日の里団地を「ひのさと48」で再生。ビールやDIY工房、保育園などでにぎわう

日の里団地を「ひのさと48」で再生。ビールやDIY工房、保育園などでにぎわう

福岡県宗像市にある、日の里団地は、1971年に日本住宅公団(現・UR都市機構)が“九州最大級の団地”として開発。憧れのニュータウンだった場所だが、他エリアの団地と同様、建物の老朽化や住民の高齢化などが進んでいる。しかし日の里団地は団地の再生プランを立て、新しい団地のあり方「宗像・日の里モデル」を提案できるように歩み始めている。今回はその象徴となる48号棟「ひのさと48」を訪れた。

50歳を迎えた「日の里団地」48号棟が「ひのさと48」に。ワクワク虹色の未来を描く

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

最寄駅となるJR鹿児島本線・東郷駅は、博多駅まで快速列車で約30分の距離。福岡市の都心部に通勤するのにほどよいベッドタウンだ。その東郷駅から広がる丘陵地に開かれた日の里団地は、開発された1971年当初、全65棟に次々と入居者が決まり、最盛時は約2万人もの人々が暮らしていた。

そして50年後の2021年。住民数は10分の1の2000人程度となり、65歳以上人口の割合である高齢化率は4割前後。宗像市全体の高齢化率3割前後を超えている。

そんななか、日の里団地のいちばん奥まったエリアにある、48号棟に注目が集まっている。2017年に閉鎖された10棟のうちの1棟で、住民はもちろん宗像市や周辺エリアのコミュニケーションのハブとなるよう2021年3月、「ひのさと48(よんじゅうはち)」という場所として動き始めた。

虹色のバルコニーパネルや木のテラスは2021年3月末に「ひのさと48」に関わる人が集まってペイントした(写真撮影/笠井鉄正)

虹色のバルコニーパネルや木のテラスは2021年3月末に「ひのさと48」にかかわる人が集まってペイントした(写真撮影/笠井鉄正)

虹色のカラーリングをほどこされた「ひのさと48」の見た目はもちろん、その中身もワクワクしたものがあふれだし始めているようだ。これからこの場所で何が起こり、日の里団地はどのように変わっていくのか。

お話を伺うために、「ひのさと48」のディレクター・吉田啓助(よしだ・けいすけ/東邦レオ株式会社)さんとスタッフの谷山紀佳(たにやま・のりか/同社)さんを訪ねた。

「ひのさと48」ディレクター・吉田啓助さん。ご自身も日の里団地内に分譲の物件を購入している(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」ディレクター・吉田啓助さん。ご自身も日の里団地内に分譲の物件を購入している(写真撮影/笠井鉄正)

ふたつのエリアが融合しながら里山的な暮らしをつくる

下の写真の広々とした更地は「ひのさと48」と隣接したエリアにある。かつて10棟の団地が存在していたが、そのうち9棟は取り壊されて2022年、64戸の新築戸建てが建設される「戸建てエリア(むなかた さとのは hinosato)」が誕生する予定だ。新築の戸建てエリアが築50年の団地に挟まれている風景にも興味が湧く。

「ひのさと48」の3Fベランダから、日の里団地58・59号棟を方面を眺めた風景。「ひのさと48」と団地の間の土地に新しく「戸建てエリア」が出現する(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」の3Fベランダから、日の里団地58・59号棟を方面を眺めた風景。「ひのさと48」と団地の間の土地に新しく「戸建てエリア」が出現する(写真撮影/笠井鉄正)

上の写真の逆向きバージョン。日の里団地58・59号棟から「ひのさと48」を眺めた風景(写真撮影/笠井鉄正)

上の写真の逆向きバージョン。日の里団地58・59号棟から「ひのさと48」を眺めた風景(写真撮影/笠井鉄正)

「戸建てエリア」の開発を担うのは、ハウスメーカーなど8社からなるJV(ジョイントベンチャー。特定目的会社)で、里山をイメージした街づくりが進められている。木々のなかに戸建てがゆったりと並び、大人も子どもも自由に伸びやかに散歩にでかけ、小さな自然を楽しむ。そんなイメージだ。

「戸建てエリア」に隣接する「生活利便施設エリア」として位置づけられているのが、かつての48号棟「ひのさと48」である。

現在、1階にはクラフトビールのブリュワリー&ショップ「ひのさとブリュワリー」、最新の木工加工機が設置された「じゃじゃうま工房」、コミュニティカフェ「みどり TO ゆかり」、シェアキッチン「箱とKITCHEN」、「ひかり幼育園 ひのさと分園」が入居。取材に訪れた日も子どもたちの声が響いていた。

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

この「戸建てエリア」と「生活便利エリア」を合わせて「宗像・日の里モデル」と呼ばれる団地再生プロジェクトとなっている。

クラフトビールを足がかりに、人と地域が交わり、広がる

2021年3月から本格的に稼働し始めた「ひのさと48」で今、何かと話題をふりまいているのがブリュワリー&ショップ「ひのさとブリュワリー」だ。団地の1階にクラフトビール工房というシチュエーション。聞いただけでワクワクするし、ここを目指してふらりと訪れる人も多い。

