月額5000円でお迎えから目的地まで乗り放題! 新交通サービス「mobi」はじまる 渋谷や名古屋市など
呼べばすぐ専用車がお迎えに来てくれる。そんな定額乗り放題のAIオンデマンドサービス「mobi(モビ)」が、昨年7月から東京都の渋谷エリアで始まりました。現在は、愛知県名古屋市千種区と京都府京丹後市、海外でも展開されています。子どもの送迎や買い物に便利そうですが、具体的にはどんなサービスなのでしょう。同サービスを運営しているウィラーの広報担当である清水美帆さんに伺いました。
乗りたいと思ったときにすぐお迎えにきてくれる
「自分専属の運転手を持つように、日常生活の中で乗りたいだけ乗れるサービスだ」。「mobi(モビ)」サービスを知るために体験してみた、私たち取材班の素直な感想です。
利用した区間は渋谷駅から渋谷区松濤にある小さな公園まで。スマートフォンの専用アプリを操作して車を手配し、すぐ近くにある規定の乗降場所へ移動。そこで待つこと約5分で、最大7名まで乗れる車両が現れました。
乗降場所で待っていると、約5分で車両が迎えに来てくれた(写真撮影/片山貴博)
この車体のロゴが目印(写真撮影/片山貴博)
あとは目的地近くにある乗車場所まで、AIが提示する最適なルートに沿って運転手が車を走らせるだけ。この時は他に相乗りしてくる利用者がいなかったため、あっという間に目的地まで到着しましたが、タイミングによっては途中で他の利用者を乗せていくこともあります。そのため自家用車やタクシーと比べて、目的地までの到着時間がかかることを想定して利用する必要があります。また、運行エリアは渋谷区内に設定された半径2km圏内となっています。
足元も広々(写真撮影/片山貴博)
車内でスマートフォンの充電も出来る(写真撮影/片山貴博)
とはいえ1人あたり月額(30日間)5000円。同居する家族を会員として追加することもでき、追加料金は1人につき500円。例えば、家族3人で利用しても月々6000円ですから自家用車の購入費や維持費などと比べても、遙かに割安です。
一方で「相乗り」ならではのメリットもあります。渋谷エリアでサービスが始まってから半年以上が経ちましたが、子どもの通学や習い事の送迎などに使う親子は、当然同じ時間帯に利用します。そのため車内で母親同士が顔なじみになり、ママ友に発展するケースが珍しくないそうです。「運転手も何人かの固定メンバーで運用していますから、運転手とも顔なじみになり、安心して子ども一人だけでも塾の送迎に使える、という声もいただいております」と清水さん。
さらに「mobiを利用するようになってから『朝食を食べに街中のカフェへ行くのが楽しい日課になった』というように、ライフスタイルが変化し、日常に溶け込んでいる様子が窺えるコメントもいただいています」
渋谷の街を走るmobi(写真撮影/片山貴博)
ラストワンマイルを解決する1つとして登場
最寄り駅やバス停から、自宅をはじめとした最終目的地までのちょっとした区間のことを、交通の「ラストワンマイル」と言います。このラストワンマイルの移動手段として、最近は都市部なら電動キックボードや電動アシスト自転車、車を使ったシェアリングサービスがあります。この定額乗り放題サービスもその1つに挙げられます。
しかしmobiは電動キックボードや電動アシスト自転車と違い、自ら運転する必要がありませんし、雨の日も気軽に利用できます。
またカーシェアリングサービスは(当たり前ですが)運転免許を持った人が利用しなければなりません。しかしmobiなら、子どもだけ乗せて塾への送迎に使う、なんて使い方もできます。また自家用車やカーシェアリングと違い、目的地周辺で駐車場を探す必要もありません。
渋谷区といえば「ハチ公バス」と呼ばれるコミュニティバスもありますが、それとの大きな違いは乗降場所(公共バスで言うバス停)が圧倒的に多いこと、また決まった路線や時刻での運行ではないことです。例えば渋谷エリアでは、半径約2kmのエリア内に約150箇所もの乗降場所が用意されています。この範囲は、渋谷区の面積に対して約8割。ですから、さすがに全ての人の自宅前とはいかないにせよ、自宅周辺で乗り降りができるのです。
買い物や通勤などで渋谷駅との往復で利用するという使い方もある(写真/PIXTA)
さらにママ友ができたり、運転手と顔なじみになることなんて、他のラストワンマイルサービスやコミュニティバスでは、なかなかありえません。このような地域のコミュニティを形成しやすいということも、大きな特徴と言えそうです。
現在mobiは渋谷以外にも名古屋市千種区と京都府京丹後市、さらにシンガポールとベトナムでも展開されています。エリア内定額乗り放題で、アプリや電話で配車を依頼し、AIを使って最適なルートを走るというサービスの根本は同じなのですが、地域によって利用者の年齢や属性、利用目的に多少の差はあるそうです。
