に関して、全国の10~20代女性100名を対象に、リサーチ会社を通してアンケートを実施しました。
結果、高校生を含む若者女性の8割以上が「特に問題はない」と回答しました。
10代と20代に大きな差もありませんでした。

公開された『note』のアンケートを実施した感想のエントリーでは、ある女子高生のツイートがきっかけだったことや、調査にかかった費用が1100円だったこと、表現規制に対抗するための手段について自身の考えを綴っています。今回、生活保護や児童相談所などに関わる活動をしているといういっちゃんさんに取材しました。

マンガ「月曜日のたわわ」新聞広告の炎上を調査したら、1万リツイートされてしまった人が考えたこと(前編)
https://note.com/1chan_nobit/n/n7408547bfd9a [リンク]

マンガ「月曜日のたわわ」新聞広告の炎上を調査したら、1万リツイートされてしまった人が考えたこと(後編)
https://note.com/1chan_nobit/n/n3141551a9783 [リンク]

女子高生がいやがらせを受けているのを見て調査を決意

ーー表現規制への関心があったとのことですが、最初のきっかけは何だったのでしょうか?

いっちゃんさん(以下、I):学生時代に二次創作小説の同人誌を友人と作っていて、即売会のスタッフをしていたのですが、その時に他の参加者の方から、表現規制について話を聞いたのがきっかけだったと思います。

ーー『月曜日のたわわ』を読んでいましたか?

I:作品自体は同人時代から知っていましたが、実は読んだことはありません。『ヤングマガジン』で連載されていることを知っている程度です。

ーー女子高生がTwitterで誹謗中傷を受けていることを見かけて、アンケートを実施した動機として挙げていらっしゃいます。

I:柏村みくさんのツイートをタイムラインでどなたかがリツイートしていて見かけたのが最初です。YouTube動画やまとめサイトにも取り上げられたこともあって、中傷やいやがらせを受けていました。

※該当ツイート

ーーそれを見た時の率直な心境をお願いします。

I:誰に迷惑をかけているわけでもなく、わざわざ30人以上の友人にも確認して意見を発信する1人の女子高生の価値観を、複数の大人が中傷したりいやがらせしていく様子を見て、ショックでした。これまでも似たようなことはTwitter上でありましたが、いやがらせを受けているのがまだ10代のアカウントだったこともあり、何か出来ることはないかと考えて調査を実施しました。

ーーアンケートツールに『Freeasy』を使った理由は?

I:調べた中で最安値だったのが最大の理由ですが、モニター数が同業他社と比べて同規模か多そうだったこと、有名企業での実績があること、Z世代対象の調査実績も理由です。想像以上に使いやすくて驚きました。学生でも簡単に使えると思います。

ーーアンケートを取ってみて、良かった事と悪かった事を挙げるとすれば何だったのでしょう?

I:良かったことは、アンケート結果を掲載したツイートが1.2万リツイート、2.2万「いいね」と拡散され、多くの方に興味を持って頂けたことですが、何より柏村さんに結果を届けられたのがよかったです。また、アンケート結果の後にあげたnoteの記事も多くの方に読んで頂けたので、表現規制反対派には、実際に若者支援をしている人もいるんだということを知って頂けたと思います。悪かったことは、4月18日にアップした追加調査のツイート内容が悪かったのか、シャドウバンされてしまったことぐらいでしょうか(笑)。

ーーソーシャルワーカーとしての活動をされていて、「#迷惑な抗議活動より被害者支援を」に賛同されています。

I:当たり前のことですが、「手元のスマホではなく、実際の人間を見て欲しい」ということです。私はここまで、表現規制反対の立場で話をしてきましたが、表現規制賛成の方が規制を求めるような表現に傷つく人も当然います。それは様々な性被害が原因で、その表現に問題はないかもしれませんが、そういった方にとっての居場所は必要だと思います。例えば、仁藤夢乃さんが代表を務めている一般社団法人Colaboでは、まさにそういった10代の女性を支援し、居場所を作っています。

