酔ったいきおいで大発明

酔ったいきおいで大発明

 主人公は「あてにならない天才」ギャロウェイ・ギャラガー。専門的な科学知識をもっていないのに、酒に酔うと、適当な素材を組みあわせて途轍もない発明をなしとげてしまう。問題は素面に戻ったときに記憶をすっかりなくしていることだ。作動原理もわからない。何のためのマシンなのかもわからない。どういう経緯でそれに取り組んだかもわからない。

 ただ、発明の結果だけがそこにある。

 そんなシチュエーションのユーモアSF連作、五篇をまとめたのが本書だ。作者ヘンリイ・カットナーは、ラヴクラフトばりの怪奇小説、肩の凝らないスペースオペラから、トリッキイなアイデアSFまで器用に書きわけた作家だが、この《ギャロウェイ・ギャラガー》シリーズは、アメリカSFの黄金期をかたちづくった〈アスタウンディング・サイエンス・フィクション〉掲載ということもあって、SFファンから愛された代表作である。初出の時期でいうと1943年から48年。単行本にまとまったのが52年である。

 発明品の不可解な挙動とギャラガーが陥った情けない状況(たいていは本人のせいなのだが)をめぐってストーリーは進む。そこにパズル的なひねりが加わっているのが面白い。

 たとえば、連作のふたつめ「世界はわれらのもの」では、ギャラガーが目を覚ますと部屋にはぶつぶつ唸るマシンが鎮座ましましており、窓の外ではウサギのような生物が三匹いて「われわれは世界を征服したんだ!」と言い募っている(のちにウサギたちは火星の生物だとわかる)。そのうえ、裏庭には胸を熱線で撃ち抜かれた死体がころがっている始末。なんと、その死体はギャラガーなのだ。ウサギがギャラガーを殺したわけではなく、死体は突然出現したらしい。すべてがとっちらかっていて何が何だかわからないところから物語が転がりだし、次々にドタバタがあって、最後にはすべての謎がひとつの絵図にカッチリと収まる。

 あるいは、複雑そうに思えた知恵の輪があっけなく解けた感覚とでも言えばいいか。

 本書のもうひとつの読みどころは、キャラクターの魅力。とくに、第三作「うぬぼれロボット」でギャラガーを翻弄し、以降はアシスタントとしてボケとツッコミを兼任するロボットのジョーと、ギャラガーも顔負けの酒飲みで万事適当な祖父グランパ。このふたりは名脇役として、なんとも良い味を出している。

 カットナーのユーモアSF連作には、世間離れしたミュータント一家を主人公とする《ホグベン》シリーズもある。これもぜひまとめて邦訳してほしいところだ。

(牧眞司)

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