「例えば京丹後市は車がないと通勤や買い物にも不便で、そのため家族1人に車が1台あるようなエリアです。しかし子どもの送迎や買い物などをmobiで行えるようになり、家族での所有台数を減らしてもよいかもいう考えをお持ちの方もいらっしゃいます。『車にかかる維持費が減ったから、その分を別の費用に充てることができる』『マイカーを使う頻度が減った』と喜ばれています」
京丹後市(写真/PIXTA)
京丹後市で活動中の車両。エリア特性等によって使用する車両は変わる(写真提供/WILLER)
また免許返納を考えているけれど、買い物などに車が手放せない、という高齢者の背中も押してくれるサービスのようです。
さらにmobiには、法人会員制度も設けられており、エリア内の飲食店や病院、塾などでお客さまや従業員の送迎にも活用されているとのこと。このようにエリアのニーズに沿ってサービス内容をアレンジすることも可能だそうです。
今後の課題は到着時間の短縮と、アプリの使いやすさの向上
現状の課題としては、先述したように「1. 目的地までの到着時間が読みにくいことと2. スマートフォンに馴染みのない高齢者へのサポートが挙げられます」と清水さん。
1. の到着時間、つまり乗降している時間を縮める対策ですが、そもそも「mobi」では相乗りする際に車が向かう順番や運行ルートなどを、AIを使って最適化しています。AIは日々学習していくのが特徴の1つですから、利用者が増えるほど最適化ルートの提案が進歩し、時間短縮を図れます。
また「お客さまの声などをもとに、よりスムーズに乗り降りしてもらえる場所や、最適なルートをたどる場合にどこで乗ってもらえばよいかなど、乗降場所の微妙な位置修正といった最適化も常に行っています」
アプリ上に表示された乗降場所の中から行き先と出発地を指定(操作画面より)
所要時間等や配車状況も確認できる(操作画面より)
さらに利用者が多い時間帯は、車を増やすことで相乗りする人数を減らし、その結果として乗降時間を短くするなどの調整も随時行っているそうです。
もう一つの課題、2. の高齢者へのサポートですが、高齢者を含めてスマートフォンに不慣れな方のために、現在でもアプリだけでなく電話による配車応対も行っています。「また誰でも扱いやすいよう、アプリのユーザーインターフェースの改善を日々行っています」
アプリを用いるメリットは、改良されたらすぐにアップデートされること。いずれ高齢者でも簡単に操作できるようになる日も近そうです。少なくとも、スマートフォンに慣れている世代は、現状でも戸惑うことはありません。
KDDIとの協働で、サービスエリアの拡大も
昨年末、ウィラーはKDDIと共同で今後のサービスを全国へ展開していくことを発表しました。
高速バス運行事業者、そして京都丹後鉄道の運営事業者でもあり、すでにこの事業を国内3エリア・海外2エリアで展開し、独自のITマーケティングシステムを持つウィラー社。
そこに全国の地方自治体とつながりが深く、大量の人々の移動データを所有し、その活用に長けたKDDIが加われば、サービスエリアが加速的に増えていことも期待できそうです。将来的には自動運転による自動運行も既に検討が始まっているのだとか。
既に同社では東京都豊島区や愛知県名古屋市などで自動運転の実証実験を行っている(写真提供/WILLER)
そうなると、例えば渋谷区のサービスエリアが拡大、例えば隣の港区へもこのサービスで行き来できるようになるのでしょうか。
「渋谷区とは別に港区でも展開することはあり得ますが、両区の行き来は行いません(設定した2kmが区をまたぐ場合はある)。サービス提供エリアがどんどん増えていくイメージです。例えば渋谷から港区六本木に行く場合、渋谷駅から地下鉄や公共バスが利用できます。mobiはその渋谷駅までのラストワンマイルの移動を自由にすることが目的ですから」
もし鉄道やバスで移動するような広い範囲をサービスエリアにすると、車の移動距離が増えてしまい、呼んでも到着まで時間がかかるようになります。それでは「呼べばすぐ迎えに来る」というサービスのメリットが薄れてしまいます。ちなみに1マイルは約1.6km。同社では半径約2kmを目安に運営しています。
一方自治体としては、地元エリア内で人々の移動が増えるということは、買い物に行くことや、駅やバスなどの公共交通の利用につながる外出のきっかけづくりをはじめとする行動が増えるため、地域の活性化に繋がります。また近隣住民同士のコミュニティが形成されることは、安心安全な街づくりにもメリットです。さらに高齢者は家でじっとしているより、積極的に外に出掛け、交流を持つなど、動いたほうが心身ともに健康になりますから、自治体としては医療費の抑制にもつながります。
子どもの塾への送迎から開放され、自治体も地域が活性化するなど、たくさんの人々がWin-Winの間柄になれるサービス。都心部、地方都市など今後たくさんの街でサービスが始まり、ラストワンマイルの課題が解決していくことを期待したいです。
●取材協力
mobi
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