2021年10月までに、第7弾まで発売されている(写真撮影/笠井鉄正)

2021年10月までに、第7弾まで発売されている(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」の醸造タンクは2つ。東邦レオ株式会社の社員が醸造長となり、クラフトビール界で有名な「インターナショナル・ビアカップ2021」で賞を獲得した。すごい!(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」の醸造タンクは2つ。東邦レオ株式会社の社員が醸造長となり、クラフトビール界で有名な「インターナショナル・ビアカップ2021」で賞を獲得した。すごい!(写真撮影/笠井鉄正)

訪れた人が「おもしろいことをやっている団地がある」と周りの人に伝え、よい循環もできている。
「宗像市の離島・大島のみなさんも『日の里がビールとかつくるんなら、私たちにもなにかできるかも?』と独自の地域活性に取り組もうと動き出したり。周辺の活性化にもいい影響があるといいですね」と吉田さん。

お隣の福津市でクラフトビールづくりを始めたいという男性が、買い物&リサーチに訪れていた(写真撮影/笠井鉄正)

お隣の福津市でクラフトビールづくりを始めたいという男性が、買い物&リサーチに訪れていた(写真撮影/笠井鉄正)

また、「ビールを買いに来てくれたご夫婦が『私たち、実は、この48号棟に住んでいたのよ。懐かしいわ!』なんて打ち明けてくれたり。日の里団地との関係性が切れた方も、ビールをきっかけに思い出してくれて、さらに足を運んでくれるって素敵ですよね」と谷山さんもうれしそう。

おいしいアルコール飲料であるのはもちろん、人と人、人と地域を楽しくさせるコンテンツでもある。「ひのさとブリュワリー」はそんな役割も担っている。

ちなみに「ひのさとブリュワリー」のビール「さとのBEER」には、宗像での栽培が盛んな大麦が使われている。自分たちの足元にそんな農産物があるという、情報を知るきっかけにもなっている。

「ひのさとブリュワリー」のショップで大麦を見せてくれた谷山さん(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」のショップで大麦を見せてくれた谷山さん(写真撮影/笠井鉄正)

お金のつながりだけでないことが、持続していくこと

「ひのさとブリュワリー」「じゃじゃうま工房」などは吉田さんたちが運営している施設だが、2021年の春からそれ以外のテナントもぼちぼちと入居をし始めている。ウクレレの工房や就労継続支援のオフィスなど「ひのさと48」のコンセプトに賛同してくれた人ばかりだ。

「みなさんテナントさんであるし、もっと増えてほしいです。ただ、お金をもらったからスペースを貸すよ、という関係性は目指していません。みんなでこの場所を、この地域をどう楽しみ、どうしていくのか。一緒に考えられる関係性でいたいなと思っています」。そう話してくれた谷山さんは、入居者のことを「さとの仲間」と呼んでいる。「『ひのさと48』担当になって最初のころ、ついつい『さとの仲間』のことをお客さんだと思いそうになっていました。でもそうじゃないんですよね。日の里に一緒にコトを起こす仲間になりたいんです」

今はスタートしたばかりの「ひのさと48」だが、今後、持続的に活動を続け、10年後には運営を地域にバトンタッチしていく予定だ。それまでに仲間たちで何ができるのか、次代へ何を手渡せるのか、これからの課題でもある。

「ひのさと48」の一角には野菜畑があり、入居者やご近所さんがゆるやかに協力し合いながら育てている。もうすぐさつまいもの収穫(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」の一角には野菜畑があり、入居者やご近所さんがゆるやかに協力し合いながら育てている。もうすぐさつまいもの収穫(写真撮影/笠井鉄正)

日の里団地の子どもたちがドミノ大会を開催。「ひのさと48」でお化け屋敷をやりたいという声もあがり、スペースを提供する予定(写真撮影/笠井鉄正)

日の里団地の子どもたちがドミノ大会を開催。「ひのさと48」でお化け屋敷をやりたいという声もあがり、スペースを提供する予定(写真撮影/笠井鉄正)

テーブルの足は、団地のベランダにあった物干し竿かけを再利用(写真撮影/笠井鉄正)

テーブルの足は、団地のベランダにあった物干し竿かけを再利用(写真撮影/笠井鉄正)

10年後も変わらないもの、変わっていくものはなんだろう?(写真撮影/笠井鉄正)

10年後も変わらないもの、変わっていくものはなんだろう?(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」と2022年に完成する戸建てエリアのコンセプトは「サスティナブル・コミュニティ」である。そして「ひのさと48」持続可能にしていくものは、地域であり、人々であり、里山の自然である。

先日は地域の子どもたちのリクエストに応えて、クラウドファンディングで資金をつくり、団地の壁にクライミングのホールドを設置した。これからも多様な切り口で活動することで、人々に多様なワクワクをプレゼントしていく。

●取材協力
ひのさと48
UR都市機構

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 日の里団地を「ひのさと48」で再生。ビールやDIY工房、保育園などでにぎわう

SUUMOジャーナル

~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。

ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/

TwitterID: suumo_journal

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。