ーー仁藤さんは、表現規制派という立場での発言を度々されていますね。

I:様々な意見があるかもしれませんが、Colaboは非常に困難なケースも含め、スタッフの方々が当事者に真摯に向き合った支援を行っているのは事実です。リスペクトする部分も多くあります。表現規制については、仁藤さんをはじめ規制賛成派にはまったく同意できないところですが、どんな人を支援したいのかを意識した上で、寄付やボランティアをして頂くのが望ましいと考えています。

ーーアンケートの反応で「中高生には判断できない、理解もできない」という意見に「一番もやっとした」とのことですが、具体的にどのようにお感じになったのでしょうか?

I:国連総会で採択され、日本が1994年に批准した子どもの権利条約(12条)では、子どもを保護の対象としてだけではなく、一人の人間として認め、自己決定を含めた権利の主体としています。それが理由のひとつですが、大人が一方的に子どもの判断は誤っていると決めつけることは、昨今問題としてよく取り上げられる「毒親」や「ブラック校則」と近い構造だと感じます。支援をする中で、保護した方の親族などの関係者と話し合いを行うことがありますが、「こいつが勝手に決めた」「この子は普通じゃない」など決めつけから入られる関係者は多くいます。私の中では、こういったケースと、今回の状況が重なって見えました。

ーー若者支援の現場と、表現規制反対派としての立場を合わせて、より多くの人に伝えたいことはどんなことになるのでしょう?

I:今の学生は本当に多様化しており、「これ」だと決めつけるのは難しいところですが、少なくとも、一昔前には「萌え絵」と呼ばれたイラストは既に一般化しています。「萌え絵」に限らず、『第五人格』や『荒野行動』など、一昔前なら女子がやることがほとんどなかったオンラインサバイバルゲームをプレイすることも珍しくありません。また、平成初期までと違い、小学校から当たり前に男女が一緒に遊ぶようになった現代では、個人差はあるものの、どちらかといえば大人より学生の方がジェンダー平等を本質的に理解していると思います。「フェミニスト」を名乗って表現規制に賛成されている方には、本当に当事者の声を聞けているのか、思い込みに囚われていないか、今一度自分の行動を振り返って頂きたいです。

ネットスクラムに晒された女子高生「少し怖かったです」

取材の最後に、いっちゃんさんは表現規制賛成派の立場の人に対して、「柏村さんのこのツイートを見てほしい」と強調しました。

みなさんありがとうございます
自分ではメンタルかなり強めの自覚があったのですが少し怖かったです
色んな人がいることはわかりますが受け入れられない人はやっぱりいるものなんですね
ですが私達を守ってくれる人がたくさんいることがとても嬉しいですし安心です
私もそんな大人になりたいです

柏村さんに取材をしたところ、ツイートへの反応を受けた時に「”同調圧力をかけているのではないか”“井の中の蛙”などという意見も目にして、”類は友を呼ぶの通りに偏った意見だったのでは”と思い始めていました」とその時の心境を明かしました。そんな中、いっちゃんさんのアンケート結果を見て、「多数の女性が同意見を持っていることに少し安心しました。もちろん多数が正しいとは限りませんが。私の意見に根拠を加えてくださって嬉しかったです」と感謝しているといいます。

2022年4月20日には、『SYNODOS』が田中辰雄慶應義塾大学経済学部教授による同様の調査をした結果と分析を公開。対象者は20歳~59歳までの男女3154人で、『月曜日のたわわ』広告に「問題あり」としたのは女性の3割強で、20代の女性に限ると「問題あり」は18%となっており、いっちゃんさんの調査と似た傾向となっています。研究者でない人でも少額でアンケートが取れるようになっているからこそ、データに基づいた議論が求められるのではないでしょうか。

※参考:「月曜日のたわわ」を人々はどう見るか(SYNODOS)
https://synodos.jp/opinion/society/27932/ [リンク]

いっちゃん(Twitter)
https://twitter.com/1chan_nobit [リンク]

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ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。

ウェブサイト: https://note.com/parsleymood

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