大谷翔平の活躍に見る「なお報道」とは チームの勝敗は二の次 日本のスポーツ報道の在り方を考える│中川淳一郎

2021年のMLBは大谷翔平が見事MVPを獲得したが、まさかこんな日が来るとは……と1995年、野茂英雄がドジャースに入った時以来のMLBファン(というかMLB在籍日本人選手ファン)は感慨深いのでは。
野茂がデビューした年は、MLBはストライキの翌年で、特徴的な「トルネイド投法」でバッタバッタと三振を取る様はアメリカ人にも衝撃を与えた。それとともに、銭ゲバイメージの強くなった選手達のイメージを変えることになったとも評された。野茂は前半を圧倒的な成績で終え、オールスターではナショナルリーグの開幕投手を務め、結局この年は奪三振王と新人王を獲得した。
平成の野茂の活躍以降、スポーツ報道のあり方がガラリと変わった。基本的にMLBの話題がもっとも大切になり、次いでプロ野球、Jリーグ、大相撲といった並びだ。そして、それまでのスポーツニュースでは、基本的にチームスポーツの場合、「阪神初優勝!」や「バース・掛布・岡田バックスクリーン3連発で巨人を粉砕!」といった形で主役はあくまでもチームだった。
だが、野茂以降続々と日本人選手がMLBのチームに所属するようになると、チームの成績自体は正直どうでもよくなっていく。あくまでも主役は「その日本人選手」なのである。記事の定型パターンはこんな感じだ。まずは、松井秀喜が大活躍をした日だとしよう。
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これは、「ヤ軍」が勝とうが負けようがどちらでもよく、日本人選手の個人成績がどうだったか、そして「勝利に貢献」ないしは「負けたもののチームを鼓舞した」といった表現ができればいいのである。昨シーズンのエンゼルスにしても、正直大谷がプレーオフやワールドシリーズに進むかどうかは二の次で、MVP・本塁打王・ベーブ・ルーース以来103年ぶりの2桁勝利&2桁本塁打を達成するか、という点に日本のメディアは注目していた。私はこれを「なお報道」と呼んでいる。本来最も大事なはずのチームの勝敗は最後に 「なお、試合はヤ軍が2-7で敗北した」 と締めるからだ。 この報道スタイルは後に海外サッカーでも使われるようになる。とはいっても先駆者はそうはならなかった。野茂の1年前の1994年、三浦知良がセリエA・ジェノアへレンタル移籍したが、開幕戦でACミランのDF・フランコ・バレージから骨折させられたシーンばかりが注目され、結局活躍はできず翌年ヴェルディ川崎に復帰した。海外サッカーにおける日本人選手の「なお報道」は1998年、セリエA・ペルージャに移籍した中田英寿を待つこととなる。開幕戦でジダン率いるユヴェントスから2点をあげる大活躍をしたのだ。なお、試合は2-3でペルージャの惜敗だった。 一時期は松井秀喜、イチロー、長谷川滋利、佐々木主浩、城島健司らが大活躍し、すっかりスポーツニュースはMLBに席巻された感があったが、以後ダルビッシュ有と前田健太は別格としてもマイナー契約で終える選手や、まったく出場機会が与えられない選手も次々と登場し、2010年代以降は「なお報道」の勢いは弱くなった。そんな中、令和に入り、大谷翔平が「なお報道」の勢いを加速させる存在になっている。 しかし、アメリカ人は「なんで日本人って勝敗に興味ねぇんだ?」と不思議に思っているのではないだろうか。何しろアメリカ人からすれば、サッカーを除き、海外リーグは格下のため、そんなリーグでプレーする自国人に興味が湧くワケがないのだから。多分、サッカーのタイリーグや、台湾プロ野球に所属する選手をいちいち追わない感覚だろう。(文@中川淳一郎 連載「俺の平成史」) 貴方は憶えているだろうか「ライブドア球団名ネット投票事件」を 堀江貴文氏とジェンキンスさんの思い出 | TABLO 「松本人志を表示しない方法を教えて」 Amazonプライムが300円お詫びクーポン券発送
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TABLOとは アメリカが生んだ、偉大な古典ミステリーの大家レイモンド・チャンドラー作品の主人公フィリップ・マーロウの有名なセリフがあります。 「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」 人が生きていく上で、「優しさ」こそ最も大切なものであることを端的に表現した言葉です。優しさとは「人を思いやる気持ち」であり「想像力を働かせること」です。弱者の立場に立つ想像力。 「人に優しく」 これは報道する側にも言えることだと思います。 現在、ヘイトニュース、ヘイト発言、フェイクニュースがネットの普及に従い、増大しており、報道関係者の間では深刻な問題となっています。そこには「人に優しく」という考えが存在していません。 なぜ、ヘイト(差別)ニュースがはびこるのか。「相手はどういう感情を抱くのか」という想像力の欠如がなせる業です。ヘイトによって、人は人に憎悪し、戦争が起き、傷ましい結果をもたらし、人類は反省し、「差別をしてはならない」ということを学んだはずです。 しかし、またもヘイトニュースがはびこる世の中になっています。人種差別だけではありません、LGBT差別、女性差別、職業差別等々、依然としてなくなっていないのだな、ということは心ある人ならネットの言論にはびこっていることに気づいているはずです。本サイトはこのヘイトに対して徹頭徹尾、対峙するものです。
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